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米代川流域、米沢盆地、信濃川流域における三脚石器の地域性と影響関係についての一考察

亀山絵莉香
[歴史遺産学科]

1.はじめに
 「三脚石器」とは、接地する三足の脚部を持つ立体的な打製・もしくは磨製石器のことで、脚部の先端を接地させるために下部に抉りを作り出していることがこの石器の大きな特徴である(図1・2)。出現時期は縄文時代前期から後晩期と幅広く、現在までに北海道から富山県まで日本海側を中心に多くの遺跡で出土が確認されている。その中でもまとまって多量に出土している地域が、秋田県の米代川流域、山形県の米沢盆地、新潟県の信濃川流域とされる(図3)。

2.研究目的
 三脚石器は近年の出土資料の増加により分布の傾向については明らかになりつつあるが、機能・用途、伝播をはじめ多方面において未だ解明されていないことが多い。本研究においては三脚石器の形態的特徴に着目して、各地域の資料を観察・分析し、それらのデータを比較することによって三脚石器の地域性を明らかにしたいと考える。さらに分析結果をもとに、周辺地域・遺跡の出土例等も踏まえながら地域間における三脚石器の相互交流・影響関係、その有無について一考察を加える。

3.分析方法
 分析対象とする遺跡は、三脚石器が多量に出土している秋田県の伊勢堂岱遺跡、山形県の窪平遺跡・成島遺跡・台ノ上遺跡、新潟県の清水上遺跡である。図4には分析対象遺跡のほか、参考とした遺跡の位置も記している(図4)。上記の遺跡を対象に以下の内容の分析を行なった。㈰法量(長幅、厚さ、重量)の計測・分布図作成・分析 ㈪各地域における使用石材の集成 ㈫自然面の部位と有無:各地域の三脚石器の素材の傾向を分析する。㈫形態分類:脚部の形状に焦点を置いた6形態の分類を作成。さらに各地域の三脚石器の形態的特徴には、技術的な面も反映されていると考え、技術面にも考慮した分析を行なう。

4.結果と今後の展望
 各地域の三脚石器資料は『三脚石器』と一括りにされていながらも、その様相は形態面・素材・技術的側面などあらゆる面において各地域の特色があらわれていることが分かった。また、それらの形態的特徴は素材選択が大きく関係している。各地域の特色があらわれている一例として、各地域の三脚石器の長幅分布図を図5〜7に示した。図5が米代川流域、図6が米沢盆地、図7が信濃川流域である。
 米沢盆地・信濃川流域間においては、縄文時代中期前葉から中葉に三脚石器を含む文化的交流があった可能性は大いに考えられる。今までは分布状況や同時期に隆盛期を迎えたということからその可能性が蓋然的に述べられてきたわけだが、今回その裏付けとなる事例を示すことが出来たと考える。今後の展望としては、今回具体的な根拠を以て論じることが出来なかった他の地域間における地域交流やその有無について更なる検討を加える必要があると考える。これらの地域間の影響関係や伝播などを想定する上では、出現した時期の幅が1つの問題となる。時期幅と時代背景を考慮しながら、それに対応した出土遺跡の情報を得る必要があり、伝播を想定するならば今後の三脚石器研究においては乗り越えていくべき重要な課題である。