第1回:「自分たちができることって?」

第1回:「自分たちができることって?」
6月28日(火)17:30−19:00

青山ひろゆき(画家/美術科洋画コース講師)× 前田哲(映画監督/映像学科准教授)

■青山ひろゆきの3.11
その日は東京芸術学舎で卒展の搬出作業をしていた。「外へ逃げろ!」と大きな声を出して、学生たちを避難させるのに必死だった。その晩は40名ほどの学生と中村桂子先生と、梱包材のエアキャップを布団がわりに雑魚寝した。翌日は東京のホテルに1泊し、3日目の早朝、宇都宮線と友人の車を使い、なんとか山形へ戻ることができた。
ところでうちの妻は山形市の社会福祉協議会で働いている。震災直後後から2泊3日で福島県相馬市や宮城県などへ保健師として派遣され、忙しそうにしている。うちは子供も小さいので、僕までボランティアに出かけたら家庭が大変になると考え、自分は動かないことに決めていた。大学内で福興会議などが活動しているのを横目に、洋画の学生も「自分たちも何かしたい」と相談にやってきたが、モヤモヤした気持ちのまま、その後の日々をやり過ごしていた。しばらくしてグラフィックの学生がペンキをもらいにやって来た。「先生もワークショップ、やったらいいのに」という一言で、そうかと思った。わざわざ被災地に行かなくても、できることがあるんじゃないか。ちょうどそのタイミングで福島大学の先生から巨大な鯉のぼりの制作を依頼された。僕は山形で避難所になっている総合スポーツセンターを訪ね、そこにいる人たちと鯉のぼりのうろこづくりのワークショップを行うことにした。避難所の被災者だけでなく、ボランティアの人、さらには片桐先生のチュートリアル「だがしや学校」の協力で七日町のほっとなる広場にいる人にも、うろこ作りに参加してもらった。ワークショップを始める前は、避難所にいる人に対して、少しだけ偏見をもっていた。ワークショップをしても悲痛な面持ちで暗いんじゃないか、ちゃんと楽しんでもらえるだろうか、と心配でならなかった。しかし始めてみると、心配は杞憂に過ぎなかった。モノづくりというのは、その時々の記録でもあり、証でもある。僕は今までたくさんのワークショップを行ってきたが、山形の避難所でのものが、一番記憶に残るものとなった。最終的に200枚近いうろこが制作され、全長4メートルの鯉のぼりが完成した。しかし残念なことに完成した鯉のぼりは放射能の影響で、福島の空を舞うことはなかった。「福島に帰りたい」という被災者の想いを馳せた鯉のぼりは、山形の空を力強くはためいていた。

■前田哲の3.11
渋谷で映画を観ていたら、映写がストップした。「退場される方には再鑑賞用のチケットをお渡しします」と、館内放送があった。最後まで観たかったので、そのまま映画館に残った。途中4回ほど映写がストップしたが、なんとか最後まで観ることができた。映画館を出て、打ち合わせ場所へ向かった。しかしそのビルには入ることができなかった。連絡がとれず、途方に暮れてビルの前で立ち尽くしていたら、打ち合わせの相手がやって来た。場所を変え、近くのカフェに入り、音が消してあるテレビ画面をふと見ると、大量の車が流されていく場面が目に入ってきた。「なにかの映画のシーンかな」と一瞬思うが、そうではなかった。「9.11」のあのジェット機がビルに突っ込む映像を見た時と、同じ感覚に襲われた。

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プロフィール
■青山ひろゆき
画家。福島県生まれ。東北芸術工科大学大学院修了。主な個展として、「New Art Scene in Iwaki青山ひろゆき展」いわき市立美術館(福島)、「青山ひろゆき展−お気に入りの場所‐」清須市立はるひ美術館(愛知)、YOKOI FINE ART(東京)、YUNG ART TAIPEI(台湾)、西武池袋本店(東京)。グループ展として、「ゆらめく日常アートの交差点〜新進アーティストの視点〜」郡山市立美術館(福島)、「生まれるイメージ」山形美術館(山形)、「phantasia」Bunkamura Gallery(東京) 、ROPPONGI HILLS A/D GALLERY(東京)、 ART BEIJING(中国)、ART TAIPEI2009(台湾)、アートフェア東京(東京)、その他CHRISTTE’S HONG KONG(香港)など。

