『作品読解』は入学した一年生が受講する授業である。このブログでもちらちらと書いてきたし、玉井のtwitterアカウントでも毎回つぶやいていたのだが、前期も終わったのでここでまとめておこう。授業として何をしているかというと作品を読み、情報をきちんと把握し、要約を書くことを15回行っている。基本中の基本であるが、これが意外にできない。ちなみに今年は、授業第15週目が8月初旬にまで食い込んでおり、まさかのオープンキャンパス後にも授業を行ったのである(そして8月第2週は集中講義)。
ちなみに去年までのものは以下にまとめてある。気分で書いているので、全作品を取り上げていないものもある。今、見ると何だか毎年同じようなことをしているので、少し反省してしまう。
- 2018年度 http://blog.tuad.ac.jp/tuad_bungei/archives/591
- 2017年度(途中まで) http://blog.tuad.ac.jp/tuad_bungei/archives/531
- 2016年度 http://blog.tuad.ac.jp/tuad_bungei/archives/401
1:青崎有吾「三月四日、午後二時半の密室」(『早朝始発の殺風景』集英社、2019年)
初回授業は高校生が主人公のものにしよう、という謎の考えから、この作品をセレクトした。一応、受講生はつい数週間前まで高校生であったはずだから、読みやすいのではないかと思っているが、どうなのだろうか。本質的には経験からでしか読めないのは、読む手段が少なすぎると思っている。
2:彩瀬まる「かいぶつの名前」(『朝が来るまでそばにいる』新潮社、2016年)
二回目は学校を舞台にした作品を取り上げた。とはいえ、初回の舞台が学校ではなかったように、この作品も教室という物理的空間に縛られたものではない。それでもとらわれてしまった存在に対し、何を思うのだろうか。と思ったりもしていた。
3:小嶋陽太郎「友情だねって感動してよ」(『友情だねって感動してよ』新潮社、2018年)
そして三回目では教室内の出来事を描いたものを取り上げた。教室内という人間関係、そして権力関係を描いていくと、どうしてもそこから逸脱した存在に目を向けていくことになる。そのような呪縛から解き放たれて欲しいと思う(と作品とは最早関係がなくなっている)。
4:町田そのこ「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」(『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』新潮社、2017年)
そうなんですよ。結局必要なのは力強さなんですよ。
5:白尾悠「夜を跳びこえて」(『いまは、空しか見えない』新潮社、2018年)
そしてもう一つ必要なのは、ほんのわずかな勇気。
6:中田永一「ファイアスターター湯川さん」(『私は存在が空気』祥伝社文庫、2018年)
ここから教室にとらわれた話ではなく、いろいろなジャンルを読んでいこうという姿勢になっている。中田作品(というか乙一作品)が好きすぎるのか、授業の前の日にkindle版との比較をしていた(けど、授業では特に活用しなかった)。
7:円居挽「DRDR」(『さよならよ、こんにちは』星海社FICTIONS、2019年)
まさかこの記事を書いている8月初旬のtwitterで、ドラクエ5(具体的には映画)の怨嗟ツイートをここまで目にすることになるとは思いもしなかった。実はこの作品で個人的なツボは、主人公が年上にもてあそばれているところである。
8:米澤穂信「913」(『本と鍵の季節』集英社、2018年)
この作品の絶妙なキャラクター設定が見事だなと思っている(と玉井がえらそうなことを書いている)。ちなみに個人的にこれ以降、ハトムギ茶を飲むようになった(爽健美茶を飲むかわりに)。
9:武内涼「若冲という男」(『人斬り草 妖草師』徳間文庫、2015年)
ここから時代小説ゾーンに入る。みんな大好き妖ものである。描写のスピードの話などもついでにした記憶がある。
10:伊吹亜門「監獄舎の殺人」(『刀と傘 明治京洛推理帖』東京創元社、2018年)
この作品は本当に秀逸。単行本を読んだとき、うなってしまった。読めばわかる。
11:上田早夕里「くさびらの道」(『魚舟・獣舟』光文社文庫、2009年)
ポストアポカリプスを取り上げようと思った第一弾。とはいえ、この作品は破綻にまで至っていないが、もう破綻エンド以外見えないものである。
12:北山猛邦「千年図書館」(『千年図書館』講談社ノベルス、2019年)
ポストアポカリプス第二弾。現実世界に存在するものを散りばめながら、そこから読者に解き明かされることが前提で作られたものである。
13:門田充宏「風牙」(『風牙』東京創元社、2018年)
そしてSFに移る。SF的なガジェットや関西弁の少女という明確なキャラクターだけではなく、人間の本質的な悩みにまで迫る作品だと思う。
14:柞刈湯葉「たのしい超監視社会」(『S-Fマガジン 2019年4月号』早川書房)
ディストピア作品。みんな大好きビッグブラザーである。いや、皆さん、『1984年』はあまり読んでいないようであったが……。
15:小川一水「千歳の坂も」(『フリーランチの時代』ハヤカワ文庫、2008年)
ラストは長いスパンを描いた作品を取り上げた。この描き方は簡単に思えて難しいし、二人の物語という主軸をずらさずに、でも社会や国家、経済というものが変容していく様も組み込まなければならない。