第3回:「東北の未来を考える」

第3回:「東北の未来を考える」
7月13日(水)17:30−19:00
東北芸術工科大学 本館1階ラウンジにて

三瀬夏之介(画家/日本画コース准教授)×馬場正尊(建築家/建築・環境デザイン学科准教授)

第3回目は「東北の未来を考える」をテーマに、三瀬夏之介と馬場正尊による対談を行います。チュートリアル『東北画は可能か』で、学生とともに〈東北〉を描きながら、その可能性について考え続けてきた三瀬と、山形R不動産で、学生とともに〈山形〉の空き物件をリサーチし、そこに住む人のニーズにこたえていくリノベーションのあり方を追求しつづけている馬場が、それぞれの視点から〈東北〉〈山形〉の未来について会場のみなさんと語り合います。

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■三瀬夏之介の3.11
その時、僕は大阪行きの新幹線の中だった。ゆっさゆっさという横揺れとともに列車はゆっくりと停止した。山形とは連絡がとれなくなり、震源地は東北であるという大雑把な情報しかなかったあの揺れが、世界史にも刻み込まれるような出来事の始まりになるとは夢にも思わなかった。

アーティストにとって大事なことはリアリティーであり、つくるための必然性であるはずだった。そのために歴史を学び、時代を読み、各地を訪れ、様々な人々と交流する。震災以降、日常の中に死がちらつくことによって、自身が生きているということをどこに行かずとも常に実感するようになった。あんなに求めていたはずのリアリティーってやつがこんなにきついものだと思いもしなかった。

これでやっといい絵が描けるようになるんだろうか?
僕はひとまずアーティストっていう鎧を脱ぎ捨てようと思っている。さらにその上で社会的機能をまったく考えない絵が描きたいと思う。それは醜く歪みきった自画像のようなものになるかもしれないし、なんとか自分を奮い立たせるべく夢想した理想郷のような世界かもしれない。

アートでできることであればアートですればいいし、アートでできないことであればひとりの人間としてすればいい。もうどこにも安全な観客席はないし、常に表現すべき理由が突きつけられているということなのだと思う。

■馬場正尊の3.11
「早く逃げろ!」「津波が来るぞ!」
朝、ロンドンのホテルでメールを開けると、一刻を争うような言葉で溢れていた。僕の研究室のMLである。僕はその時、家族旅行でロンドンに来ていた。一体、日本で何が起こっているだ、とにかく普通じゃない、非常事態が起こっている、ということだけがMLを通じて伝わってきた。怖かったは、ある瞬間からぱたっとメッセージが止まってしまったことだ。彼らに電話しても誰ひとり繋がらない。ミサワクラスは大丈夫だろうか。山形のこと、東北のこと、日本のことが心配になった。そのうちCNNなどで映像が流れ始め、ようやく日本での大参事の実態がつかめた。しかし今いるロンドンと日本とでは物理的な距離がある。何もできない喪失感だけが残った。

実感したのは成田空港に着いてから。房総の家は幸いなことに津波被害はなかったけれど、すぐ近くのコンビニは浸水していた。浜松町のマンションは本棚や食器棚がめちゃくちゃだった。さらに仕事や生活を再開しはじめると、じわじわとリアリティを感じることになる。海辺の仕事がキャンセルになり、リノベーション用の建材が入手困難になった。僕の5歳の子供が人気の保育園に入園できたのは、希望者のほとんどが東京を去ってしまったから。このように仕事や生活の端々から、今回のことが現実味をもって感じるようになった。
そのうち不動産業や建築界の仕事仲間から連絡が入り、アーキエイド、ニコニコフレーム、仮住まいの輪など、震災復興に絡んだ複数のプロジェクトが動きはじめる。東北の未来のための僕の仕事は長丁場になりそうだ。

