2020年度後期の文芸論5はコロナ禍のなか完全オンラインで行われた。途中、大学のWi-Fiの調子が悪くなり、自宅からの講義となってしまった……のが後に思い出になると良いのだが。
授業内容としては毎年のようにまずは批評や学術研究の文章になれること、次のステップとして様々な考え方(理論や方法論など)があるのに触れることを目的としている。そしてただ受講するだけではなく、文芸学科の授業なので最後に自ら書いてみるという流れである。
1:堀野正人「メディアとしての都市の演出空間」(遠藤英樹・松本健太郎『空間とメディア』ナカニシヤ出版、2015年)
初回は都市空間の話をしていた。山形市という都市空間に存在するという点はもちろん加味しているが、それだけではなく都市的なものに我々はそれなりに接しているのではないか。と思い、取り上げたのであった。
2:岡本健「多様な「空間」をめぐる多彩な「移動」 ポスト情報観光論への旅」(岡本健・松井広志『ポスト情報メディア論』ナカニシヤ出版、2018年)
コロナ禍で物理的な移動を見つめなおす機会が増えたと思うが、それだけではなく物理的ではない移動も目を向けなければならないのかもしれない。
3:西兼志「〈キャラ〉と〈アイドル〉/拡張されたリアリティ」(『アイドル/メディア論講義』東京大学出版会、2017年)
アイドルの話というよりはキャラクター論に終始した授業となった。とはいえキャラクターをめぐる議論は創作だけに関わるものではなく、アイドルはもちろんのこと、我々の日々の生活にも入り込んでいる。
4:香月孝史「アイドルが「演じる」とは何か」(『乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟』青弓社、2020年)
そして乃木坂46という具体例を検討してみたのである。乃木坂の活動はバナナムーンゴールドで零れ落ちる情報しか接していないので(要はほぼ知らない)、乃木坂の活動内容を含めて、考えさせられていた。
5:松井広志「〈複合的メディア〉としてのゲーム:TRPGをめぐる人・モノ・場所から考える」(岡本健・松井広志『ポスト情報メディア論』ナカニシヤ出版、2018年)
ここからゲーム研究へと移行する。TRPGは思いのほか学生にも人気があり、逆に受講生の皆さんが自らの遊んだゲームやプレイ動画を教えてくれることになった。
6:榊祐一「物語としてのゲーム/テレプレゼンスとしてのゲーム――『バイオハザード』を例として」(押野武志『日本サブカルチャーを読む ― 銀河鉄道の夜からAKB48まで』北海道大学出版会、2015年)
デジタルゲームの研究も取り上げてみた。『バイオハザード』をプレイしている学生はさすがに少ない印象ではあったが、映画の影響か作品自体の認知度は非常に高く、その点は驚いた。
7:三宅陽一郎「デジタルゲームの地図をめぐって」(『ユリイカ』52-7、2020年)
地図研究は地理学などにおさまらない学際的な分野だと思う。地図的な現象は、我々の生活にも、そしてゲーム空間にも存在し、それをどう認識しているのか、どう考えるのかが問われている。
8:久米依子「少女小説の困難とBLの底力」(大橋崇行・山中智省『小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』青弓社、2020年)
さてここから話がまた違う方向になる。少女小説とBL小説を端的に比較しており、ある意味、著者の思考を把握できる論考であった。
9:相田美穂「腐女子とオタクの欲望/身体/性」(金井淑子『身体とアイデンティティ・トラブル』明石書店、2008年)
10年以上前の論考なので、現在と状況がそれなりに違っている。その点を含めて、歴史的な意味を踏まえて考察するには面白い内容であった。
10:石原千秋「語り手という代理人」(『読者はどこにいるのか 書物の中の私たち』河出書房新社、2009年)
ここから文芸学科らしく文学理論に寄せていった内容になる。語り手の問題は学生の皆さんが毎年、批評のレポートに書いてくるので、それなら取り上げようと思った次第である。
11:小池隆太「物構造論からみる宮崎駿監督作品」(岡本健・田島悠来『メディアコンテンツスタディーズ』ナカニシヤ出版、2020年)
物語構造の話も文芸学科の必修で取り上げているので、学科の学生には復習となる。この論考は宮崎駿監督作品を取り上げており、受講生には把握しやすかったように見えた。
12:山中智省「遍在するメディアと広がる物語世界――メディア論的視座からのアプローチ」(大橋崇行・山中智省『小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』青弓社、2020年)
では現在の小説をめぐる状況はどうなのかを考えてみた。メディアミックスやアダプテーションをめぐる状況は、さまざまな作品で見られるので、考えるべきポイントであろう。
13:中村三春「宮崎駿監督映画における戦争の表象—『風の谷のナウシカ』から『風立ちぬ』まで」(西田谷洋『文学研究から現代日本の批評を考える』ひつじ書房、2017年)
ここからは具体的な作品やクリエーターにフォーカスした論考を読んでいく。宮崎駿監督作品は受講生も接したことがあり、取り上げやすいのだが、それもいつまで続くか……と思いながら毎年取り上げている。
14:畠山宗明「中味のない風景 新海誠と風景の「北関東性」をめぐって」(『ユリイカ』48-13、2016年)
新海作品はよく「背景や風景がきれい」と言われるし、学生のレポートでも書かれるので、それではと思い、取り上げた論考になる。
15:受講生により最終課題講評会
というわけで14回分、さまざまな論考を読んだので、今度は皆さんが書いてみようとなる。
〇過去の文芸論5
文芸論5と文献リスト(2017年度)
文芸論5と文献リスト(2018年度)
文芸論5と文献リスト(2019年度)