エピソード13 | 小泉晴香・ゆづき
トンテンカンテントンテンカンテン
昔むかしのお話です。
腕のいい鍛冶屋が、トンテンカンテントンテンカンテンと刀を作っていました。
そこに若い男が弟子になりたいとやってきました。
若い男はとても熱心で、すぐに鍛冶屋と同じようにトンテンカンテントンテンカンテン刀を打つようになりました。
この鍛冶屋には美しい娘がおりました。
この娘に恋した若い男は、鍛冶屋に結婚したいと告げると、鍛冶屋は少し考えて「では刀を一晩に100本作れたら娘との結婚を許そう」と答えました。
夜になると若い男はトンテンカンテントンテンカンテン刀を打ち始め、みるみるうちに3本、5本と完成させていきます。
夜遅くなったころ、鍛冶屋は心配してそっと覗きました。
すると刀が山のようにつまれていました。
そのとき鍛冶屋は若い男をみて驚きました。
なんとその男はいつもの男ではありません。
まるで鬼です。
トンテンカンテントンテンカンテン火花を散らしてあたり一面が火の海です。
鬼は一心不乱に刀を打ち続け、次つぎに刀を完成させていきます。
やっと東の空が明るくなったころ、刀は99本になっていました。
その脇で鬼は最後の一本を作っている途中で倒れ死んでいました。
鍛冶屋は亡くなった男を哀れに思い、亡骸を神主に頼んで庭の隅にうめ、そこに鬼鎮様というお宮を作ってお祭りしました。
この神社では決して鬼を粗末に扱う話は厳禁で、ももたろうの話も厳禁です。
節分のときの掛け声も「福はうち鬼はうち」。
男を鬼にしてしまった鍛冶屋のせめてものつぐいなのかもしれません。
福はうち鬼はうち
川村回想| 埼玉に伝わる昔話。偶然「豆まき」に関するエピソードが重なりました。同じ豆まきでも、鬼に対する意味合いが真逆だったのは興味深い。結局のところ鬼というものは何なのか、いろいろ考えさせられます。このエピソードでは、人間の悲しい念を強烈な炎で表現したくて、炎の影絵を1畳程度の大きさで制作しました。勢い余って、一人では動かせないサイズで作ってしまったので、上演時は学生さんたち二人がかりで操作してもらいました。おかげでゆらゆらと揺れる怪しい炎ができました。