「こわれた大切なものと」

 大学生のとき、私は大学教員のweb日記(まだブログではない)を読むのが日課であった。大学の授業での取り組みや論文の内容、会議の話などはどうでもよく、日々の考えや生活を垣間見ることのほうが面白かったのである。そのなかでも淡々と更新していた森博嗣のweb日記は私個人として毎日見るのにちょうどよく、数年間はひたすら読んでいた記憶がある。森氏は朝に昼に夜にと更新していくので、私も更新に合わせるようにアクセスしていた。当時は大学にwifiが飛んでいるなどということはなく、またノートパソコンを持って通学するということもなく、空き時間になると大学のパソコンルームに通い、メールチェックと日記を読むということを地味ながらやっていた。今だとノートパソコンやスマホにより時間や場所の拘束性が減ることでスムーズに読むことができるだけに、果たして自分が大学生だとしたら同じことをしているのかどうか疑問ではある。

 ルーティーン化することの難しさというのは確実に存在し、多くの人は更新頻度が減り始め、10代の私は「なぜもっと更新しないのだろう」と思っていたものである。そして、あの時の私に返答ができる立場に自分自身がなってしまった。単純に忙しいからである。というわけで、この記事も2週間ぶりの更新になっている。すみません。森博嗣のweb日記はその後、書籍化され、今でもぺらぺらめくったりする。しかし、その時にしか感じ取れなかったものは確実に存在し、一日という時間単位で動かされた文章データを目にするということ、液晶画面の中で見るということ、大学のパソコンルームで読んでいるということ。その全ての再現性はもうありえない。

MORI LOG ACADEMY〈1〉 (ダ・ヴィンチ ブックス)

 では、あの時の私が嫌いであった大学教員による授業の話をしよう。いくつかの授業を担当としているが、先週は作品読解の授業では初野晴の「ハルチカ」シリーズを取り扱った。毎年やっていることではあるが、小説だけではなくエンターテイメントとして媒体が変化した際に変わっていくものは何かということを考える契機として、ハルチカを取り上げたのである。ご存知の通り、ハルチカは今年の頭にアニメ化され、来年には映画化される。授業内では小説を講読するだけではなく、アニメも視聴し、媒体の差を考えた。映画はどうなることやら。ゼミでは乙一の「アークノア」シリーズの第1巻を読み、物語の構造を検討し、ファンタジーを考えるということをやった。今年は年度当初に野崎まどの『know』を取り上げて、同じく物語構造を考えたわけだが、創作にしろ評論にしろエンタメを考える基礎的な作業である。

初恋ソムリエ (角川文庫)

ハルチカ ~ハルタとチカは青春する~ 第1巻 [Blu-ray]

僕のつくった怪物 Arknoah 1 (集英社文庫)

know (ハヤカワ文庫JA)

 このようなことを日々、繰り返しながら、学生たちの創作・評論・編集活動につながっている。その成果の一つが『文芸ラジオ』である。ということで、このブログはしばらく宣伝で終わるのである。

文芸ラジオ 2号 ([テキスト])

BGM:YUKI「ドラマチック」

ドラマチック