「この夏こそ湯治を」―震災と『ひじおりの灯』
2011/07/10
蝉こそまだ鳴いていませんが、山形の気温はどんどん高くなっています。
また夏がめぐってきました。
『広島原爆の日(8/4)』『長崎原爆の日(8/9)』『終戦の日(8/15)』と、
この国に生きる私たちにとって、夏は鎮魂の季節でもあります。
今年で5年(回)目の開催となった『ひじおりの灯』は、
肘折温泉郷の盆迎え/盆送りの期間にそって点灯しており、
灯ろう絵が連なる季節には、
月山信仰の火祭や、奉納相撲、精霊流し、地蔵盆など、
地霊とヒトが、死者と生者が、今と昔が交わる地区の行事が執り行われます。
東北にとって特別な、2011年の夏。
『ひじおりの灯』は、復興支援の動きとダイレクトにつながるものではありませんが、
灯ろう絵を描く学生たちはみな今回の震災を経験し、
また、肘折温泉も3.11直後に被災者の受け入れをおこなったことから、
湯治場の濃密な夜に灯される33基の絵物語には、
鎮魂や、希望や、ささやかな日常への愛情が織り込まれているはずです。
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2011年、夏。
大震災の哀しみ癒えぬ東北。
それでも、小さな希望がたくさん生まれている東北。
父さん、母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、子どもたち…
みんなみんな精一杯、未来にむかって生きはじめた東北。
でもちょっとここで、骨休めをしませんか?
万年雪を冠した霊峰・月山。
その麓で1200年余も続く素朴な湯治場〈肘折温泉〉に、
今年も灯籠「ひじおりの灯」を飾ります。
「この夏は、みんなで湯治にいらっしゃい。」
(2011年ポスターのリード文より)
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先週・7/8は、現在急ピッチで制作がおこなわれている、
2011年の新作灯ろう絵の〈中間報告会〉でした。
春の合宿取材以降、それぞれに作画を進めている学生や卒業生たちが、
やまがた藝術学舎に制作途中の『ひじおりの灯』を持ち寄り、
1週間後に迫った提出〆切(表装のため点灯半月前に絵を仕上げます)の前に、
それぞれの表現、技法、素材などについて情報交換をおこないました。
肘折温泉からは、つたや肘折ホテルの柿崎雄一さんをはじめ、
青年団の面々に来ていただいて、進行状況を見てもらいました。
今年の『ひじおりの灯』は、震災の影響で、
33基すべてを新作に張り替えることができませんでした。
それでも23基の新しい灯ろう絵を、温泉街で披露します。
また、歴代の参加教授陣(若月公平/三瀬夏之介/中村桂子)の作品や、
2010年に好評だった『ひじおりの灯』も、いくつかを再点灯します。
それから、点灯期間も半月短縮し、201年は8月のみの実施とします。
(例年は7/13〜8/31まで点灯)
中間報告会で印象的だったのは、「日常」感のある、緻密で具象的な作品が多かったこと。
肘折温泉の日々の営みが、画学生たちの手で丁寧に描かれています。
示し合わせたわけでもないのに、「まねき猫」を描いた学生が3名もいたのですが、
それは、3.11以降の一時期、お客さんがまったく来ない肘折を心配して、
常連の湯治客が(客を招く)「まねき猫」を贈ってくれたからだそうです。
学生たちは取材先で、それぞれ同じようなエピソードに出会ったわけですね。
(過去4年間の『ひじおりの灯』で、まねき猫を描いた学生はいません)
震災から明日で4ヶ月。
未だ哀しみのなかにいる東北だからこそ、今年の『ひじおりの灯』には、
自分たちの足元を、地域を、風景を、日々をきちんと見つめよう、
そんな若者たちの想いが反映されているようです。
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8月7日[日]に実施される『肘折絵語り・夜語り』は、
灯ろう絵を描いた若者たちが全員、肘折温泉を再訪して、
それぞれの『ひじおりの灯』に込めた想いを語る恒例のイベント。
夜の温泉街をそぞろ歩きながら、
一つひとつの『ひじおりの灯』を作者の解説付きで鑑賞します。
絵の裏側にあるエピソードがたくさん語られ、
毎年とても盛り上がります。(その後の懇親会も!)
『ひじおりの灯』の鑑賞は、ぜひ宿泊付きで、
肘折温泉での湯治とともに楽しんでもらいたいです。
夏の朝市、トレッキング、湯めぐり、夜語り、地元の若者たちとの交流…と、
肘折で過ごすいくつもの時間のなかに、灯ろうの光があります。
8/7は僕が『絵語り・夜語り』案内人を務めます。
宮本武典(美術館大学センター主任学芸員)