先ほど松智洋さんの訃報に接して、茫然自失となってしまった。はじめてお会いしたときは私はまだ大学院生だったか、前任校で仕事を始めたぐらいのときであった。松さんは『迷い猫オーバーラン!』を怒涛のごとく刊行されている時期だったような気がする。当然のごとく、私はちんけな若造であるので松さんの記憶には残っていないだろうと思っていたが、そのあと別件でお会いした際に「久しぶり!」と声をかけていただいたことは非常にうれしかったことを覚えている。縁はまだまだ続く。その後、私は現在の東北芸術工科大学芸術学部文芸学科に赴任したのだが、そこでライトノベルの授業の特別講師として来られていたのが、松智洋さんであった。また、「久しぶり!」である。そして次に「就職おめでとう!」であった。
松さんは常に他人のことを気に掛ける人で、コミケ会場やそのほかで会ったときにも「こないだの授業に来ていたあいつはどうなった?」、「ちゃんと書かしているかい?」と立ち話でうちの学生を心配してくださるのだ。「いい作家を育てろよ」、「玉井さんがこれはいけると思ったら、すぐに紹介しろ」と有形無形な感じで教育者としてはペーペーの私に発破をかけてくれた。『文芸ラジオ』創刊号をお送りしたら、「俺の授業を受けたやつが小説を書いているじゃないか!」と読み、「俺の授業を本当に聞いていたのか!?」と読後に笑いながら言っていた。授業も非常にアグレッシブで、経験と理論、そして誰も越えられない努力を土台にした言葉を学生に投げていただき、参加した学生に大きな刺激を与えてくれた。「ライトノベル作家だから」となめてかかる文学青年に対して「きみ、面白いねえ」と言ってにこにこしながら学生の話を聞いていたことを覚えている。にこにこではないか。にやにやかな。
思い出はたくさんあるのに言葉が上手く続かない。私のできる恩返しは出版業界に学生たちを送り込み、死後の世界で会った松さんに「どうですか、やってやりましたよ」と言うことである。そして以前、「飯を食おうか」と店の前まで行ったはいいが満席で入れなかった焼肉を、一緒に食べることである。「今度、あの店の焼肉に行こう。美味しいんだ」と言ってくれた「今度」はまだまだ先延ばしである。松智洋さんのご冥福を心よりお祈りいたします。