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プロフィール
■三瀬 夏之介
画家。奈良県生まれ。1999年京都市立芸術大学大学院修了。主な個展に、大原美術館ARKO2007(倉敷、2007年)、イムラアートギャラリー(京都、2008年)、佐藤美術館(東京、2009年)など。主なグループ展「トリエンナーレ豊橋 星野真吾賞」(愛知)、「第2回東山魁夷記念日経日本画大賞展」(東京、2004年)、「MOTアニュアル2006 No Border 日本画から日本画へ」(東京、2006年)など。主な受賞として2006年五島記念文化財団美術新人賞、2009年VOCA賞、京都市芸術新人賞。2009年より現職。現在、チュートリアルにて「東北画は可能か?」など、学生とともに東北の地で活動中。

■馬場正尊
建築家。佐賀県生まれ。早稲田大学大学院博士課程建築学専攻単位取得満期退学。博報堂、雑誌「A」編集長を経て、2002年OpenAを設立し、建築設計、都市計画、執筆などを行う。主な作品として、運河沿いの倉庫をオフィスに改造した「勝どきTHE NATURAL SHOE STOREオフィス&ストック」(2007年)、オフィスを集合住宅に改造した「門前仲町のオフィスコンバージョン」(2005年)など。著書に「POST-OFFICE/ワークスペース改造計画」、「東京R不動産」、「新しい郊外の家」など。山形でも地元の不動産会社と運営提携を結び、本格的に山形R不動産を始動している。

企画:和田菜穂子(美術館大学センター准教授) 

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TUAD mixing! 2011|「それぞれの3.11」8人のリレートーク

TUAD mixing! 2011

デザイン:奥山千賀(FLOT)

フライヤーをダウンロード
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mixing-b.pdf(400KB)

TUAD mixing! 2011
それぞれの3.11|8人のリレートーク

未曾有の大被害を被った東日本大震災。私たちの暮らす東北は、復興へ向けて新たな一歩を踏み出している。本年度のTUAD mixing! は、様々な分野で活躍中の本学教員による対談とした。それぞれの視点から、自分のライフワークと「3.11」について語る、8人のリレートーク(4回シリーズ)である。今だから、東北だから、みんなで語り合い、みんなで考えようではないか。

会場=東北芸術工科大学 本館1階ラウンジ
入場無料/事前申込不要
主催=東北芸術工科大学
企画・お問い合わせ=美術館大学センター 
tel: 023-627-2091
email: museum@aga.tuad.ac.jp

Schedule

「自分たちができることって?」

第1回:6月28日[火]17:30→19:00
「自分たちができることって?」
青山ひろゆき(画家/美術科洋画コース講師)× 前田哲(映画監督/映像学科准教授)

第2回「ヒトとモノの記憶」

第2回:7月6日[水]17:30→19:00
「ヒトとモノの記憶」
出演=藤原徹(修復家/美術史・文化財保存修復学科教授)×原高史(アーティスト/グラフィックデザイン学科准教授)

第3回「東北の未来を考える」

第3回:7月13日[水]17:30→19:00
「東北の未来を考える」
出演=三瀬夏之介(画家/美術科日本画コース准教授)×馬場正尊(建築家/建築環境デザイン学科准教授)

第4回:7月20日[水]17:30→19:00
「自然と向き合う」 田口洋美(環境学者/歴史遺産学科教授)×辻けい(アーティスト/美術科テキスタイルコース教授)

第4回:7月20日[水]17:30→19:00
「自然と向き合う」
田口洋美(環境学者/歴史遺産学科教授)×辻けい(アーティスト/美術科テキスタイルコース教授)

ナビゲーター:和田菜穂子(キュレーター/美術館大学センター准教授

過去のTUAD mixing!

TUAD mixing! 2009

www.tuad.ac.jp/museum/archive/1007_mixing2009/

TUAD mixing! 2010

www.tuad.ac.jp/museum/exhibitevent/index3.html

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AR2010-p4463.pdf(1.6MB)

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