はじめまして、野上勇人です。
私は2015年度から文芸学科に参画し、主に編集系の授業を担当しています。
長い間、編集者として仕事をしてきましたが、作家や漫画家に比べて、編集者とは何をする人なのか、一般に見えにくい存在です。かくいう私も大学3年生まで、その存在すら知りませんでした。
そんな未確認生物「編集者」ですが、世の中に出ている本は、実は編集者が企画して、それを作家や漫画家に書いてもらっているものが多いのです。
「山川さん、こんなテーマで小説を書きませんか?」
「川西さん、こんな取材をしてそれを小説にしませんか?」
「石川さん、こんな内容で評論を書けませんかね?」
「池田さん、こんな本の書評を書いていただけませんか?」
「玉井さん、幼なじみに萌えたことってあります?」
というように、書き手(=専門家)に書いてほしいことを提案するのは、編集者の重要な仕事です。
そのあたりの仕事は、ともすると「かっこいい」のかもしれません。
しかし編集者の仕事はそこで終わりません。
原稿を書いてもらったら、それをチェックして、整理して、デザイナーに渡して、校正紙ができてきたら書き手に渡して、自分もチェックして、修正を入れて、またデザイナーに渡して、データを修正してもらったら印刷会社に渡して、また校正紙ができてきて、また書き手に渡して、自分もチェックして、修正を入れて……。
そうした細かいやりとりもすべて行います。
書き手、写真家、イラストレーター、漫画家、デザイナー、DTP制作会社、印刷会社などなど、多くの人の中心にいて、それぞれをつなぐ役目をするのが編集者です。本ができたらプロモーションもします。新刊リリースも制作します。
かっこいいだけではなく、泥臭い仕事でもあるのです。
そんな役割を果たす編集者がいないと、本は世の中に出て行きません。
私はそんな仕事が好きでずっとやってきました。
本当に大変な仕事ですが、そのぶん、本ができて世の中に出たときの感慨はひとしおです。
書き手の皆さんにとって出版とは、もしかすると「裸になる」とか「世の中に晒される」という感覚なのかもしれませんが、編集者にとっては「さあ皆さん、この本を読んでみてよ!」というように、我が子を晴れ舞台に送り出すような感覚です。その感覚には魔力があり、とり憑かれるとやめられなくなります。私も20年近く編集者をしてきましたが、いまだにその魔力にとり憑かれたままです。
そういう感覚をぜひとも若い人たちに教えたい。
文芸学科の授業には、そんな気持ちで取り組んでいます。