「汗をかいて走った 世界の秒針が」

 根本的な問題として、読書量が足りないのではないだろうか。学生を教えていて覚える違和感の根源が、この点だろうと最近、ようやく気付いた。とはいえ、読書などは放置していても、寝食を忘れて勝手に読み始めるものとばかり思いこんでいたので、言わないと読まない(もしくは物語を摂取しない)ことには頭が回らなかったというべきかもしれない。そこで今年度からは大学4年間で最低でも1000冊は読もうと言っている。最低レベルであるし、1日1冊読まなくとも、たどり着ける数字である。楽勝。

 1年生は1週間に1短編を授業で読んでいる。ということは3年生のゼミではそれ以上に様々なものを読むべきではないかと思い、今年度はできる限り毎週のゼミで小説を一冊読もうとしている。たまに他の事をしているので、毎週というわけにはいかないが、少しでも蓄積の足しになればと考えている。何せ、自分の中にないものを生み出そうとすることは、ごく少数の天才にしかできないし、本当に天才なら大学の授業など関係なく勝手にやっている。

 

カルロ・ゼン『幼女戦記』

アニメ化されたものを読もうというどうでもいい理由から出発した。個人的には興味関心のポイントが全く合わず、「ああ、アニメを違和感なく見られたのは上手い脚本と演出なんだなあ」と思う羽目になった。とはいえ作者の好きなポイントとそれを受け取る読者のポイントが合致しているという意味では間違ってはいないので、その点は考えるべきだと思う。

 

七月隆文『僕は明日、昨日のきみとデートする』

実写映画化されたベストセラーを読むんだぜ。という理由で選んだわけだが、いろいろと考えさせられた。時代が求めている空気を上手く読み取り、SF的要素で味付けしていったという意味では、ピンポイントで読者が咀嚼可能なものを提供するというプロの仕事ではある。なお以前、授業で梶尾真治の短編を取り上げたことがあったのは付記しておこう……。

 

野崎まど『パーフェクトフレンド』

みんな! 正解するカドは見ているかい!

 

上遠野浩平『あなたは虚人と星に舞う』

 2000年代初頭にまで、うじうじと残っていたセカイ系の作品群から一つ選んだわけだが、うじうじしているから読んでいてつらくなる。内省的であることは時代的な要請であったのかもしれないが、時間が経過するだけで簡単に劣化してしまう。しかし逆にいうとエンタメとはこうあるべきなのかもしれない。

 

多崎礼『夢の上』

 ここで一つファンタジーを読もうとセレクトした。ハイファンタジーの難しさは世界観の理解をいかにスムーズにしていくかが一つの要素のような気がするが、若いころに読んだときと今とではまたその能力も変化しているのだと痛感した次第。

 

馬場翁『蜘蛛ですが、なにか?』

 思っていた以上に面白かったので驚いた作品。個人的にセレクトした理由は、乙一がtwitterで言及していたからであった。物語が一直線になりがちなところを、様々な工夫で読者を飽きさせないようにしているので感心させられたのと、物語の構成がやはり連載前提になっているのは大きく違うものだと考えていた。

 

支倉凍砂『狼と香辛料』

 言わずもがなの大ヒット作品。今、読んでも非常に面白い。これを新人で書いていたのか、と思いつつ、ゼミでも少し述べたが、クライマックス部分は普通のアマチュアは商談成立とともに握手するシーンを持ってきてしまう。しかし、それでは読者層との乖離が大きくエンタメとしては何も意味しない。

 

川原礫『ソードアート・オンライン』

 これは今度のゼミで読む。

 

 以上のようにゼミで読む作品はエンタメに特化しているので、それ以外を読みたい場合は自力で探してほしい。エンタメばかり読んでいるから楽しそうに思えるかもしれないが、自分に合わなくても読み続けなければならないのは苦痛でしかないので、見た目ほど手を抜くこともできないし、楽しくもない。その先に通じる自らの創作や評論にまで目を向けたとき、はじめて立体化し、体感できるものである。

 

BGM:LiSA「Catch the Moment」