残雪の肘折温泉へ
2012/05/09
肘折温泉は現在、生活道路の一部が地滑りで崩落し、交通に支障がでています。現場は、ちょうど温泉街に下っていく急勾配のカーブで、崩落は今も断続的に続いています。温泉街に沿って流れる銅山川は、この冬が大雪だったため、月山の雪解け水で水量も勢いもはげしく、崩落の土砂で川が塞き止められると集落の一部がダム湖化するおそれがあり、緊張状態が続いています。
(詳細:肘折青年団ブログ→ http://hijiori.jp/seinendan/)
昨年の東日本大震災の風評被害、記録的な大雪による交通マヒ、そして今回の地滑りによる生活道路の遮断と、自然の猛威により苦境が続く肘折温泉。崩落が連日ニュースや新聞で大きく報道されていたので、温泉街も閑散としているのではないかと、このゴールデンウィークに、家族で応援を兼ねて泊まりにいきました。
肘折温泉の入口にあたる斜面が崩落したため、ずっと川下にある「塩」という集落のY字路を、いつもとは逆にハンドルを切り、反対の尾根をつたって温泉街を目指します。しばらく走ると、舞踏家の森繁哉さんの古民家劇場「すすき野シアター」に到着しますが、そこから先は冬期は閉鎖される高低差の激しい峠道。僕は肘折にはもう6年通っていますが、はじめてのルートです。
報道で「迂回路」と呼ばれているこの峠道は、そんな形容は似合わない、美しい景観が楽しめるルートでした。まだ1.5メートルはある雪の層から靄が立ちのぼり、その背景に黒い山肌と、ブナの萌黄が見えます。ところどころ山桜も咲いていました。肘折ホテルのご主人・柿崎雄一さんによると、晴れていると月山や葉山がとても美しく見えるそうで、温泉街の人々も、季節のよい頃は、車窓からの景色を楽しむために、わざわざこのルートを通るそうです。ちなみに、肘折温泉の桜の開花は札幌とほぼ同じだそうです。
閑古鳥が鳴いているのではと心配していたのですが、迂回路を抜けて温泉街にいざ到着してみると、さすがゴールデンウィーク、賑わっていました。ざっと見たところ、山形県内よりも県外からの湯治客が多いようで、肘折には珍しく都会から来たらしい若者のグループも見かけました。僕たち家族が定宿にしている肘折ホテルは県外ナンバーで駐車場は満杯、大きな玄関にもずらりと靴が並んでいます。福島の少年スポールクラブがスキー合宿に来ているようでした。
娘たちにとって宿の主人・柿崎さんは「親戚のおじちゃん」のような存在。絵本を読んでもらってます。
滋味ぶかい湯につかり、美味しい山菜料理をいただいて、夜は肘折ホテルのカウンターで、地区の若者たちと、この夏の『ひじおりの灯』について、そしてこれからの肘折温泉について語り合いました。ここで『湯の里ひじおり』を撮り、現在は『よみがえりのレシピ』が好評上映中の渡辺智史監督も加わって、夜が更けるまで杯を重ねました。聞けば、崩落が起こってからもう何人も、かつて『ひじおりの灯』に参加した卒業生たちが駆けつけてくれたそうです。
柿崎さんは、「去年・今年と、どうしてこう大変なことばかり続くのか…」と嘆きつつも、「宝永6年(1709年)から享保13年(1728年)の間に、集落が全焼する大火が3度もあったそうです。それでも村を再建して、今でも住みつづけているというのは、よほどここに魅力あるんですね。ご先祖に負けないように、僕らも頑張りますよ」と。頑張る人たちのいるところだから、また会いにきたくなる。ここだから「お疲れさま」が染み入る。今年の『ひじおりの灯』も、ぜったいに成功させたいなぁ。
これからますます新緑は美しく、山菜もおいしくなる肘折温泉郷。新年度スタートのギアを少しゆるめて、湯治場で骨休めはいかがでしょうか?
宮本武典