8月17日
沼津御用邸内にある沼津市歴史民俗資料館を訪ね、石工道具の実測を行う。館長さん、市教委の方。たくさんの資料を用意して待ってくれていた。伊豆石の歴史や民俗についてレクチャーを受ける。別のお客さんの対応がある間、沼津魚市場で「海鮮丼」「沼津丼」を食べ、石切丁場めぐりをする。ざっとまわって石切場の景観を頭に入れる。
市内南部の海岸沿いにある多比石切り場。近所のおばさん曰く。ここへきて40年余り、近所に石切やった人がいるとは聞かないわ。石切り場は子供の遊び場だったよ。5年ほど前から立ち入り禁止になったけど。ここの石は軟らかいので、切った石は船に積んで東京湾の埋め立てにもっていったそうよ。
内陸の大平地区の石切り場をあるく。道端で腰を下ろし井戸端会議に花咲かすおばあちゃん集団にヒアリング。昔、石切り場の池(水たまり)で泳いだよ。あたしのおじいちゃんは石を切ってたけど、もうこの辺じゃ経験者はいないよと、80歳余りの女性。
別のお客さんが置いていった名刺をみてびっくり。某歴史民俗博物館のMさん。世間は狭い!
18日
もう一度大平地区に戻り石切丁場を歩く。民俗資料館にあった石工道具の寄贈者のお宅を訪ねる。
当主の方、中学校を卒業して親父の石切の手伝いをした。奥さんとともに自宅前にある石切場を案内してもらい当時の仕事ぶりを教えていただく。早くに途絶えてしまった伊豆石の貴重な話を聞くことができた。
山形県高畠町から伊豆石の石切に出稼ぎに行ったAさんやHさんが所属した東洋文化石材という会社を知っていると。
それから一路伊豆半島南端をめざす。
途中、昼食を食べ西海岸を南下する。恋人岬で思わず車を止める。恋人たちが岬まで鐘を鳴らしに集まってくる。そこに混じって場違いな集団。せっかくなので記念撮影。
しばし休息をして、南伊豆を目指す。
ところがここに忘れ物をした学生がいた。堂が島海岸まで行って気がつき、車を飛ばして戻る。恋人岬で忘れ物とは不吉な予感・・・・人生の忘れ物をしなければよいが。
ただ戻るのはもったいないので黄金崎で三島由紀夫碑と「馬」を見学。
伊豆半島西海岸から富士山が見えた。ここでは海でサンセットが見れる
18日
松崎町の室岩堂石切り場を見学。ここは見学用に整備されていた。石切場から海に下りる急坂に蟹の大群。海を臨む位置に石の集積場があり、そこから一気にスライダーの如く滑らせる。海際の岩礁には断面コの字形に削った石下ろし道のあとと舟溜まりの遺構があった。
本日の目的に南伊豆町を目指す途中に石部の棚田という看板。ハンドルを切って山の中にはいっていく。遠くに海を臨む斜面に忽然と棚田が現れた。地元の保存会の方々が除草作業中。オーナー制で維持しているそうだ。伊豆石のふるさとらしく石垣はもちろん、棚田を縫う道も石敷きだった。山形から来たというと、今年の棚田サミットは山形じゃないの?わしらも行くよ、と。毎年サミットに参加しているらしい。
夕暮れ迫る中、南伊豆町立棒石の石切り丁場を探す。石の町らしくおしゃれな意匠の石積みやナマコ壁の家屋、石積み家屋が点在する。ようやく登り口を探し当て、当主の許可をもらって山に入る。ところがブッシュが背丈を越え、やむなく撤退。マムシがいるからおねえちゃん、その格好じゃあぶないよ!と注意される。
暗くなってから宿の民宿を目指す。夜8時前にようやく到着。早々に晩飯を食べて、夜の海へ。
南伊豆町弓ヶ浜。
海ではお決まりの花火。天の川がみえる素敵なビーチでさまざまな花火文字に挑戦。大量に買い込んだ花火はやってもやってもつきない。文字は徐々にレベルアップしていく。
翌朝、朝食前に海辺を散歩していると、早朝から小学生らしき集団が海で泳いでいた。♪そんな時代もああったね♪と懐かしくなる・・・・・
19日
昨夕断念した立棒石の丁場、下田市教育委員会の増山さんが案内してくれることになり、朝から現地にむかう。狭い入り口の前に立つと中から冷気が。あたかも風穴のよう。頭にライトをつけて侵入すると、いきなり落盤だらけではいれないんじゃないの?
と思ったら、落盤した天井石の隙間に足を滑り込ませなんとかすり抜ける。中は迷路のよう。ひとりできたら絶対迷子になって出られない。石工が一人一人小部屋を作って作業したような操業形態。「タテボリ」の方法がよく分かる。
坑道をでてからは丁場の持ち主のおばあさん宅へ。石造りの民家・納屋・店(火事で木は消失)があり明治初期につくられたという。その向かいには大正期の建物。床下には応じの石切道具が保管されており調査する。とても親切にしていただく。
それから車を飛ばして下田市内へ。ここでは石造りの蔵や民家を調査。ペリー提督の銅像前でお決まりの記念撮影。それからペリーロードを歩き、ナマコ壁の建造物と縞模様の伊豆石(房州では桜目)の使い方を調査。
帰りは「天城越え」伊豆ジオパークの道の駅でわさびソフトを食べて三島駅までもどる。
計画がアバウトだったわりには、あまりにも収穫の多い旅だった。行く先々でたくさんの人、ものとの出会いがあった。偶然性に満ちていた。だから旅はおもしろしい。
ぜひ、この感覚を忘れないでほしい。若者よ!旅に出よう!