お知らせ

生徒と教師が1対1で対話し考えを深める|武田英幸 教諭

デザセンは2018年度で25周年を迎えます。「社会をデザイン」する視点に着眼した大会として開催してきた四半世紀の成果を、指導教員や当時出場した高校生へのインタビューを通して発信していきます。
 
—————
 
インタビュー[1]でご紹介するのは、昨年の「デザセン2017」に初応募で初出場を果たした『VRゴーグルで見つめるWORLD』山形県立山形西高等学校チームの指導教員で、同校の数学の教鞭を取る武田英幸先生です。進学校でデザセンに取り組む意義をお話しいただきました。

※VR:バーチャル・リアリティ(virtual reality)の略語。仮想現実。VRゴーグルは、人工的に制作した映像を、ゴーグルのような機器で仮想体験する装置。

進学校からデザセンへ初挑戦

私がデザセンを知ったのは10年ほど前。酒田の高校で教えていた時からずっと面白い企画だなとは思っていましたが、学習として取り組む時間をなかなか得られない状況でした。初参加に踏み切ることができたのは、赴任した山形西高等学校で1年生を担任することになり、総合学習の時間の課題として取り入れることができたからです。

高校に入学したばかりの新1年生が「社会を見つめ、課題解決するデザインを考えていく」という課題は生徒にとって大きいもののように思われますが、「高校の学習は中学までと違う」ということを体感できるきっかけになりました。社会に目を向け、身近な問題を解決するアイデアを考えましょう、と呼びかけても主体的な学びの活動をプログラムするのは教師にとっても難しい面があるので、デザセンは本質的な学びへの導入として簡易さもありましたね。

1対1の対話で生徒の考えに触れる重要性

指導においては発想法の練習などを少し行いましたが、アイデア自体は生徒に任せました。世の中にある何かと何かを組み合わせて新たに発想しよう、という指針を立てると、生徒はデザセンのホームページにあるいくつかのテーマ例から着想を得ていたようです。指導に特別なノウハウがあるわけではないので、生徒から出てきたアイデアを添削指導し面談をしながら少しずつ提案を形にしていきました。

最初に提出された企画書は、予想以上にどうしようもないものも多くて(笑)。それでも「これはどういうことなの?」と聞いたり、メンバー同士で話をしたりしていくと、次に持ってくるものは確実に深みが増しているんですね。それは、自分の提案について別の人の視点を交えてもう一度考えてみる、というプロセスができている証だと感じました。

生徒と教師が1対1で対話し考えを深める学習の1つに小論文指導があります。しかしそれは3年生になってから行うので、早い段階で生徒の考えに触れられるというのはいいですね。現在、総合学習の時間では個人研究や論文作成を進めていますが、デザセンに参加した生徒たちは、そういった課題に取り組む時も抵抗なく考えを進めていっているように思います。

 

進学校がデザセンに取り組む意義

 

東北芸術工科大学を会場に開催したデザセン2017決勝大会[山形西高等学校チームのプレゼンテーション風景]

初出場となった『VRゴーグルで見つめるWORLD』(デザセン2017年入賞提案)は、アニメなどの仮想世界を体感するのではなく、現実世界を見てみようという発想が評価されて決勝大会に進出することができました。VRゴーグルの使い方を考える、というより、もともと食料問題に興味ある生徒がいたので、それをより多くの人に知ってもらうにはどうしたらいいか、という考えを進めた結果、VRという技術と結びついたものです。
 
彼女たちが決勝大会を通して得たのは、自分たちが伝えたいことはある一面から見た確かさ、正しさであり、別の視点から見ることの大事さに気づいた点だと思います。そのためには、多くのものごとに触れ、感じ、考えていく必要がありますが、高校の中だけではそういったことを感じる機会自体、難しいものです。
 
当校は進学校なので、生徒にとっても教師にとっても大学受験が大きな存在感を持っています。前述したような多様な視点や考え方は、大学入学後に身につければいいからまずは勉強を、という風に私も考えていました。しかし現在、大学側から求められる学力も少し変化してきているように感じています。問題を発見する力、グループで協力して成し遂げる力、発想力、提案力、そういった能力を持った人が社会には必要で、入試で直接問われることはないものの大学としても意識しているようなのです。県内の進学校に、思考力・判断力・表現力を探究型学習によって育む探求科が設置されたのもそういった流れの1つでしょう。

決勝大会前のプレゼンテーションの身振り手振りを思いだして( 写真左から武田先生、柴田真由さん、酒井璃穂さん、近藤翼さん)

 

教師自身が社会に目を向け、豊かな学びを実践

我々はどうしても専門教科の枠の中で教えることになります。しかし大切なのは、数学を教えることではなく、数学で何を教えるかです。普段の授業でそれが実践できていればいいのですが、難しさを感じている場合、少し視点を変えてデザセンに取り組んでみると良い刺激になるように思います。

教師は生徒に「外に出て学びなさい、社会に目を向けなさい」と言いながらも、自分たちは学校の中にいることが多いのではないでしょうか。デザセンに参加して私が感じたのは、我々教師も社会の中に入っていかないといけない、ということ。今回はアイデアを出して終わりにしたものがほとんどでしたが、社会で実践してみるところまでやれると、学びはさらに豊かになっていくでしょう。今後は、生徒たちがもっと深く考え、広い視野を持てるような機会を、少しでも作れるような活動をしていきたいですね。
 

————–
取材日:2018年2月19日
ライター:上林晃子
写真:志鎌康平

Facebookでコメントする

このページのトップヘ