2019年度前期ゼミ(一コマ目)と作品群(こちらも玉井ゼミのみ)

 ゼミでは3年生以上の学生が所属し、それぞれ教員に指導を受けながらいろいろ学んでいくことになる。そのため私は厳密には他のゼミが何をやっているのかは知らない(自分のゼミの時間帯に他の教員もゼミをしているため)。とはいえ教員同士や学生と会話をしているときに耳にしたりするので、何となくは知っている。

 玉井ゼミでは「書くことと読むこと」を基本的な作業にしているため、1コマ目では「読むこと」に取り組み、2コマ目では「書くこと」を行っている。3コマ目は漫画ゼミとして漫画を読んでいる。2コマ目で「書くこと」としているが、実際にゼミの時間に書いても仕方ないので、概ね事前に学生たちが書いてきた作品を講評している。

 ここでは記録として2019年度の前期にゼミで読んだ作品を記しておこうと思う。今年は例年とは少し趣向をかえて、小説と評論・研究論文を交互に読んでいった。

1:ガイダンス
 ガイダンスといいつつ、ゼミで取り組むべきことや個々人が取り組むべきこと、その心構えなどの話をしていった。けど、皆さん、覚えているだろうか(自分も覚えているだろうか)。

2:長谷敏司「Hollow Vision」(『My Humanity』ハヤカワ文庫、2014年)

 アニメ化された『BEATLESS』と世界観を同じにする作品ではあるが、独立して読むことはできる。毎年、SF作品を取り上げると「SFを読んだことのない学生がどこを読めばいいかわからない」問題にぶつかるので、今年は最初から取り上げてみた。

3:円堂都司昭「空転する痛み 西尾維新における傷の無意味と意味」(『ユリイカ2004年9月臨時増刊号 総特集=西尾維新』)

 西尾維新について書かれた評論が読みたいというゼミ生の要望によりセレクトした。ちなみに『文芸ラジオ』でも西尾維新特集をしたことがあるのだ。学生の皆さんはそちらも読もう。

4:谷原秋桜子「失せ物は丼」(『鏡の迷宮、白い蝶』創元推理文庫、2010年)

 ミステリーを読もうというテンションで取り上げた。落語と絡めた作品で読みながら北村薫作品を思い出していた……のは10年ぐらい前の玉井である。懐かしい。ちなみにイラストを『さらざんまい』のキャラデザを担当しているミギーさんが描いている。

5:藤津亮太「不可視の世界/五感の世界 アニメ『精霊の守り人』の戦略」(『ユリイカ 2007年6月号 特集=上橋菜穂子』2007年)

 ファンタジーに関する評論を読みたいとの要望があったので、取り上げた。上橋作品は学生の皆さんがよく言及しているので、そこを踏まえて考えてみようと思った次第である。

6:柊サナカ「おばあさんとバスの一枚」(『人生写真館の奇跡』宝島社文庫、2019年)

 生と死との間をめぐる作品は、学生の皆さんがよく書いてくるモチーフなので、一つ読んでみようと取り上げた。

7:高橋透「サイボーグと『攻殻機動隊』」(『サイボーグ・フィロソフィー 『攻殻機動隊』『スカイ・クロラ』をめぐって』NTT出版、2008年)

 学生の皆さんにとって「『攻殻機動隊』は名前を知ってはいるが、具体的に見たことはない作品」となりつつある……気がする。世代的に仕方のないことかもしれない。

8:知野みさき「落ちぬ椿」(『落ちぬ椿 上絵師 律の似面絵帖』光文社時代小説文庫、2016年)

 ここらへんで時代小説を読もうと取り上げた。構造を分析し、作品で描かれるテーマなどについて考えた。

9:鍵本優「「できなくなること」を享受する―日本社会でのデジタルゲームの経験から」(『多元化するゲーム文化と社会』ニューゲームズオーダー、2019年)

 そしてゲームですよ、と取り上げたのだが、ゲームがクリアできる/できないという問題は共通して語ることができるポイントではある。

10:高山羽根子「母のいる島」(『うどん キツネつきの』創元SF文庫、2016年)

 本当に高山作品は奥深くて素晴らしいと思っている。ゼミで考えていると、「うぬぬ」とうなるしかない感じになっていったことを覚えている。

11:石田美紀「戦闘少女と叫び、そして百合」(『ユリイカ2014年12月号 特集=百合文化の現在』2014年)

 さてそろそろ百合ですよ。百合を考えましょう。と取り上げたのである。

12:宮澤伊織「キミノスケープ」(『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー』ハヤカワ文庫、2019年)

 すると百合小説を取り上げることになる。百合とは……百合なのか……百合とは……という感じになった。

13:大城房美「<越境する>少女マンガとジェンダー」(大城房美・一木順・本浜秀彦編『マンガは越境する!』世界思想社、2010年)

 漫画ゼミで少女漫画を取り上げていたので、こちらも考えてみようとなり取り上げた。

14:彩藤アザミ「少女探偵ごきげんよう」(『昭和少女探偵團』新潮文庫NEX、2018年)

 そして少女文化的要素を取り入れた作品を読んでみようとなったのである。

15:岡本健「幽霊とゾンビ、この相反するもの」(小山聡子・松本健太郎編『幽霊の歴史文化学』思文閣出版、2019年)

 ラストは夏なので「幽霊とゾンビ」と思い取り上げたのだが、よく考えたらゾンビが夏である必然性はそれほどない気がする(中身とは関係のない話)。