最終日15日目。スペシャル企画「記憶と風景」

最終日となりました。

スペシャル企画②「記憶と風景 -忘れられない風景-」の

ゲストは五十嵐太郎先生(建築史家、評論家、東北大学教授)と、

根岸吉太郎先生(映画監督、東北芸術工科大学大学長)です。

 

最初に五十嵐太郎さんは私たちの展覧会「記憶の声」にちなんで、

 sounds from beneath  という炭鉱の記憶を、声で表現している作品を紹介してくださいました。

 

その後、震災以降の話になり、自分自身の足で女川町など数多くの被災地をまわり、

自分自身の目で確かめ、自分自身の身体で体験してきたお話をしてくださいました。

気仙沼では重油のにおいが充満していて、

「視覚よりも他の五感での印象の方がより記憶に残りやすい」

という実感を伴ったそうです。

 

五十嵐さんの著書『被災地を歩きながら考えたこと』にもあるように、

五十嵐さんは建築の専門家として「震災の記憶」をいかに残すべきかを考えておられます。

 

例えばイタリアのジベリーナという地域は、1968年の地震で町が崩壊し、

その後町全体がまるごと移転しました。

しかし町がそこに存在していたという記憶は、

アルベルト・ブッリというアーティストによって白いセメントで町全体が覆われ、

ランドアート化され、残されています。

 

根岸先生は震災後はじめて山形空港に降り立ったとき、

通常ならついているはずの暖房が切られ、底冷えする空港の寒さを体験した身体の記憶が

今でも忘れられない、というお話からスタートしました。

3.11に関するそれぞれの物語は尽きません。

身体で感じたことは、身体の奥で時間とともに醸成され、個人の記憶として刻まれるのでしょう。

 

映画監督である根岸先生は

「映画はそもそも記憶をつくる仕事である」と述べています。

その根岸先生は最近「記憶がだんだん広がっていく」現象を感じたそうです。

「広がっていく」という感覚は、実体験がないにも関わらず、

戦争など過去の記憶を自分の身体のどこかで感じるものらしいです。

年齢を重ねるにつれ、そういう不思議な感覚を覚えるようになったそうです。

そして根岸先生にとっての記憶は、

「リアルだけど、脆いものである」と繰り返し述べられました。

 

「記憶」と「記録」は違うものです。

「記憶を伝えるのがアートの力なのではないか」と話す五十嵐さん。

五十嵐さんは2013年あいちトリエンナーレの芸術監督です。

テーマは「揺れる大地 われわれはどこに立っているのか 場所、記憶そして復活」です。

偶然とはいえ、本展覧会「記憶の声」と同様ずばり

「記憶」がテーマである のは、今の時代性なのでしょう。

 

 

ところで、皆さん気づきましたか?

今日の会場は三方向から囲われる形です。

なぜなら今日は観客が100人を超えることを想定し、

あらかじめ130人収容の座席数を設けていたからです。

実際、別会場(UST会場)の201大講義室でも、約100人の学生が聞き入っていたそうです。

 

今日はゲストが放つオーラなどもあって、

「声のステージ」に集中する、ある種の緊張感が生まれていました。

 

「今日はいつもと違って会場に緊張感があって、

それが僕にとってはなんだか心地よく感じるんです」と原さん。

原さんの作品づくりは今回に限らずいつも他者の声に耳を傾けることから始めています。

人だけでなく、古い建築物とも対話を行いながら、

世界各国で「窓プロジェクト」を手がけてきました。

その土地のおじいちゃん、おばあちゃんとも対話を行い、

「その人が語る物語こそ、リアルを感じる」そうです。

ブラジルでは「昔の日本人」に出会い、ある種の距離感を覚えながらも、

彼らに深い敬意を払った、というエピソードをお話してくれました。

 

実は五十嵐さんは、原さんの作品を台北や香港でご覧になっており、

窓プロジェクトのことを随分前から評価してくださっていました。

 

