「こごえる季節に鮮やかに咲くよ」

 年が明けてから通常授業、入試、採点、授業の課題評価(講評書き)、卒展イベント(複数)、高校生の課題への講評書きに取り組んでいると、気づいたら2月もかなりの時間が経過している。そして避暑ならぬ避寒のために山形から東京に移動し春休みを過ごしているのもまた、ここ数年の恒例となっている。毎年のことながら、春休みだからといって楽になるわけではなく、4月以降の授業準備に取り組んでいるし、自分自身の研究もしなければならない。残り日数を数えると、とにかく時間が足りない。

 なかなか避寒という概念を他人には理解してもらえず、多くの人に「そんなに寒いわけないじゃん」と言われてしまう。この「そんなに寒いわけない」というのは、北国の人からは「山形市は大して雪は積もらないし、それほど寒くはない」の意味を持っているし、南のほうの人からは「雪国とかに住んだことないけど、数年に1回ぐらい雪の降る感じから想定すると楽勝でしょ」という意味合いになってくる。そうではない。違うんだ。というのは心の叫びとして飲み込んで、「いやー、そうですか」と返答している。

 とはいえ、いろいろ片づけた上で春休みをむかえているので、気分はかなり楽になっている。授業準備のための読書は、何で自分はこれほどまでに本を読んでこなかったのだろうか、この程度の読書スピードしかないのか。という心の戦いではあるが、でも、あっという間に手に取ったことのない小説や論文に知的好奇心を刺激され続けることになる。授業準備としての読書と趣味としての読書と研究としての読書をしていると、一日が短すぎるのである。

 趣味の読書として、いまさらながら丸山くがね『オーバーロード』(エンターブレイン)を読んでいる。概ね一日一冊ずつ読んでおり、先ほど13巻に入ったので最新刊に追いついてしまった。ああ、次は何を読もうか。この作品自体は発売当初に1巻を読んでいたのだが、そのまま放置し忘れていた。しかし昨年の後期、ゼミのゲストとしてお招きした漫画家の今井哲也さんが、学生たちへの推薦作品として漫画版(作画は深山フギン)を挙げられたことが再読の契機である。もちろん、挙げられたのはこの一作品だけではなく複数あったのだが、取り上げた理由として物語の構造を指摘されていたのが印象深い。そこで小説をきちんと読もうと思った次第である。

 既読の人にとっては当然かもしれないが、この『オーバーロード』シリーズは巻によっては主人公さえも入れ替えて物語を進めている。簡単に言ってしまえば、それだけなのだが、物語の大枠を崩さないままに違う主人公を描き続けることは、非常に難しい。メインコンテクストとサブコンテクストという中長編レベルの問題だけではなく、長編から大河小説的な構造の中でも同じ構造をさらにもう一段階、示していることになる。本来の主人公を主人公としつつ、巻によっては傍観者にまで押し込むのだが、それでも数巻にわたる大枠の中からは外れないのは見事であろう。多くのウェブ小説が、構造をこのような入れ子にせずに、連続化していくことに比すれば、描く際の難しさは理解できると思う。

 もちろんそれ以外の様々な点も読みながら、「なるほどー」と感心しているのだが、まあ、それは置いておこう。結局、趣味と言いながら、授業でどう活かすかにたどり着いてしまう。久しぶりのブログ更新なので、リハビリのようになってしまった。

BGM:宮本浩次「冬の花」