古郷秀一作「限定と無限定」の保存修復

古郷秀一作「限定と無限定」の保存修復

工藤美穂 Miho Kudo
[美術史・文化財保存修復学科]

赤坂憲雄 評
ここで取り上げられている作品は古郷秀一さんの「限定と無限定」という鉄の彫刻作品です。彼女は錆を落としたり、塗装をし直したりする修復作業を進めなが ら、その過程を論文にまとめているのです。まず、その論文の内容に圧倒されました。もう修復家のレベルに届いているのではないかと思うくらい立派でした。 作品を修復する前に、作者である古郷氏にきちんと聞き取り調査をし、化学的な分析調査も背後にある。その上でどこまでを修復するべきかを誠実に考えてい る。論文を読んでいて、たいへん印象的だったのは、彼女には、今、生きている芸術作品や芸術家に対して愛があるということですね。僕はその姿勢に感動しな がら、同時に、この大学に文化財保存修復学科が存在する喜びを、是非ともほとんどが作り手側である学生の皆さんと分ち合いたいと思いました。君たちの作品 がどこかに展示されて、数十年経って修復家の手が入らなければならなくなった時に、こんなふうに愛されて修復されたらたいへん幸せなことです。やっぱり愛 があるんです。読んでいて幸せのひとときに包まれました。

(2007年度 卒展プライズ受賞作品)

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Rolly free

Rolly free

遠藤勇太 Yuta Endo
[工芸コース]

茂木健一郎 評
最初はただのオートバイが置いてあると思ってスルーしようとしたのだけれど、何か引っかかりました。本人に聞いたら、自分でつくっていると言っていたの で、馬鹿な奴だなぁと思いました(笑)。これ、パーツとかも自分で金型切り出して加工したり、自分で型式認定を受けてナンバープレートつけて公道を走って いるらしいのです。僕が好きな話で、あのマルセル・デュシャンのレディメイドの男性便器、つまり『泉』は、実はデュシャン本人が自分でつくったという説が あるのです。それに対してデュシャンの友達が、買うところを見ていたという証言をしたりしてね。オートバイというのは既製品の最たるもので、もし自作しよ うとしたら、明らかに自分がつくったということを知らしめるために、奇抜なデザインにしたりするわけでしょう。いかにも俺がつくりましたよみたいに。これ はどう見ても、そこら辺にありそうというか、あまりデザインされすぎてない。でも、あえてそれを自分でつくっているところに、いろんな文脈が入り込みうる ところを突いている。壮大な愚行というのかな、誰もやろうと思わないことをやるというか。まだ大きなスケールではないし、技術的に優れたものでもないけれ ど、若者らしい夢を感じさせたので、僕は素直に惹かれました。

(2006年度 卒展プライズ受賞作品)

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釜屋りえ Rie Kamaya
[彫刻コース]

酒井忠康 評
独特のパワーと、ちょっと細かいことは気にしない、野生的な凄みがあって、それが審査されていたみなさんの記憶を引き出していたのかな。柿渋が臭ったのが また良かったのかもしれない。彫刻というのは、作品の造形的なスタイルに捕われることよりも、石や鉄、石膏や木などの素材自体に執着する、変に堅苦しいと ころがあるのです。学生のうちに、素材を扱うことを学ぶことは大切ですが、一方で、素材に頼る姿勢からも自由にならないといけない。自分なりの彫刻を、 「もっとダイナミックに発想して、実験的にやりなさいよ」という、一つの励みとして彼女の作品を考えられたら、他の保守的な学生たちも、ぐっと主観的な方 向にも踏み出しうるというのが一つですね。

(2006年度 卒展プライズ受賞作品)

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La Magistral

La Magistral

山川晃 Hikaru Yamakawa
[大学院映像コース]

茂木健一郎 評
僕はこの作者にすごく興味を持ちましたね。どれだけいろんなことを通り抜けて、こういう表現に至るのかなという感じがします。僕は優れた作品は、必ず何か を上手く隠蔽していると思うのです。だから僕は、このCG作品が何を隠しているのかということにすごく興味がありましたね。例えば、一輪車に乗っている人 の造形だとか、その列が乱れずに走り続けていて、それを群集がチアしているところに非常に深い批評性を感じました。それを考えなくてもわかるようなら、 ちゃちな作品なのです。

(2006年度 卒展プライズ受賞作品)

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一列に並ぶ、群生

一列に並ぶ、群生

南健吾 Kengo Minami
[洋画コース]

酒井忠康 評
私はちょっと戸惑う感じで見ていましたけれども、特別に奇をてらった絵画だとは思いませんでした。ドイツのホルスト・アンテスの描くシンプルな人間像と か、文学で言えばフランツ・カフカの超現実主義的な世界観とか、いろいろなことを作品から連想できましたね。ただ、奈良美智と同じように、こういうキャラ クター創作的な絵画が時代に評価され、一人歩きしていくと、もはや自分が描いているのか、キャラクターが一人歩きしたものを追いかけているのかわからなく なるような、そういう現象が生まれるのです。でも、この作品を追いかけている自分を、さらに客体化して追いかけ、分析していくというような、二重三重の構 造が、今後の彼の想像力に働かせうるようだと、この人は非常に恵まれた素質があるように思いますね。これからです。

(2006年度 卒展プライズ受賞作品)

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共存する住宅

共存する住宅

山家章宏 Akihiro Yamaya
[環境デザイン学科]

茂木健一郎 評
僕はメタボリズムだとか隈研吾の『負ける建築』だとか、フンデルトヴァッサーの直線を排した建築とか、この構想に近いものというのは過去にいくつかあった と思うのですが、そういうのを踏まえたうえでもオリジナリティを感じていました。特に関心を持ったのは、多様性と景観の統一性をどう両立させるかというこ とですね。日本では様式の統一がほとんど成されていなくて、景観が本当にムチャクチャになっている一方で、画一化されるのを嫌がる。山川君の提案は、基本 的にAというものをユニットとしながらも、ユニットをどうつなげるかというところで多様性を持たせることにより、多様性と様式的な統一感を両立させる道を 示しているということと、空間利用が効率的ですよね。ただ、ウィーンのフンデルトヴァッサーが構想していた、丘陵集合住宅にするような建築があります。そ れは実現していないのだけれど、おそらくこれも実現するのは難しいだろうと思いますが、よくやったなという感じですね。

(2006年度 卒展プライズ受賞作品)

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