2017年度後期から文芸論5を担当している。前に担当されていた池田雄一先生が退職されたので、そのあとを受けて行うことになった。池田先生が「読んで書く」ことを毎週していたので、それを踏襲しようと思い、授業設計をしていった……のだが、全員が毎週は書いてこない……。池田先生はどうしていたのであろうか、と授業をしながら思ったことを覚えている。
内容としては評論や論文を読む授業が文芸学科ではなかったため、それらを読むこと、読む内容を踏まえて書くことを行うことにした。ちなみに前期の作品読解と同様にこのあと毎年内容をかえていくことになる。学生だけではなく教員も学ぶつもりでのぞんでいるのだ。
そして記録に残していなかったので、思い出しながら書いている。今はもう3年目に突入している。
1:授業の進め方。テクストを読み、考える方法とは。
初回なので、「読むこと」と「書くこと」の意義を解説した。
2:山口誠「パワースポットの想像力と変容―メディア・ツーリズム研究の可能性」(遠藤英樹・松本健太郎・江藤茂博編『メディア文化論 想像力の現在』ナカニシヤ出版、2017年)
最初に読む数本は、文芸学科の枠組みだけではなく、もう少し幅広い出来事を取り扱ったものを読もうと思い、取り上げた。パワースポットに関してであるが、思いのほか御朱印帳マニアが受講生の中にはいなかった記憶がある。
3:山崎鎮親「世界が小舟か、小舟がセカイか」(『半径1メートルの想像力 サブカル時代の子ども若者』旬報社、2014年)
若者論という流れの中で結局のところコンテンツ系(オタク系)の論文を取り上げてしまう。90年代からゼロ年代にかけて若者がどのようなコンテンツの影響を受け、その中で文化を作り上げていったのかを考えていった。
4:谷本奈穂「恋愛の死と再生」(『恋愛の社会学 「遊び」とロマンティック・ラブの変容』青弓社、2008年)
若者論の続きである。恋愛というものが、近代から現代においてどのように捉えられていたのかを検討した。
5:西兼志「〈キャラ〉と〈アイドル〉/拡張されたリアリティ」(『アイドル/メディア論講義』東京大学出版会、2017年)
アイドルに対する興味はほとんどないのだが、アイドルをめぐる議論は興味深いので、いろいろと読んだりしている。その中でキャラクター論を考えるために、この論考を取り上げた。
6:玉川博章「ファンダムの場を創るということ―コミックマーケットのスタッフ活動」(東園子・岡井崇之・小林義寛・玉川博章・辻泉・名藤多香子『それぞれのファン研究 I am a fan』風塵社、2017年)
コミケットにサークル参加をしているので……という個人的なことは置いておいて、ファン研究を考えるために取り上げた。
7:小池隆太「マンガにおける物語論の可能性とその限界」(小山昌宏・玉川博章・小池隆太編『マンガ研究13講』水声社、2016年)
ここから文芸学科の授業として物語を考える回に入っていく。創作演習で取り扱った物語論の復習も兼ねて、読んで、考えていくのである。
8:都留泰作「空間感覚の研究」(『“面白さ”の研究―世界観エンタメはなぜブームを生むのか』角川新書、2015年)
文化人類学者であり漫画家である著者による、物語の描く空間に関する文章である。非常に示唆的であり、物語を考える上で批評的な視点が養われると思い取り上げた。
9:橋本陽介「「おもしろい展開」の法則」(『物語論 基礎と応用』講談社、2017年)
本書は物語論の入門書として、そしてタイトルの通り応用として非常にまとまっており、発売されたばかりだというのに授業で取り上げている。皆さんも読んだほうがいい。
10:一柳廣孝「学校の異界/妖怪の学校 峰守ひろかず『ほうかご百物語』を中心に」(小松和彦編『妖怪文化の伝統と創造 絵巻・草紙からマンガ・ラノベまで』せりか書房、2010年)
ここから具体的な作品を取り上げている論考を読んでいく。初回はライトノベル研究であり、妖怪研究でもあるという内容なので、多面的に考察していく姿勢を学んでほしくて取り上げた。
11:広瀬正浩「仮想世界の中の身体―川原礫『ソードアート・オンライン』アインクラッド編から考える」(西田谷洋編『文学研究から現代日本の批評を考える』ひつじ書房、2017年)
続けてみんな大好きSAOである。VRでのゲームを描いた作品の身体性は一つの視点として重要である。
12:池田雄一「魂のジャンルのために 宮崎作品におけるアニメーションとアレゴリー」(『ユリイカ』36巻13号、2004年)
そして前任者の池田先生の論考を読むのであった。宮崎作品への批評でもある。
13:上田早夕里「リリエンタールの末裔」(『リリエンタールの末裔』ハヤカワ文庫JA、2011年)
ここから具体的に作品を読んで、みんなで考えてみようとしてみた。初回はSF。空を飛ぶことにどのような意義を評者として見出すのか、みたいなことを考えていた。
14:『プリンセス・プリンシパル』(制作:Studio 3Hz Actas Inc.)
次はアニメ作品。スチームパンクでありスパイものである本作品をどう解釈するのか。アニメという枠組みの中で表現されていること、描き方、様々な論点が存在する。ちなみに2020年から劇場版が随時、公開されていくとのことで、非常に楽しみにしている。
15:受講生によるセレクト作品の批評
最終回は受講生それぞれが選んで、書いてきた批評文を全員で検討する回である。これがこの授業の最終課題でもある。