2017年度の文芸論5の概要を記録として書いたので、今度は2018年度である。自分の担当する授業は毎年内容を変えていく(ただしある程度は)と決めてしまったので、ここでもその自分ルールに悩まされている。しかし、自分自身の勉強にもなるので、そう述べているほど嫌ではないのが現実である。
1:ガイダンス+池田理知子「日常のなかの差別:差別するかもしれない「私」」(『日常から考えるコミュニケーション学』ナカニシヤ出版、2015年)
初回からの何回かはピンポイントなテーマというよりは、受講生の皆さんそれぞれが引っかかる観点のある論考を読もうと思い、取り上げている。
2:遠藤英樹「恋愛と旅の機能的等価性―「虚構の時代の果て」における聖なる天蓋―」(遠藤英樹・松本健太郎・江藤茂博編『メディア文化論』ナカニシヤ出版、2013年)
テレビ文化と恋愛の話である。90年代の映像をいくつか流して、喋っている自分自身が懐古に浸ってしまった気がする。
3:香月孝史「アイドルの「虚」と「実」を問い直す」(『「アイドル」の読み方 混乱する「語り」を問う』青弓社、2014年)
ここでアイドルである。アイドルに関する論考を毎年のように取り上げているのは、自分自身は興味ないのだが、それでも世間的に注目されている存在だからである。
4:辻泉「なぜ鉄道オタクなのか―「想像力」の社会史」(宮台真司監修『オタク的想像力のリミット 歴史・空間・交流から問う』筑摩書房、2014年)
私自身は鉄道に興味がなく、安全に乗れればそれでいいのだが、やはり自分の知らない分野にも目を向けるべきではないかと思い、取り上げた。とはいえタモリを筆頭とした鉄道好きがメディアで語るのは嫌いではない。
5:須川亜紀子「「魔法少女」アニメからジェンダーを読み解く―「魔」と「少女」が交わるとき―」(岡本健・遠藤英樹編『メディア・コンテンツ論』ナカニシヤ出版、2016年)
ここからオタクコンテンツに関する論考を取り上げるようになっていく。受講生にとっても何かしらの魔法少女に触れて大きくなってきたようで、映像の一部を流してみると引っかかる作品が存在しているのがわかる。
6:広瀬正浩「声優が朗読する「女生徒」を聴く―声と実在性の捉え方―」(『昭和文学研究』71号、2015年)
論考でも取り上げられている花澤香菜さんによる太宰治「女生徒」の朗読を皆さんと一緒に聞いた。聞いている我々が、メディアを、そしてそこで起こる現象をどう捉えるのか。
7:伊藤龍平「ツチノコも繁殖する―「恐怖」から「愛玩」へ」((一柳廣孝・吉田司雄編『妖怪は繁殖する』青弓社、2016年)
ツチノコである。皆さん何となく知ってはいるのだろうが、メディア論であり、ネットロアであり、多角的に現象をとらえる必要がある。
8:石原千秋「なぜ読者が問題となったのか」(『読者はどこにいるのか 書物の中の私たち』河出書房新社、2009年)
ここから文学理論に入っていく。去年と同じ形式であり、文芸学科の学生には復習も兼ねている。まずは読者論である。
9:都留泰作「時空感覚と社会空間の研究」(『“面白さ”の研究―世界観エンタメはなぜブームを生むのか』角川新書、2015年)
「面白さ」というのは曖昧だから、で片づけずに理論的に考えるのは、どうしたらよいのか。その一端を提示してくれているので、批評だけではなく創作においても考え得るポイントである。
10:橋本陽介「登場人物の内と外」(『物語論 基礎と応用』講談社、2017年)
タイトル通りで物語論を基礎から応用まで学べる非常に優れた書籍である。『この世界の片隅に』の話をしたのを覚えている。
11:横濱雄二「憑物落し、あるいは二つの物語世界の相克―京極夏彦『姑獲鳥の夏』」(押野武志・諸岡卓真編『日本探偵小説を読む 偏光と挑発のミステリ史』北海道大学出版会、2013年)
ここからまた少し傾向を変えて、具体的な作品に焦点を当てた論考を取り上げている。『姑獲鳥の夏』は映画化もされ、著名だから問題なかろうと思っていたのだが、そのようなことはなかった。受講生の皆さん、知らなかったのね……となった。
12:西村大志「食─ひとり飯にみる違和感と共感のゆくえ」(山田奨治編『マンガ・アニメで論文・レポートを書く―「好き」を学問にする方法』ミネルヴァ書房、2017年)
『孤独のグルメ』を筆頭とした久住作品を取り上げた論考である。『孤独のグルメ」の知名度はさすがであった……。私も毎年年末特番を欠かさずに見ているし……。
13:岩川ありさ「二次元の死に責任を持つこと―『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』論」(『ユリイカ 総特集 岡田麿里』50巻3号、2018年)
『鉄血のオルフェンズ』である。作品論にとどまらず視聴者がどう考えるのかにまで踏み込んだ論考になる。ちなみに同号には山中智省さんの論考と私の論考も収録されていて、何かの研究会の帰りに山中さんと論考に関して話した記憶がある(授業とは関係のない話)。
14:上田麻由子「白ワンピース前史 細田守作品における少女の「向こう側」」(『ユリイカ 総特集 細田守の世界』47巻12号、2015年)
『明日のナージャ』で細田守さんが手掛けた伝説回「フランシスの向こう側」を実際に視聴した。光と影、時間の進み、物語の抑揚、そのすべてが30分の時間を忘れさせるぐらいに凝縮され、しかし詰め込まれすぎていないというのは、なかなか味わえるものではない。
15:受講生によるセレクト作品の批評
そして毎年のように、最後は受講生自身が具体的に作品をセレクトし、批評するのである。