- エピソード9 | 會田由美子・ゆうま
- ゴンゴサマ
むかしむかし、千歳山の麓にあこや姫というとても琴の上手な美しいお姫さまが住んでいた。
ある夜のこと、あこや姫が琴を弾いていると、姫の奏でる琴の音に合わせて笛の音が聞こえてくる。
見ると、松の木の下で若者が笛を吹いていた。
若者は松の木の下から、じっと姫を見つめている。
惹かれあった2人はやがて結ばれる。
しかし、ある晩若者は姫に正体を告げた。
彼は千歳山の松の精。
翌日、刈られる運命にあると。
驚き悲しむ姫を抱きしめながら、若者は自分の思いを伝える。
「どうかあなたが、せめて死の手引きをしてください。」
そして姿を消した。
次の日、大きな松の木が倒された。
しかし、大の男たちがいくら力を合わせて引いても木は動かない。
死の手引きとはこのことか、と姫は気づき松の木に駆け寄った。
涙を流しながら縄を引くと、木はするすると動き出し、村の人たちや役人はただただ驚くばかり。
死へ向かう松の木を撫でながら姫は、「さようなら、私の愛しい人」と囁いた。
その後、姫は出家し、刈られた松の場所に代わりの松の木を植え、そのそばに草庵を建てた。
月が昇る夜には琴を奏で、恋人を弔った。
和歌や琴などの学問を身につけていたあこや姫のところには、村の娘たちが習いものにやってくるようになった。
習いごとのお礼が米一升では多いから、その半分の5合しか受け取らなかったので、姫はごんご様と呼ばれ、松の木を想いながら静かに余生をおくった。
ゴンゴサマ
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