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山形版SDGsシミュレーションカードゲームの開発

佐藤朋子
[建築・環境デザイン学科]

はじめに
 2015年に国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。この中で掲げられた「持続可能な開発目標(SDGs)」は、社会、経済、環境の各分野における世界共通の課題に対して、2030年迄に実現すべき17の目標を具体的に定めている。国内では、人口減少や気候変動、地域格差など、多くの社会課題が生じている。日本でも、内閣府に持続可能な開発目標(SDGs)推進本部を設置し、SDGs達成への取組みが国を挙げて進められている。そして、先導的企業はビジネス戦略としてSDGs達成に取り組んでいる。また、人口減少が進む自治体や未来人材を育てる教育機関でもSDGsの考えを取り入れ始めている。都市部を中心に勉強会や講演会、イベントなどが連日のように開かれており、SDGs達成に向けて取り組む機運が高まっている。しかしながら、本研究テーマを設定した2018年時点で、山形ではSDGsという言葉を目にする機会は少なく、一部の企業や自治体、教育機関等で動き始めている段階であった。そこで、SDGsを地域に広める為の施策が必要であると考えた。本研究では、SDGsを山形に周知させる為の教育ツールとして山形版SDGsシミュレーションカードゲーム(以下、ゲーム)の開発を目的としている。

第1章 ゲームの開発
1-1.ゲームを制作するにあたって
 世界規模のSDGsを市民に理解して貰うには、身近な事柄に落とし込み、理解しやすくする必要があると考える。そこで、山形の身近にある個人のアクションが地域に与える影響を、社会、経済、環境を軸に視覚化していくことをゲームのコンセプトとし開発を進めた。地域の持続可能性を考える視点は複数ある。本ゲーム開発にあたっては、気候変動、地域経済の衰退、人口減少の課題を鑑み、更には、「第3次山形県環境計画」の内容を参考にして、環境問題や社会問題に配慮しながら経済的にも発展する持続可能な山形のビジョンを設定した(図1)。このビジョンの実現を促進させるアクションと抑制させるアクションを、山形の身近にある題材から設定した。完成に向けて、試作、試行、ヒアリング、改良を何度も重ねた。

1-2.ゲームの概要
 以下、簡単なゲームの概要である。プレイヤーは山形市民の設定で、山形の身近なアクションを起こしながらゲームを進めていく。このゲームは勝ち負けを決めるものではなく、個人がどのような行動をとると、地域はどのようになっていくかを考えながらシミュレーションする為のものである。ゲームは前半と後半の2部制で、前半は、個人のゴールを目指すことに集中してアクションを起こしていく。後半は、山形の社会、地域経済、環境の状況を示す「やまがた状況メーター」を使い、プレイヤー全員で、より良い山形の姿に変えていくために、各々がアクションを考えていく。「やまがた状況メーター」は、個人が起こすアクションの内容によって変動していく。前半では、個人の欲望のままにアクションを起こすことで地域が荒廃していくが、後半では、地域にも意識を向け、他プレイヤーと協働しながら、地域を良い方向へと変えていく行動を考えるようになる。

1-3.大学の学園祭におけるSDGs推進展示とゲームの実証実験
 2019年10月14日、学園祭の学生展示部門にてSDGsを推進する展示を行った。その際、ゲームの実証実験を行い、定性調査した(図2)。所要時間約30分のゲームを4回開催し、小学4年生から社会人まで幅広い年齢層の11人に体験して貰い、ゲーム後にインタビューをした。その結果、ゲーム後半では全員が地域に良い影響を与えることを考えながらアクションを選んでいたことがわかった。そして、ゲームをする中で、自分が選ぶ行動によって地域に与える影響が違うことの気付きがあったという回答が得られた。

第2章 山形県内各機関へのSDGs実態アンケートとニーズ調査
 ゲームのニーズ調査をするために、山形県内各教育機関193校(山形市内全小学校37校、山形県内全中学校99校、山形県内全高等学校57校)を対象に、アンケート用紙を郵送し、FAXまたはメールで回答を得た。27校から回答があり、回収率は14.0%であった。アンケート結果からゲームへの興味について93%の学校が肯定意見であった。特に、職場でSDGsが話題になっており、且つ、授業にSDGsを既に取り入れている、あるいは、取り入れることを検討している学校の関心が高い傾向にあった。電話インタビューから、既にSDGs教育を進めている庄内地方にある中学校では、更なる教育を進めていく為の教材として関心を寄せていた。また、現地調査から、置賜地方にある高校では、世界規模のSDGsを生徒が身近なことから考える為の教材として関心を寄せていた。一方、SDGs教育を取り入れることを検討していた県立遊佐高校では、教材としてのゲームに加えてSDGsの講義にも関心を寄せていた。

第3章 ゲームを使ったプログラムの開発と実証活動結果
 ニーズ調査から、教材としてのゲームのニーズと、SDGsの講義も含めたニーズとがあった。そこで、理解を深める為の講義とゲーム、振り返り、SDGsの各目標を知るための山形版SDGs17目標クイズを行う一連のプログラムを開発した。2019年12月22日、ガールスカウト山形連盟の集会で80分のプログラムを実施した(図3)。参加者は、小学6年生から成人までの27人であった。プログラム後にアンケートを実施したところ、ゲーム後の感想として「SDGsのことが自分にも関係あると感じた」を選択した人が85.2%と最も多かった。2019年12月23日、県立遊佐高校の授業で120分のプログラムを実施した。参加者は1年生18人であった。プログラム後にアンケートを実施したところ、ゲーム後の感想として「楽しかった」、「SDGsのことが自分にも関係あると感じた」を選択した人が66.7%と最も多かった。

おわりに
 世界規模のSDGsを山形の身近なことに落とし込んだ本ゲームは、SDGsが自分事であることを知るきっかけになっていた。また、本ゲームは世界規模のSDGs教育を進める手助けにもなり得た。今後の可能性として、本ゲームを教育機関の他に自治体や企業などに展開する場合には、実施場所に合わせた対応が必要である為、更なる活動が必要である。SDGsの目標17では「パートナーシップで目標を達成しよう」と言っている。本研究は数々のパートナーに支えられた。更なる活動に向けてもパートナーを必要としている。