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デザセンは世界を知るための入り口|渡邉紀子さん

デザセンは2018年度で25周年を迎えます。「社会をデザイン」する視点に着眼した大会として開催してきた四半世紀の成果を、指導教員や当時出場した高校生へのインタビューを通して発信していきます。
 
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インタビュー[2]でご紹介するのは、高校時代にデザセン決勝大会に出場し、優勝経験がある渡邉紀子さんです。彼女はその後、東北芸術工科大学デザイン工学部コミュニティデザイン学科に入学し、デザセンスタッフとして3年間運営に携わりました。また現在、地元の富士吉田市に戻り地域おこし協力隊として勤務する傍ら、なんとこの4月から、母校の建築コース非常勤講師としてデザセンの指導を行うとのこと!様々に立場を変えながらデザセンと関わる彼女に、その意義をお話しいただきました。
 

関わり続けた5年間の成長

私は今、芸工大のコミュニティデザイン学科に通いながら、地元富士吉田市の地域おこし協力隊として活動しています(取材日2018年3月19日現在)。高校生が社会に出るまでに色々な選択肢を持ってもらえるように、高校生の地域活動を支援したり都会で働く社会人を呼んで話を聞く機会を作ったり、コーディネートをするのが主な仕事。こんな風に大学で勉強をしながら、自分がやりたいことをやるという進路は、高校生の最初の頃は考えてもいませんでした。私がいた富士北稜高校はほとんどの生徒が就職希望。私も当時進学はしたくなくて(笑)、ホテルマンかキャディさんになったら楽しいかな、と思っていました。考えが大きく変わったのは高校3年の時、デザセンに出場したのがきっかけです。

富士北稜高校時代の渡邉さん。(写真左:建築コースでの実習風景/写真右:サッカー部に所属していた頃の集合写真)写真提供:渡邉紀子さん

 

“当たり前”を疑うこと

高校に入学してから私は女子サッカー部に所属し、ずっと外でサッカーをしている生活でした。2年生になると福祉、ビジネス、建築などのコースに分かれて勉強をするのですが、教室よりも外で学びたいと思い、建築コースを選択。その中でコンペ班というアイデアを考えるグループがあり、そこでデザセンに取り組もうということになりました。グループ3人で考えたのは、男子と女子の制服を入れ替えていつもと違う世界を見てみようという『Sexchange Day』(デザセン2013年優勝提案)。グループの中に性同一性障害に興味を持っていたメンバーがいたこと、私が野球やサッカーなどを男の子に混じってやっていることに対して「なんで?」と言われた経験があったこと、そういったことから「男らしさ女らしさって何なんだろう?」と考え始めました。無意識に “男らしい、女らしい” という分類をすることで思考が停止し、これまで出会った人の本質まで見ていなかったのではないか、という気づき。家族や親戚がたどってきた “就職して普通に働く” というルートを当たり前に考えていた自分の価値観を一度疑ってみる機会になりました。 

デザセン2013決勝大会での発表風景

 

“できない自分” と向き合い、世界を知るための入り口に立つこと

自分たちのプレゼンテーションを作っていく中で、この提案は社会的に意義があるし自分たちの手で実現したい、と強く思うようになりましたが、高校の先生に同意を得られず実施することはできませんでした。でもいくら頑張っても認められない現実を知ることで、それを打破するにはもっと努力が必要なんだということも実感しました。高校生の時は、自分自身に対して、ちょっと成績がいい、ちょっと運動ができる、という認識で止まっていて、“できない自分”を見ようとしてなかったんです。デザセンを通して自分と深く向き合ったことで「こういう自分になりたい!」という“本当の自分像” が見えてきたのは大きな収穫でした。そう考えると、デザセンには私のこれまでの成長過程が沢山詰まっています。

そういった経験があって、東北芸術工科大学を志望し入学。デザセンのスタッフとして運営に関わってきました。高校生3人で出来ることはすごく限られています。そこに大人の知識を持った先生が仲間として加わり、さらにデザインを学んでいる大学生がチームサポートすることで、アイデアは成長します。私たちがしてもらったように、高校生のアイデアを大事に育て、課題を明確にしてもっと面白くするにはどうしたらいいかを考え、プレゼンに向けてブラッシュアップをしていきました。私自身、高校時代に価値観が変わる……良い意味で価値観を壊されるきっかけとなる言葉を、仲間や先生やデザセンを通して関わった様々な人たちとの会話の中で感じたので、そういった環境を作っていけたら、という想いがありました。(近年のデザセンスタッフの多岐に渡る活動内容の質の向上が評価され、平成29年度東北芸術工科大学 学長奨励賞を受賞しました。)
 

デザセン2017決勝大会に出場する高校生と引率教員を前にリハーサルや本番までのガイダンスをする渡邉さん。(写真:デザセン学生スタッフ撮影)

 

デザセンでの原体験が、自分の未来につながっていく

私は卒業研究として『新しい同窓会の仕組みづくり』を提案しました。それは、高校生が卒業後も自分自身と向き合いながら社会や地域とつながり、学び続ける機会を支援する仕組みとして、同窓会を機能させるというもの。この提案は学科で最高賞を受賞し、来年度以降、富士北稜高校の同窓会費から200万円の予算を奨学金として使っていくという、具体的な方向性まで決まっています。これまでは高校生の「やりたい!」という気持ちを一生懸命引き出していましたが、これからの対象は卒業生。やっていることの軸は変えず、これからも続けていきます。

なんとなく考えていたこと、言語では表現できなかったことが少しずつ明確になってくるプロセスや、これまでの経験や勉強が本当の自分自身や社会とリンクしながら形になっていくというデザセンでの体験が、私の原点です。そしてそれを実現するための力を大学で学びました。これまでやってきたことが自分の未来につながっている手ごたえを感じています。
 

コミュニティデザイン学科の卒業制作として発表した「同窓会」提案パネルの前で

 

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取材日:2018年3月19日
ライター:上林晃子
写真:志鎌康平

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