黒曜石の塊を石のハンマーで叩いて、うまく縦長の石刃を剥いだ時の「音」は独特だ。職人は仕事しているときの熟練度を「音」で聞き分けるという。わたしは石器の製作技術には疎いが、先生の叩く音と、学生がおっかなびっくり叩く音は聞き分けられる。
石を叩く学生をみていると実にうらやましい。こんなにふんだんに黒曜石を割ることができる。そして、剥片で鹿の角や木材を切ったり、輝石安山岩(サヌカイト)と硬質頁岩と切れ味や耐久性を比較したり…
自分の指から血を流しながらも黙々と鹿角を削る学生、もう熟練者のような構えで大きな黒曜石の塊を割っていく学生。大汗かいて、一気の溝切りで鹿角ハンマーを仕上げた学生。
自分の身体と素朴な道具のみで一歩進んだ機能的な「道具」を作る。これは人類が歩んできた軌跡である。幼少期の火遊び、川原での石拾い、泥んこ遊び、木登り、隠れ家や陣地を作る遊び、魚釣り・・・・これらは個体発生が系統発生をなぞるように、個人が人類進化の過程を追体験する行為なのだという。現代は生活環境の変化から、子供たちがこのような人類史の記憶をトレースすることなく大人になっていく。
その身体感覚は間違いなく変化していくだろう。
指を切るような剥片を持つ感覚、硬軟さまざまな円礫を握る感覚、角を切る感覚、石がうまくはげた時の運動感覚・・・・自然素材に触れる感覚、それが身体にフィットし、滑らかな身体動作と一体化する感覚。そんな感覚を一瞬でも味わってほしいと願う。
これは木曜午後、考古学応用演習の授業。
2年生が石器製作技術の復元に関する実験考古学的研究方法を学んでいる。先史時代の人々はどんなハンマーを使って石を剥いだのか?
先週までは弥生・古墳時代の土器による炊飯調理法の復元がテーマ。土を捏ね、土器を作って炊飯調理法と痕跡のモデル作りに挑んだ。素材が土と火と水から、石や角や木にかわったというわけである。
実験考古学は考古資料の痕跡を読み取る(解釈する)一つの方法論であると同時に、人にとっての身体性、人と自然との関係を思考する場を提供する。