世界は幼なじみではない―幼なじみ萌え補遺1:対極に位置する『アシガール』―

 一時期から時代劇はもうオワコン(終わったコンテンツのこと)であると耳にするようになった。確かに水戸黄門や暴れん坊将軍、大岡越前は地上波から姿を消し、今の学生が時代劇に接する機会は大河ドラマに集約されてしまったような気がする。しかし、それほど簡単に消え去っているようには思えない。BSまで含めれば、時代劇は今もまだ現役で存在するし、映画や漫画、小説では多くの作品が世に送り出されている。まあ、こう見えて歴史好きではあるので、時代劇となったら右から左に見てしまうのだが、一つ一つを精査していくと時代劇という範疇でありながらもそのターゲット層は大きく違っているように思える。最近だと『赤ひげ』は叙情的であろうとしているのか、届けようと考えている年齢層は少しだけ高く、それに対し幅広いレンジで考えていたのが『みをつくし料理帖』ではないだろうか。さらに若い人でも視聴可能であったのが『鼠、江戸を疾る』なのかもしれない。二期で小袖ちゃんのキャストが変わったのは悲しかったが、少女が小太刀で可憐な立ち回りをすることが非常にツボだったので、心の中でガッツポーズをしていた。

 何が言いたいのかというと最近、『アシガール』が楽しみで仕方ないのだ。ドラマを見た瞬間に「これは面白い」となり原作を買いそろえるまでに至ったのはいいが(原作は森本梢子による漫画作品)、「ここで原作マンガを読んでしまうと話の続きがわかってしまう!」と思い、まだ積読状態である。そしてなぜか全8話だと勝手に勘違いしており、先週の放送が終わったら一気読みするつもりだった。しかし、まさかの次回予告の放送が行われてしまった。全12話だそう。いや、まさかでも何でもなく自分が悪いだけなのだが。そして毎週、ドラマを見ながら何を考えているのかというと、物語の次の展開を考えている。提示されたキャラクターと物語展開から、次はどう動いていくのかを考えていくだけで非常に楽しい。

 この楽しさは極めて限定的なものともいえよう。この物語の普遍的な楽しさはどこにあるのか。『アシガール』という作品は、やる気のない女子高生である主人公が、ある時、天才でありながらも引きこもりの弟が発明したタイムマシンにより戦国時代にタイムスリップしてしまったところから物語が始まる。そこで出会った領主の息子(超絶イケメンの若殿)に一目ぼれして、彼女は足軽となり、若の側で仕えようと画策していく。タイムマシン(小太刀型)を使うことで、制限は生じるのだが現代と戦国時代を主人公は行き来することはできる。そうか、往年のNHKで描かれてきたジュブナイル作品っぽいから受け入れられているのだ。個人的に青春アドベンチャーで味わってきた、ここではないどこかにふわっと浮遊できる感触がこの作品にもある。タイムトラベルは面白いなあ。と納得していた。

 しかし数話を視聴していると、それは違うのではないかという疑念が頭をもたげてきた。もちろん要素としては存在しているであろうが、タイムトラベルはガジェット的なものでしかない。小太刀を抜いて、次第に体が消えていき、気付いたら現代の倉庫の部屋(というのか?)にいた、となっても別にときめかない。この作品の一番の良さは、そのような目につくものではなく主人公のキャラクターではないだろうかと最近、考えを改めている。なぜなら物語の構図はそれほど奇抜なものではない(少なくとも今のところは)。主人公が目的に向けて、一直線に体当たりしていくことに対し、何かしらの障害が設定され、それを苦難とともに乗り越えていく。って普通だ。書いてしまうと普通だ。でも面白い。この主人公の真っすぐさが、まさにジュブナイルなのだ。まぶしいぐらい、てらいなく一目ぼれした若に向かっていくという姿勢は、10代の特権なのかもしれない。そして時に男性に扮し(というより唯之助のシーンのほうが多いかもしれない)、「あーもうなんで」と言いながら、取り組んでいく主人公を好演している黒島結菜の力かもしれない。どこか既視感のある女優さんだったが、時かけの人であることに最近気づいた。

 主人公の唯の一目ぼれに対する姿勢は、清々しい。生まれてから得てきた地縁的関係、学校制度に組み込まれて作り上げていった人間関係どころか血縁関係すらも、逡巡することなく捨て去ろうとしている。何が言いたいのか、お分かりだろうか。彼女の一目ぼれは「幼なじみ」を瞬殺してしまうのである。「幼なじみ」は本人の意思とは関係なく、生まれたときや少なくとも社会的な生活を送る前段階に形成された地縁関係に依拠することが多い。『アシガール』の主人公の唯はそれを一刀両断して、戦国時代に躊躇なくタイムトラベルしているのだ。彼女は本人の意図することなく「生まれてきて住んでいるから」という理由で築き上げられてきた関係性を、自分自身の意志で捨て去ろうとしている。彼女の強固な意志の前には、「幼なじみ」など霧散してしまう。って全く『幼なじみ萌え』の販促になっていない文章を書いてしまったが、タイムトラベルをするだけのエネルギーがなくなってしまい、戦国時代に戻れない状況をいかにして打開していくのか。今週末の9話が楽しみである。

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