■前田哲
映画監督。大阪府生まれ。助監督として、伊丹十三、滝田洋二郎、阪本順治、松岡錠司、周防正行らの監督作品に携わった後、1998年に相米慎二監督のもと、CMから生まれたオムニバス映画『ポッキー坂恋物語・かわいいひと』エピソード3で劇場映画デビュー。主な映画作品として『sWinG maN』(2000年)、宮?あおい主演『パコダテ人』(2002年)、『棒たおし!』(2003年)、『ガキンチョ☆ROCK』(2003年)、伊坂幸太郎原作『陽気なギャングが地球を回す』(2006年)、松山ケンイチ主演『ドルフィンブルー』(2007年)、妻夫木聡主演『ブタがいた教室』(2008年)、市原隼人主演『猿ロック』(2009年)がある。最新作は、刑務所内の男たちが1年に一度だけ出される豪華なおせち料理を賭けて、人生で一番おいしいメシの思い出話でバトルする、マンガ原作の映画『極道めし』が、2011年9月に公開予定。

企画:和田菜穂子(美術館大学センター准教授)

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TUAD mixing! 2011|「それぞれの3.11」8人のリレートーク

TUAD mixing! 2011

デザイン:奥山千賀(FLOT)

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mixing-b.pdf(400KB)

TUAD mixing! 2011
それぞれの3.11|8人のリレートーク

未曾有の大被害を被った東日本大震災。私たちの暮らす東北は、復興へ向けて新たな一歩を踏み出している。本年度のTUAD mixing! は、様々な分野で活躍中の本学教員による対談とした。それぞれの視点から、自分のライフワークと「3.11」について語る、8人のリレートーク(4回シリーズ)である。今だから、東北だから、みんなで語り合い、みんなで考えようではないか。

会場=東北芸術工科大学 本館1階ラウンジ
入場無料/事前申込不要
主催=東北芸術工科大学
企画・お問い合わせ=美術館大学センター 
tel: 023-627-2091
email: museum@aga.tuad.ac.jp

Schedule

「自分たちができることって?」

第1回:6月28日[火]17:30→19:00
「自分たちができることって?」
青山ひろゆき(画家/美術科洋画コース講師)× 前田哲(映画監督/映像学科准教授)

第2回「ヒトとモノの記憶」

第2回:7月6日[水]17:30→19:00
「ヒトとモノの記憶」
出演=藤原徹(修復家/美術史・文化財保存修復学科教授)×原高史(アーティスト/グラフィックデザイン学科准教授)

第3回「東北の未来を考える」

第3回:7月13日[水]17:30→19:00
「東北の未来を考える」
出演=三瀬夏之介(画家/美術科日本画コース准教授)×馬場正尊(建築家/建築環境デザイン学科准教授)

第4回:7月20日[水]17:30→19:00
「自然と向き合う」 田口洋美(環境学者/歴史遺産学科教授)×辻けい(アーティスト/美術科テキスタイルコース教授)

第4回:7月20日[水]17:30→19:00
「自然と向き合う」
田口洋美(環境学者/歴史遺産学科教授)×辻けい(アーティスト/美術科テキスタイルコース教授)

ナビゲーター:和田菜穂子(キュレーター/美術館大学センター准教授

過去のTUAD mixing!

TUAD mixing! 2009

www.tuad.ac.jp/museum/archive/1007_mixing2009/

TUAD mixing! 2010

www.tuad.ac.jp/museum/exhibitevent/index3.html

アニュアルレポートをダウンロード
AR2010-p4463.pdf(1.6MB)

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