【「戦略」調査報告】高畠の洞窟遺跡群・日向洞窟の発掘調査
8月30日〜9月13日、長井謙治(歴史遺産学科講師・東文研究研究員)を団長に歴史遺産学科学生を含む23人の調査団により、高畠町の「国指定史跡日向(ひなた)洞窟遺跡」の発掘調査(試掘調査)を行いました。
日向洞窟とは縄文時代が始まる頃の暮らしを研究する上で重要な遺跡として、長く先史考古学の世界で知られてきました。古く昭和30年代を中心として、山形大学、東京大学、高畠町教育委員会などの大学・行政諸機関による発掘調査が行われています。その結果、洞窟周辺部から、量的に豊富な縄文時代の遺物が出土することが判明しています。
従来の考古学界の常識では、洞窟遺跡といえば、遺跡に居住した人々の居住域は、洞窟の内部かせいぜい洞窟前のテラスにあると考えられていました。発掘対象地もそうした予測の範囲内に止まっていました。ところが、1988(昭和63)年の建設に伴う高畠町の緊急発掘調査によって、予想を覆す成果がもたらされました。洞窟から約150m離れた地点で、洞窟の中で出た資料とそっくりのものが多数見つかったのです。
この成果を受けて私たちは、洞窟地点と約150m離れた地点で見つかった資料が一連のものであるか、遺跡の広がりと遺物の堆積状況の把握を目的とした調査の実施に踏み切りました。日向第1洞窟とその前庭部(西地区)については、これまでも様々な研究機関によって、断続的な調査が行われていますが、各々離れた場所に位置する調査地点間の関係性については、良くわかっていませんでした。
今回の発掘調査により、日向洞窟周辺部に広く縄文時代草創期の遺物包含層が残存していることが確認されました。結果、洞窟をランドマークとした生活の痕跡が洞窟周辺の広い範囲に認められる可能性が強まったといえます。
身近にある日向洞窟遺跡は日本の縄文時代の研究には欠かせないきわめて貴重な遺跡です。今後も継続的に調査する予定です。
(長井謙治)