展覧会後の「声」

展覧会「記憶の声」は、「声」を発してもらうことをプロセスの第一歩としておりました。

展覧会終了後に集めたみなさんの「声」は、次のフェースに向けた第一歩ということで、

私たちはとても大事に思っています。

 

今、感想レポートや展評など、みなさんの「声」をじっくり受け止めているところです。

学芸員の授業では毎年、展評(展覧会レビュー)を課題に出しています。

展評とは、個人の感想文ではなく、批評する眼識をもち、自分なりの評価分析を伴うものを言います。

文芸学科でも「創作演習」という授業で、レビュー記事が課題として出されていました。

ここに、いくつかのレポートの抜粋を紹介したいと思います。

  

  

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このプロジェクトは、これまでの私の展覧会のイメージを覆すものだった。展示会場に足を踏み入れさえすれば、視覚的に入ってくる展示物から何らかが得られる、と以前の私は展覧会を受動的な鑑賞の場としてとらえていた。しかし今回は違った。壁や椅子に張られた無数のQRコードを見ても無機質で、読み取らなければ展覧会は始まらない。また、寝そべりながら声を聞く「記憶の風景」のエリアでは、ハンモックに乗って揺られるからこそ体感できるものがあった。鑑賞者が常に能動的でなければならない。さらに展示期間中は固定された空間としての会場ではなくなっていた。むしろ、時が流れ、人が集い、声が交わり集積されていく、という動的な空間となっていた。鑑賞者である学生をつなぐ役割を担う、coiceという学生スタッフがこのプロジェクトに多く関わっているという点においても、新しい展覧会であった。

(美術科1年)

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「声」そのものを展示する、というのはなかなかな珍しい例である。様々な博物館を訪れたが、現代芸術としての「声」(ジョン・ケージなど)や、歴史博物館における重要な証言の展示を除けば、前例をみないものであった。それだけに「声」を展示することの難しさは容易に想像でき、展示方法によっては鑑賞者にとっても難しい展示になるのでは、と訪れる前に考えていた。一体どのような展示がなされているのか、期待と興味を持って訪問した。

実際に展示室に着くと、驚いたことにエレベーターホールの照明が落ちていた(暗くなっていた)。そこには天井から吊るされたサビキ状の電球と、その下に椅子が置かれていた。音声が流れているが、東日本大震災の証言が多く流されている。ビジュアル的にも強い印象を与えたが、社会性をもつメッセージは、ドクメンタでみた現代芸術作品群を思い出させた。

(中略)本学関係者の「声」を録音して保存されたものに、様々な媒体を通じつながることができる今回の展示は、トークショーという「生の声」との対比が重なり、興味深いものとなった。3回訪れたトークショーはどれも中身は違っていた。保存されており個別に存在している不変の「声」と、目の前でリアルタイムに発生する「声」は、この展示の幅を広げる上で、重要なものだったに違いない。

(美術科2年)

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創作と鑑賞によって精神の充実体験を追求する文化活動、という定義の中にさまざまなアートが存在している。私たちはどのように文化活動を行っているのだろうか、人が芸術を通して行う活動自体に興味を持った。

椅子を使った屋外ワークショップに参加した際に感じた経験が、今回の展覧会の趣旨をつかむきっかけとなった。椅子に座るという普段きにかけない行為が、いつもと違う環境になった途端、私の記憶にインプットされた。紅葉が綺麗で少し肌寒い秋だったと。声に出して記憶を語らなければ創造されないもので、記憶は形のないまま自分の中に留まってしまう。交流という人間同士の活動によって、記憶は声となった形を成すのである。ワークショップを通じて行われたのは、まさにこの活動であって、いかに創造物を生み出す大事な活動かということを考える機会になった。

(美術史・文化財保存修復学科2年)

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大きな特徴が2つある少し変わった展覧会である。一つ目は「声」と「記憶」という形のないテーマを見せる展覧会である、ということだ。二つ目は、多彩なトークイベントと、7階の展示会場、屋外の広場での学生主体のワークショップやインスタレーション、この3つが展覧会の軸となっている点である。一般的な展覧会でもワークショップやトークイベントはよく行われるが、ここでは生の声を用いた展示として需要視され、ほぼ毎日行われていた。内容もスタンダードなトークスタイルから、詩の朗読や舞踊など幅広く、私は何回も会場に足を運び、そのたびに新しい発見があった。

(中略)詩の朗読の際に、生の声が発する「音」としての凄さを感じた。紙に印字された文字としての詩は抑揚もなく平坦だ。しかし山田先生と朗読ジャム(学生チュートリアル)の語りで声に出された詩は、リズムがあり、音としての振動があり、言葉の強さが伝わる立体的な表現だった。草野新平や宮沢賢治の詩を知っていたが、朗読を通じて、今まで感じたことのない豊かさを味わった。しかしここで感じた場の記憶を記録することはできない。朗読イベントが行われたことをアーカイブとして残すことはできても、私の個人的な感動は記録することができないものである。