西澤さんも以前、伊豆の下田で使われなくなった大正時代の古い精氷場を、

建物の記憶を残しながらその魅力を伝え、

別な形で蘇らせるプロジェクトを手がけています。

今でこそ「リノベーション」という言葉が通じる時代ですが、

その当時は既存の古い建築物を蘇らせる、という概念はほとんどなかった時代でした。

 

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このように異なるフィールドで活躍する皆さんが、

それぞれの観点から語る、記憶に関するお話はとても興味深いものでした。

あっという間に時間は過ぎ、

終了予定時刻を超え、約2時間に渡るものとなりました。

その様子はUstreamで録画されておりますので、興味のある方はこちらをご覧ください。

 

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最後に参加型インスタレーション「記憶の森」の《言の葉》にメッセージを残すおふたり。

 

遅くまで残ってくれた皆さんと一緒に、恒例の記念撮影です。

展覧会の最終日に、素晴らしいひとときを皆さんと過ごすことができ、大変うれしく存じます。

 

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あっという間の15日間でした。

展覧会会場で、皆さんと共有した時間と多種多様なイベントの数々は、

私にとって「忘れがたい記憶」となりました。

学生スタッフcoiceの皆さん、イベントに参加してくださった先生方、

インタビューに応じてくれた多くの皆さん、大学事務の皆さん、

本当のたくさんの方に支えられながら、展覧会を無事に終了することができました。

この場をお借りして、ご協力いただきました方々に、心より御礼申し上げます。

どうもありがとうございました。

和田菜穂子(キュレーター)

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TUAD mixing! 2012 | 記憶の声 Voices of Memory

TUAD mixing! 2012
記憶の声 Voices of Memory

原高史×Responsive Environment
(西澤高男)

会期=10月22日[月]→11月8日[木]
会場=東北芸術工科大学 本館7階ギャラリー/本館前広場
(本館前広場でのインスタレーションは10月31日[水]まで)
休館日=10月28日、11月3日、4日
(日、祝日休)
主催=東北芸術工科大学
企画・お問い合わせ=美術館大学センター 
Tel 023-627-2091
Fax 023-627-2308
E-mail museum@aga.tuad.ac.jp
キュレーター=和田菜穂子

概要はこちら

*日時が変更になりました!

スペシャル企画①「声:言葉のもつ力 ~ぼくたちの未来宣言」
日時=10月31日(水)18:00-20:00(申込不要)
会場=本館7階ギャラリー
別会場=本館408(会場が満席の場合は、別会場にてU-streamで視聴できます)
ゲスト=山川健一(作家、本学文芸学科長)、竹内昌義(建築家、本学建築・環境デザイン学科長)
アーティスト=原高史、西澤高男
司会進行=和田菜穂子
USTREAMはこちらから
音声のみ(全記録)

スペシャル企画②「記憶と風景 ~忘れられない風景について」
日時=11月8日(木曜日) 18:30-20:00(申込不要)
会場=本館7階ギャラリー
別会場=本館201(会場が満席の場合は、別会場にてU-streamで拝聴できます)
ゲスト=五十嵐太郎(建築史家、東北大学教授)、根岸吉太郎(映画監督、本学大学長)
アーティスト=原高史、西澤高男
司会進行=和田菜穂子
USTREAMはこちらから

イベントスケジュール1週目~(10月22日~)
イベントスケジュール2週目~(10月29日~)

展示コンセプト

本館7階ギャラリーを6つの部屋に区切ります。

Room #1 声の灯火  Light with Voices
複数の声が飛び交い、闇の中でほたるのように点滅する小さな灯。消え入りそうなか細い声や、自信に満ち溢れた快活な声。様々な声が交差する異空間が、これから始まる展示空間へと誘います。展覧会「記憶の声」の導入部。西澤高男のインスタレーション。

