| エピソード1 | 鈴木恵美 ・なぎ
チカチカ カモシカ キレイナ トリガ
家の前に川が流れていた。住宅地に流れる川。
今は埋め立てられてきれいな緑道となった。
家の横には小さな赤いお稲荷さんが建っていて、夕方になればチカチカと薄暗い外灯がつく。
子どもの私にとってそれはそれは不気味だった。
毎年夏になるとその川には蛍が飛び交い、またある年の秋には部屋の窓のすぐそこを突然、カモシカが通って行ったこともあった。
そして一度だけ私は見た。
脚がすうっと長く、細く、とても鮮やかな黄緑色をしたきれいな鳥が一羽、川辺に佇んでいるのを。
それは一瞬だった。
その鳥の周りだけ時間の流れがちがうような、別の世界のものを見たような。
そんな不思議な感覚だったのを覚えている。
チカチカ カモシカ キレイナ トリガ
川村回想| 物語はぼくたちの生活のすぐそばにある風景から始めたいと思い、このエピソードをはじめに選びました。鈴木さんの語りも、冒頭にふさわしい凜としたものでした。制作段階で登場する鳥をどう表現するか、かなり悩みました。派手に羽を広げる仕掛けや、サイケデリックなデザインも考えてみましたが、このエピソードの持つひっそりとしたイメージが損なわれそうだったので、水の波紋と草むらを歩く鳥の足だけが見えるシーンにしました。色々な鳥の足を作って実験した結果、細い竹を使うことにしました。竹の節がまだ見ぬ奇妙な鳥とぴったりでした。