「声」を再生可能な記録として残すことはできても、「記憶」は残すことができない。しかし「声」の記録を再生することで、「記憶」の引き出しは開くことができるのかもしれない。

(美術科3年)

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会場内を見渡すと、強く訴えてくる作品があった。「記憶の森」である。これは誰でも参加可能なインスタレーションで、2つの質問に対する回答を「言の葉」に書き、参加者自身が記憶の樹につけていくため、作品が日々変化し、何度訪れても興味深い。また、見えないもの(声)を参加者自身が可視化していく、というプロセスは本作の魅力のひとつといえる。狼に食いちぎられた小鹿の屍が姿を消した後、この「記憶の森」には再び平和が訪れ、今起きた悲劇や恐怖の記憶はやがて忘れられてしまうだろう。狼という災害と、その被害にあった小鹿、記憶の樹から芽生えたは散りゆく葉は、日本を震撼させた東日本大震災を彷彿とさせた。黒く塗られた変わらない事実と、白い葉に記された変わりゆく記憶で構成された世界。時の流れが如実に感じられた。

(美術史・文化財保存修復学科2年)

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展示を通じて感じることは、すべての空間はあくまで受容的であり、他者への訴えではない、ということだ。TwitterやSNSを通じて呟かれる何万という言葉も、目と目を合わせ、呼吸を感じながら紡がれる言葉も、等しく、存在の意思を証明している。それらは見るものを攻撃することもなく、何も考えずに聞き流してしまうような言葉かもしれない。しかし「生きている」ということが未来へ繋がってゆくための最も大切な手段なのだということを語っている。

震災という大きな困難を体験し、今の日本が向かうべき方向は攻撃ではなく、目の前の現実と、過去から引き延ばされてきた課題に向かってゆく姿勢なのだということを、人々の声を紡ぐことで、静かに表現している。国を動かす支配力を持つ者は一部の人間。しかし大声でマイクを使ってスピーチする政治家ではなく、小さく語りかけるようにつぶやく民衆ひとりひとりの声はその力となりうる。「記憶の声」の展示は、過去と向き合い、未来へ向かって生きようとする力を携えている。そしてその「声」は確かに明日を創る私たち一人ひとりの心の叫びなのだろう。

(文芸学科2年)

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被災者として一番悲しいことは事実を忘れること。忘れられてしまうこと。人にせよ、モノにせよ、悲しいことだけを忘れ、記憶を美化してしまうことで解決できる問題なのだろうか。実際、誰かに目を向けてもらい、何かを聞いてもらうこと、そして会話することは心の支えとなった。そのことに目を向けられたこと、この企画は多くの人が何かを感じる機会を秘めていると思う。

(中略)声を交わすということは日常の行為だが、ゆえに重要性、声の役割、というのを気にしていないだろう。それを気づく機会があった展示だった。人と人が話すのは、今の声を伝えることであるし、それを本館前広場の椅子のインスタレーションが実現させ、そこにある生の声を聞くことができる。声にもたくさん種類があって、それが持つ意味は異なる。実際に外の椅子に座り、たわいのない話をした。そして椅子の配置が変化することで、話す内容も変わっていく、という体験をし、展覧会の意図を実感することができた。

(美術史・文化財保存修復学科1年)

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ここに挙げたのはほんの一部に過ぎません。

参考意見もたくさんありました。

これらみなさんの「声」をしっかり受け止め、次の展開へ繋げていきたいと思います。

 

和田菜穂子(キュレーター)

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TUAD mixing! 2012 | 記憶の声 Voices of Memory

TUAD mixing! 2012
記憶の声 Voices of Memory

原高史×Responsive Environment
(西澤高男)

会期=10月22日[月]→11月8日[木]
会場=東北芸術工科大学 本館7階ギャラリー/本館前広場
(本館前広場でのインスタレーションは10月31日[水]まで)
休館日=10月28日、11月3日、4日
(日、祝日休)
主催=東北芸術工科大学
企画・お問い合わせ=美術館大学センター 
Tel 023-627-2091
Fax 023-627-2308
E-mail museum@aga.tuad.ac.jp
キュレーター=和田菜穂子

概要はこちら

*日時が変更になりました!

