東北復興支援機構 | TRSO

『キッズアートキャンプ山形 2012』終了しました。また来年!

『キッズアートキャンプ山形2012』(8/3〜5)、こども劇場での『新訳“てぶくろ”』の発表もふくめ、すべてのワークショップ・プログラムを終了しました。眠っていた感覚・感性を揺り起こす、ダンス、衣装、音楽、美術の各ワークショップが、有機的にからみあいながら劇空間をつくっていった3日間のセッション。フィナーレのダンス公演は、そのピークにふさわしい祝祭的な一体感に包まれた素晴らしい時間でした。

『新訳“てぶくろ”』は、原作の「その後」を創作しました。ウクライナ民話である『てぶくろ』のストーリーは、かつてのソビエト連邦、現ロシアという多民族国家生成の歴史を想起させます。(そしてまた、ウクライナ共和国はあのチェルノブイリの痛ましい記憶を抱えた国です)極寒の冬、森の動物たちが身をよせあった『てぶくろ』は失われましたが、私たちが3日間で創作した「新訳」では、一度は離散した動物たちがふたたび種をこえたキャラバンを組織し、簡素な村を建設します。森の動物に扮した南相馬の子どもたち、お父さんお母さん、山形と京都の学生たちが、隊列を組んで登場するたび、はじめは何もなかった舞台に、ひとつまた一つと色鮮やかなテントが立ち、暗い森に明かりが灯っていくのです。

伊東歌織さんの振り付けは、踊りの型を与えるのではなく、子どもたちのありのままの姿・身振りを尊重するものでした。飛田正浩さんのプリントワークからは、人々の愛情や哀しみを記録する媒体としての生地(→衣服→風景)という刺激的な着想を得ました。村山政二朗さんが学生たちと劇場につくりあげたサウンドスケープは、森の混沌、静寂、不思議さ、おそろしさを見事に表現していました。
そして原高史さんの美術と中山ダイスケさんの演出は、舞台上のすべての要素を、個であり、かつまた全体として融合させる「つなぎ役」に徹していました。コミュニケーションの質を求めた今回のキャンプにおいて、お2人の仕事はもっとも創造的な行為だったと言えるかもしれません。

被災者/支援者の垣根をこえた「私たち」が、この3日間のセッションで体験したこと、学んだことは、それぞれの時間や場所に帰ったこれから、ゆっくりと咀嚼され理解されていくのだと思います。このプロジェクトを企画した僕自身も、まさに今、そのような反芻の時を過ごしています。

宮本武典(東北芸術工科大学准教授/TRSOプログラムディレクター)