センター概要

所長あいさつ

東北文化研究センターは、大きな節目を迎えました。

山形盆地東部の山裾に東北芸術工科大学が開学されたのは1992年、まだバブル景気の余韻醒めやらぬ時代でした。以降、日本経済の成長は減速し、人々の生活に対する不安が高まってゆきました。そして1999年、20世紀末に東北文化研究センターが大学附属の研究機関として誕生し、大学建学の理念の具現化とアイデンティティー創出を目指し、ユーラシア大陸あるいは環太平洋に存在する周辺諸国、諸民族との歴史的関係性に基づいた新たな日本文化の掘り起こしを目指す研究がスタートしました。当初は民俗学を軸に思想史的視座から東北、日本、東アジアへと広がるまなざしをもって日本文化の読み直しを試み、やがて民俗的視点に人類史をも包含する民俗・人類、考古、歴史といった三学協働体制の研究機関へと成長しました。

『東北学』は、地域に生きる人々と学問を繋ぐ場として存在してきました。今回の震災とそれにつづく放射能問題は、学問とは何かという命題も突きつけています。学問的野心と現実の生活との断層が露わとなりました。人々の幸福のために存在すべき学問が人々を守れなかった。その現実は、学問に生きる私たちに「変われ」と要求しています。少なくとも『東北学』という場は、学問のための学問ではなく、人々とともに在る学問を目指さなければなりません。とりわけ、この大地にこれから生きてゆこうとする若者たちに開かれた場の学問へと脱皮しなければなりません。東北文化研究センターの仕事は、何気ない日常の風景の中に歴史と文化を発見し、人々にとっての幸福とは何かを追求する人間学の実践に他なりません。そのような意味で、私たちの仕事の成果は、卒業し社会へと出て行く若者たちの生き方の中に顕著に現れることになります。

東北文化研究センターは学生と地域、大学と地域をつなぐ場として存在します。今後とも皆様の御指導と御支援を賜りながら研鑽に励んで参りますので宜しくお願いを申しあげます。

東北芸術工科大学東北文化研究センター所長  田口洋美