Room #2 声プロジェクト Introduction of “Coe Project”
今年4月よりスタートした「声プロジェクト」は、ふたりのアーティストと、本学の学生・教員が協力しあい、進めてきたプロジェクトです。今までの経緯と展覧会の概要説明を行います。

Room #3 記憶の風景 Landscape into your Memory
「あなたにとって忘れられない風景は何ですか?」
目を閉じれば、頭の中に思い浮かぶ風景。忘れられないひととき。人生を変えたひと言。インタビューした中から選りすぐりの声を、雲の上にいるような心地で、リラックスしながら体験してもらいます。
*体験型展示(予約制)。

Room #4 追憶の場所 Remembrance
学生と先生が1対1で対話したインタビュー集をじっくり拝聴する空間。7階から山形の風景を眺めながら、先生の声にじっと耳を傾け、追憶の風景をイメージします。

Room #5 記憶の森 Forest into your Memory
人の「記憶」というものは時の経過とともに、おぼろげなもの、不確かなものへと変化していきます。この空間は「記憶の森」です。心の奥底に眠る「記憶の声」を呼び起こし、各人の「記憶の断片」は<言の葉>となって、空間を埋め尽くします。原高史のインスタレーション。

Room #6 小さな物語 A Small Tales - Pocketbook -
溶けだしたキャンドル、横向きもしくは後ろ向きの少女、動物のシルエット。それらひとつひとつは、黒く縁どられた窓の中に<小さな物語>として描かれています。原高史が数年に渡りインタビューを繰り返してきた中で、彼の心のポケットに集められたモチーフたちです。彼独自の世界観が表現されています。新作(平面作品)の展示。

Outside 声の広場 Open Space “Coe”
本館前広場は期間限定で様々な「声」が集い、交差する場に変容します。そこに並べられた「白い椅子」にはQRコードが貼られ、先生や学生のインタビューの声が収められています。「白い椅子」の配置の変化は、インスタレーション作品のひとつとなります。<声の広場>で繰り広げられる、「白い椅子」を使った各種イベントは、人々の心に「新しい風景」として記憶されることでしょう。

Artist

原高史|Takafumi Hara

原高史|Takafumi Hara
現代美術家。東北芸術工科大学デザイン工学部グラフィック学科准教授。1968年東京生まれ。1992多摩美術大学大学院絵画学科油画専攻修了。200-2002年ドイツ・ベルリン滞在。平面作品の他、ワークショップやプロジェクト型のアート活動を国内外で幅広く展開している。歴史的建造物の窓にその土地固有の記憶や、人々の思い出にまつわるパネルを展開していく窓プロジェクト《Signs of Memory》は、人と人との対話から生まれるアートである。今回は7階で平面作品(新作)を出品するほか、白い椅子を使った屋外でのプロジェクト型インスタレーションを展開する。
http://takafumihara.jp/

西澤高男|Takao Nishizawa

西澤高男|Takao Nishizawa
建築家・メディアアーティスト。東北芸術工科大学デザイン工学部 建築・環境デザイン学科准教授。1971年東京生まれ。1995年横浜国立大学大学院工学研究科計画建設学専攻修了。建築設計事務所"buildinglandscape"、及びメディアアートユニット"Responsive Environment" 共同主宰。

Responsive Environment
空間に関わる様々な領域をクロスオーヴァーするコラボレーションにより、空間表現を行うユニットである。1993年の結成以来、様々なパフォーマンス、インスタレーションや建築に関わる作品の制作、プロジェクトの発表を行ってきた。2004年より本学プロダクトデザイン学科専任講師の酒井聡もメンバーとして加入。松島紅葉ライトアップ、車座 -Post Peak Oil Orchestra-(谷川俊太郎/覚和歌子 詩の演出)、東京カテドラル聖マリア大聖堂マルチメディア空間パフォーマンスなど、照明装置を使ったインスタレーション多数。
http://www.responsiveenvironment.com/