文芸戦争と青色ラジオ その4 ―文芸ラジオ3号紹介―

 別に論争状態にあるわけではない。VSという表記を第三特集「有川浩VS.西尾維新」では使ったのだが、実はかなり迷った語句ではあった。このままでは対決をあおっているように受け取られてしまうのではないか。もしくは作品自体の対立ではなくとも、評論として対立軸が存在するという幻想を見せてしまうのではないか。と思い、何度か「VSではなく×はどうだろうか」と編集会議で発言すべきと思ったのだが、「×は×で、どちらが攻めでどちらが受けかの問題があるなあ、そっちのほうがダメだなあ」と自己完結して飲み込んでしまう日々を過ごしていた。

 何を考えるためにこの特集を組んだのかという論点に関しては特集の趣旨文に書いたので、実際に買ってご一読いただきたい。これまで文芸ラジオでは、なかなか評論特集を組むことができずにいたため、編集に携わりながらも忸怩たる思いがあったことは否めない。その意味において今回、有川浩と西尾維新というビッグネームを考える特集を企画することができたのは、これまでのつかえが取れ、大きな仕事をした気分である。まあ、私は一文字も書いていないけれども。

 有川浩に関してはトミヤマユキコさんと小新井涼さんに執筆をお願いした。トミヤマさんは著書『パンケーキ・ノート』の大ヒットでおなじみであり、近著の『大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』でもその鋭い着眼点がいかんなく発揮されているライター、研究者である。そして実は私の大学・大学院の同期。いや、同期であったというべきか。実は初めてお会いしたのは卒業後で、学部生時代の学籍番号に「98」が入っていることで同期だったことに気付いたのである。したがって同期というよりはエセ同期といったほうが適格である。さてそのトミヤマさんは日ごろから「岡田准一が好きというより岡田准一になりたい」とひらパー兄さんへの心情を吐露しているので、何も言わなくとも『図書館戦争』の話をしてくれるであろうと信頼して依頼をした。結果としてこちらの予想をこえる内容を提示してくれるのだから、さすがである。『図書館戦争』で描かれる男女関係が嫌味なく、不自然なく読むことができる(少なくとも私は)、その理由の一端が見えた気がした。

 小新井さんに初めてお会いしたのはコミケ会場である。Are you OTAKU? Yes! We are friends.な感じで今回、有川作品に関する原稿を依頼した。小新井さんはタレント活動をされる傍ら、北海道大学の博士課程に通われ学問にはげまれている才媛なので、私とはレベルの違う人なのだが、毎週放送されているすべてのアニメを視聴されているので、その意味でも段違いの方であった。この世は広い。さて小新井さんも『図書館戦争』を取り上げられているが、トミヤマさんとは読みも全く違っており、こちらも感心させられた。ご自身が経験されてきた社会的な流れと『図書館戦争』とをリンクさせる語りは見事というほかない。

 西尾維新に関しては玉川博章さんと山中智省さんに書いていただいた。玉川さんとはコミケでお会いし、というより毎回、サークル参加メンバーとして顔なじみである。たまに隣のブースになったり、二つ先になったり、別の島になったり、まあ、だいたいは同じ評論コーナーにいる。このように知り合いであるという点もあるが、玉川さんは西尾維新に関する先駆的な論考「青春の戯言―ライトノベルから見た西尾維新」(『ユリイカ』36巻10号、2004年)を発表されており、論考発表後の西尾維新の歩みを含めて、考察をしていただいた。ライトノベル研究だけではなく、メディア研究をメインで行っている玉川さんだが、お願いして書いていただき、まことにありがたい。山中さんは日ごろから同じ学術活動をしている仲間なのであるが、それはそれとしてやはりライトノベル研究の若手論者として非常に著名な方である。先日も山中さんにお会いしたのだが、その前に別の学問分野の方と話をしていると「山中さん、あ、ライトノベルの!」という感じで話が進む。もうエマーソン北村的な感じでライトノベル山中と改名しても違和感ない感じである(いや、嘘です)。著書の『ライトノベルよ、どこへいく―一九八〇年代からゼロ年代まで』は各所で引用され、世間の卒論でも多く参照されており、末永く読まれ続けるものになるであろう。その意味において西尾維新がラノベか否かという問題は山中さんだから、がっぷり四つで取り組めるものである。

 今回の評論特集は有川浩と西尾維新というビッグネームに対し、様々な角度から挑んだ意欲的な評論が並んでいるだけではない。もちろん、その点も大いに評価すべきなのだが、今後も参照され、卒論や修論、学術論文などで引用されるに堪えうるものである。その意味においても今回の特集を企画してよかったと編集者としては感謝している。ちなみに今回のブログの連作タイトル「文芸戦争と青色ラジオ」は有川作品と西尾作品をもじっていることは、一応ここで述べておく。

(その5へ続く予定)