初夏の肘折スケッチブック

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田中望さんのスケッチブックより(※以下の写真も同じ)

5/26-27-28と、6/2-3-4の2回に分けて、今年の『ひじおりの灯』を描く学生・卒業生たちによる取材旅行がおこなわれました。2日目の夜には、周辺を散策し、地元の人々の話を聞いて感じたことを、灯籠絵のプランドローイングにまとめて発表します。

肘折温泉に向かう前に、僕から学生に以下のメッセージをメールでまわしました。

「取材旅行は3日間ですが、初日は場所決めや温泉街散策、2日目も少し足をのばしての軽いトレッキングがあるので、個々人の取材時間は実質〈半日+α〉です。2日目の夜の灯籠絵プラン発表会は、地区の皆さんも参加し、毎年楽しみにされています。短い時間ですが、全身の感覚を研ぎ澄まして、灯籠絵のイメージをつくってください。これは、大学院生だから可能な行程だと思っています。また、このプロジェクトは、担当する旅館や商店のみなさんとのコミュニケーションが、成功の鍵になります。良いコミュニケーションを心がけてください。自分が語るよりも、聞き上手になってください。厳しい自然を切り開いて生きている人々に敬意をもってください。そして、肘折の人々にも、みなさんの普段の作品を理解してもらう必要がありますから、作品ファイル(ないしはそれに准ずる資料)を必ず持参してください。僕は発表会から合流します。みなさんがどのような物語を聞き、それを自分なりにどう変換して絵物語るのか、楽しみにしています。」

発表会は深夜まで、およそ3時間に及びましたが、どのプランも興味深いものでした。去年、評判がよかった日向かほりと佐藤真衣の作品が影響を与えていたのかもしれませんが、現実の肘折温泉の風景を背景に、動物や植物、もののけの類がいきいきと交わり脈動する『鳥獣戯画』のようなスケッチが多かったですね。学生たちの発表を聞きながら(ビールも飲みながら)、萩原朔太郎の小説『猫町』を連想したりしました。

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現在の田中望さんのアトリエ。明日、参加者に月山和紙が配られ、灯籠絵の描画がスタートする。

前のブログでも書きましたが、崩落による迂回路はかえって葉山・月山の美しい山並みを楽しむことができ、山の奥へ奥へと蛇の背中のようにうねりなが続く峠道の「行き止まり」に、パッとひらかれる肘折温泉郷。黒い山肌に雪と新緑をまとったその姿に、学生たちは俗世とは離れた「かくれ里」のような印象をもったのかも知れません。
図鑑や、もしくは絵葉書的な絵がこれまでの『ひじおりの灯』には多かったのですが、今年は肘折温泉という舞台で、そこに暮らす人々が森羅万象とともに交わる、夏の夜にふさわしい幻想的な絵物語になりそうです。

宮本武典

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取材旅行の様子(美術館大学センタースタッフ立花泰香さんの撮影)

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