スペシャル企画①「声:言葉のもつ力 ~ぼくたちの未来宣言」
日時=10月31日(水)18:00-20:00(申込不要)
会場=本館7階ギャラリー
別会場=本館408(会場が満席の場合は、別会場にてU-streamで視聴できます)
ゲスト=山川健一(作家、本学文芸学科長)、竹内昌義(建築家、本学建築・環境デザイン学科長)
アーティスト=原高史、西澤高男
司会進行=和田菜穂子
USTREAMはこちらから
音声のみ(全記録)

スペシャル企画②「記憶と風景 ~忘れられない風景について」
日時=11月8日(木曜日) 18:30-20:00(申込不要)
会場=本館7階ギャラリー
別会場=本館201(会場が満席の場合は、別会場にてU-streamで拝聴できます)
ゲスト=五十嵐太郎(建築史家、東北大学教授)、根岸吉太郎(映画監督、本学大学長)
アーティスト=原高史、西澤高男
司会進行=和田菜穂子
USTREAMはこちらから

イベントスケジュール1週目~(10月22日~)
イベントスケジュール2週目~(10月29日~)

展示コンセプト

本館7階ギャラリーを6つの部屋に区切ります。

Room #1 声の灯火  Light with Voices
複数の声が飛び交い、闇の中でほたるのように点滅する小さな灯。消え入りそうなか細い声や、自信に満ち溢れた快活な声。様々な声が交差する異空間が、これから始まる展示空間へと誘います。展覧会「記憶の声」の導入部。西澤高男のインスタレーション。

Room #2 声プロジェクト Introduction of “Coe Project”
今年4月よりスタートした「声プロジェクト」は、ふたりのアーティストと、本学の学生・教員が協力しあい、進めてきたプロジェクトです。今までの経緯と展覧会の概要説明を行います。

Room #3 記憶の風景 Landscape into your Memory
「あなたにとって忘れられない風景は何ですか?」
目を閉じれば、頭の中に思い浮かぶ風景。忘れられないひととき。人生を変えたひと言。インタビューした中から選りすぐりの声を、雲の上にいるような心地で、リラックスしながら体験してもらいます。
*体験型展示(予約制)。

Room #4 追憶の場所 Remembrance
学生と先生が1対1で対話したインタビュー集をじっくり拝聴する空間。7階から山形の風景を眺めながら、先生の声にじっと耳を傾け、追憶の風景をイメージします。

Room #5 記憶の森 Forest into your Memory
人の「記憶」というものは時の経過とともに、おぼろげなもの、不確かなものへと変化していきます。この空間は「記憶の森」です。心の奥底に眠る「記憶の声」を呼び起こし、各人の「記憶の断片」は<言の葉>となって、空間を埋め尽くします。原高史のインスタレーション。

Room #6 小さな物語 A Small Tales - Pocketbook -
溶けだしたキャンドル、横向きもしくは後ろ向きの少女、動物のシルエット。それらひとつひとつは、黒く縁どられた窓の中に<小さな物語>として描かれています。原高史が数年に渡りインタビューを繰り返してきた中で、彼の心のポケットに集められたモチーフたちです。彼独自の世界観が表現されています。新作(平面作品)の展示。

Outside 声の広場 Open Space “Coe”
本館前広場は期間限定で様々な「声」が集い、交差する場に変容します。そこに並べられた「白い椅子」にはQRコードが貼られ、先生や学生のインタビューの声が収められています。「白い椅子」の配置の変化は、インスタレーション作品のひとつとなります。<声の広場>で繰り広げられる、「白い椅子」を使った各種イベントは、人々の心に「新しい風景」として記憶されることでしょう。

Artist

原高史|Takafumi Hara

原高史|Takafumi Hara
現代美術家。東北芸術工科大学デザイン工学部グラフィック学科准教授。1968年東京生まれ。1992多摩美術大学大学院絵画学科油画専攻修了。200-2002年ドイツ・ベルリン滞在。平面作品の他、ワークショップやプロジェクト型のアート活動を国内外で幅広く展開している。歴史的建造物の窓にその土地固有の記憶や、人々の思い出にまつわるパネルを展開していく窓プロジェクト《Signs of Memory》は、人と人との対話から生まれるアートである。今回は7階で平面作品(新作)を出品するほか、白い椅子を使った屋外でのプロジェクト型インスタレーションを展開する。
http://takafumihara.jp/

西澤高男|Takao Nishizawa

西澤高男|Takao Nishizawa
建築家・メディアアーティスト。東北芸術工科大学デザイン工学部 建築・環境デザイン学科准教授。1971年東京生まれ。1995年横浜国立大学大学院工学研究科計画建設学専攻修了。建築設計事務所"buildinglandscape"、及びメディアアートユニット"Responsive Environment" 共同主宰。

Responsive Environment
空間に関わる様々な領域をクロスオーヴァーするコラボレーションにより、空間表現を行うユニットである。1993年の結成以来、様々なパフォーマンス、インスタレーションや建築に関わる作品の制作、プロジェクトの発表を行ってきた。2004年より本学プロダクトデザイン学科専任講師の酒井聡もメンバーとして加入。松島紅葉ライトアップ、車座 -Post Peak Oil Orchestra-(谷川俊太郎/覚和歌子 詩の演出)、東京カテドラル聖マリア大聖堂マルチメディア空間パフォーマンスなど、照明装置を使ったインスタレーション多数。
http://www.responsiveenvironment.com/