2012.03.29
『BIVOUAC FOR TOHOKU―復興の野営』報告
記録撮影:小板橋基希(アカオニデザイン)
『六本木アートナイト2012』で実施した復興野営『BIVOUAC FOR TOHOKU/ビバーク・フォー・トーホク』。3月24日〜25日の2日間で、女川仮設商店街に寄贈するベンチ&スツール100台を、アートナイトに集まった人々と一緒に組立ててきました。
現場で組立指導(教官?)を担当するのは『福興会議』や『スマイルエンジン山形』で、復興支援を続けてきた芸工大と山形大学の学生たち。東京在住の卒業生も応援に駆けつけてくれました。全員、スマイルエンジン山形の緑のビブスを着て作業にあたりました。
制作する木製ベンチ100台分のパーツは『石巻工房』から提供していただいたものです。学生たちは事前に石巻で工房長の千葉さんから行程を教わり、自分がちゃんと教えられるよう綿密に予習・復習をくり返してきました。現地でも手順の確認に余念はありません。
『BIVOUAC FOR TOHOKU』では、参加者4名+学生2名でチームを組み、1時間でベンチを1台+スツール1台を組み立てていきます。24日は夕方から明け方まで徹夜で働きます。まさに野営ですね。華やかな六本木の夜に、「ガガガガ」とインパクトドライバーの打撃音が響きます。
参加者のほとんどは電動ドライバー(業務用)など使ったことがないので、作業前にすこし練習をしてから組立てに臨みます。また、グループは受付順にランダムに編成するので、参加者もはじめて出会った人同士です。はじめはギコチナイ共同作業ですが、完成後の記念写真はすっかり打ち解けていました。
『BIVOUAC FOR TOHOKU/ビバーク・フォー・トーホク』の目的は、ベンチをつくることではなく、東北と東京の若者が、アートナイトで一緒に復興ボランティアをすることです。テントの一角で『coffee aid』チームが美味しいコーヒーをドリップして、山形のラスクとともに作業後に提供します。
参加者と学生は、協力して組立てたベンチに座ってコーヒーを飲み、震災のこと、ボランティアのこと、いまの被災地のこと、このベンチがどこで/どのように役立てられるかなど、じっくり語らいます。そして最後に、ベンチの裏にオリジナルスナンプを押し、そのまわりに参加者から応援メッセージを書いていただきます。
完成したベンチやスツールは、すぐにテントの外に出して、アートナイト会場の様々な場所に置かれていきます。休憩所に、ミニシアターの椅子に、他のワークショップブースに、座談会の観客席に…と、様々な用途で使われていきます。
僕たちがキャンプテントをはったのは、草間彌生さんの巨大なバルーン、日比野克彦さんの張り子の舟『こよみのよぶね』、遠藤一郎さんの『未来へ号』などが集結し、夜通しパフォーマンスやライブが繰り広げられるアートナイトのメイン会場『六本木アリーナ』。日付が変わっても、人波が途切れることなく押し寄せます。
特に、24日夜(ピークタイム)に集まった人々の熱気とエネルギーはすごかった。アートナイト全体のエネルギーには比すべきもありませんが、その一部を「復興に役立てる」というコンセプトは、事故も怪我もなく、予約満員御礼で100台組み立てた時点で達成できました。
まわりがお祭りさわぎの中、きちんとミッションを貫徹した学生たちを誇りに思います。組み立ての指導はもちろん、各テーブルごとのコミュニケーションもしっかりできていました。
2日間で組立てた100台のベンチは、アートナイト終了後すぐにトラックに積み込んで、翌日のお昼には建設中の女川仮設商店街に届けられました。地元商工会のみなさんに協力してもらって、全部で50店舗ある商店街のひと部屋ずつ、ベンチとスツールを配りました。いつか、それぞれのお店で椅子をひっくりかえしているお客さんがいたら、それは間違いなく『BIVOUAC FOR TOHOKU/ビバーク・フォー・トーホク』の参加者でしょうね。
設営もふくめた3日間、ほとんど眠らないで、六本木アートナイトにじっくり浸りましたが、エモーショナルな表現と地域系プロジェクトが混在しているほうが、アートの豊かさや可能性を感じられると思いました。
『BIVOUAC FOR TOHOKU』はアートプロジェクトではなく、むしろあえて「非アート的な〈ボランティア作業〉を持ち込む」ことで、(例えば草間さんの作品に対して)カウンターパートとして機能することを考えていたのですが、そうした差異をも包括する大らかな力がみなぎっていました。
「つながる/ネットワークをつくる」ことが目的ではなく、異質なもの同士が出会い、共鳴することで生まれるエネルギーにこそ、アートの豊かさがある。学生にとって得難い経験になりましたが、僕にとっても震災後のアートを考える上で重要なヒントを得た素晴らしい夜でした。
復興野営、またやりたいなぁ!
宮本武典(TRSOプログラムディレクター)