「それでも僕たちは歩き続けるの、探し続けるの」

 よく雨が降り、風の吹く一日だった。今年の8月は例年よりも忙しく、前期授業終了後も採点、集中講義と続き、そのままお盆休みに突入してしまった。授業終了後の翌日がコミケ初日である。これはコミケ基準でなくとも、おかしくないか、と思うのだが、論理的に説明するよりも感情論が前に出てしまいそうである。そもそもコミケ初日には参加していないので感情も何もない。

 夏季休暇に入り、東京の自宅で過ごしているが、それほど暇になったわけではなく、コミケへのサークル参加、打ち合わせや会議、仕事の文章書きなどに忙殺されている。あとドラクエ11では勇者として仕事もしており、こっちのペースは遅い。勇者であるという事象に対し誰も疑問を示さないので、痣が光ればよいのなら勇者詐欺が蔓延してもおかしくない世界である。オーブを集めたので、そろそろ行かなきゃと思いながら、大事を前に小事である各地のクエストを消化しているので、勇者としての事務能力と処理能力の低さがここにある。そのような感じで、雨の続く東京を過ごしている。

 さて前期を備忘録のように振り返ると、今期は「物語に触れること」に注力した。何しろよほどの天才でないと「知らないものを書くこと」はできない。物語はメディアの差はあるが、細かいパーツに分割することができ、それをどう組み合わせていくのかが試される。もちろんキャラクター造形と物語構造は別物であるし、それぞれをどう切り取って、読み取っていくのかもまた違ってくるので、言うほど単純な作業ではないのは、その通りなのだが、まずは知ることから始めよう。そう考えて、今期はスタートした。したがって昨年度から開講している漫画ゼミでは、とにかく読むことを進めていった。これは教員としても実は大変な作業で、通常のゼミでも小説を一冊読み、漫画ゼミでは数十冊の漫画を読むことを毎週やっていると、「なぜ、こんな筋トレを……」みたいな感情が生まれてくる。以下は漫画ゼミの記録である(ちなみに通常のゼミの記録はこちら)。

 

・久米田康治『かくしごと』

 全く記録を取っていなかったので、ゼミ生に送ったメールを確認しているのだが、今年度はこれからスタート……? え……。

 

・眉月じゅん『恋は雨上がりのように』

 第二回にして最高の作品を取り上げている。のちにご本人にお会いする機会があり、「第一話が最高です! 過不足なくすべてが描かれていて、一ページごとに完璧です!」と話してしまったが、自分は何様なのだ。

 

・あずまきよひこ『よつばと!』

 初期から最近にかけての変遷とか、描き方の変化とか、コマの描き方とかいろいろと話したが、「あさぎはいいよね」しか覚えていない。誰にも同意されなかったが、あさぎ……。

 

・平野耕太『HELLSING』

 今さらかよ、という声が連続して届きそうだが、好きなものを描くことの追究と探求心の極致がここにある、ということを話した。

 

・古屋兎丸『帝一の国』

 実は読むのが一番つらかった作品。なぜ僕がそう思ったのかはゼミでは伝えたが、菅田将暉が太鼓を叩いているぐらいしか、もう脳内には残っていないし、それは映画版である。しかも映画は見ていない。

 

・柳本光晴『響~小説家になる方法~』

 文芸学科らしい……という体裁で、好きな作品を読んでいくスタイルである。

 

・白井弓子『WOMBS』

 これも同じく好きな作品を取り上げているが、SFに対する取っ付きにくさを少しでも払拭していきたいと常々思っているので、時たまSFを取り上げるようにしている。

 

・市川春子『宝石の国』

 これは構図もカメラワークも何もかも難しい。読むのは簡単でも、これは描けない。という話をした気がする。

 

・カトウコトノ『将国のアルタイル』

 新しくアニメがスタートする作品を読んでいこう第一弾。手探り状態で始まり、長期連載へとつながっていく過程が、物語作りとしては興味深い。

 

・つくしあきひと『メイドインアビス』

 新しくアニメがスタートする作品を読んでいこう第二弾にして最終回。最高。これほどまでにフェチズムに溢れていながら、性的な雰囲気を出さないのはすごい。そして2年ぐらい前に学生たちにこの作品を紹介したとき、「こんなマニアックなの読みませんよ……」と言われたのは、今でも忘れていない。

・荒川弘『鋼の錬金術師』

 前期最終回は最高の長編漫画を読もうぜ、というコンセプト。歌舞伎の見得のようなポージング、セリフ回しすべてが巧妙に計算されて、ダサくないのが素晴らしい。物語構成も微小と大局とを作者が完全に把握しているのがわかるので、読んでいて、感心しかしない。

 

BGM:miwa「Chasing hearts」