稲田石は茨城県笠間市稲田に産出する花崗岩。香川県の庵治石(あじいし)や岡山県の万成石(まんなりいし)などとならんで国産みかげ石の代表選手です。白っぽいのが特徴で各種用途に人気があります。採掘は近代に入ってから、みかげ石の本場、小豆島から職人が移り住んではじまったそうです。平地から採掘でき、埋蔵量も多く、大消費地を控えているという有利な面があります。
日本の石材市場は、いま価格の安い中国産など外国産が席巻しています。墓石の展示場へいくと歴然とした価格差に驚かされます。外国産といえば、かつては原材料のみの輸入でしたが、近年は灯篭などのような精彩な加工の必要なものまでが現地で行われ、製品として入ってきています。
稲田石歴史資料館(石の百年館)には採掘の歴史や工程の解説があり、近代化以前の道具が収集展示されています。ここは行政ではなく、株式会社タカタという一企業が管理運営しているところがみそです。鉄矢(くさび)や玄翁、ノミを使って人力で石を切り出し加工していた時代から、ジェットバーナーや黒色火薬、重機を使って大規模に採掘する現代までの流れを年表とモノ、図書資料で展示しています。
車を止め、資料館のとなりにある会社の事務所に入ると、こわもてのおじさんがひとり。「すみません、見学したいんですけど・・・・」というと、「どっからきた?」「山形からです。大学生なんですが・・・・」「そうかい、・・・お金いらないよ。みてって」
無人の資料館に置いてあるおみあげを買いたくて、事務所にかのオジサンを訪ねた学生はその外見に明らかにビビッていた。でも入館料一人300円をまけてくれたことを告げると、「オジサンはとってもいい人だ」と。そう、人は見かけで判断してはいけない。職人にはそんな人が多いのです。
少し離れたところに中野組石材工業という会社があります。ここでは会社の裏にある採掘場を公開しており、見学場所にはオブジェがならぶ公園があります。ここでは稲田石材商工業協同組合が主体となって毎年「いなだストーンエキシビジョン」というデザイン展が開催されています。
これまで古代から現代まで、たくさんの「石切場」をみてきました。あらためて思うのは、石切場遺跡の「芸術性」です。人が自然−石を利用するために闘ってきた痕跡。歴史の積み重ね、「時間」が凝縮された採掘場。それ自体が人類の現在や未来を考えさせるオブジェのような存在といえます。
石切丁場に魅かれる理由が少しずつ分かってきたような気がします。