東北復興支援機構 | TRSO

『南相馬こどものつばさ』が羽ばたいて。

東北復興支援機構TRSOでは、この夏、東北芸術工科大学キャンパスで『キッズアートキャンプ山形』を開催します。
 僕たちは、『スマイルエンジン山形』『荒井良二とふらっぐしっぷ』などのプログラムを通して、宮城県沿岸部の被災した地域や人々とつながってきました。しかし、放射能の問題で苦しむ福島については、石巻とほぼ同じ、山形から2時間程度で行ける場所ではあるのですが、学生たちとともに行動している都合上、どのように「大学」として復興をサポートできるのか、思いあぐねて3ヶ月が過ぎていきました。

 でも考えてみると、震災発生直後に、南相馬からたくさんの方々が、僕たちの暮らすこの山形市に一時避難され、最大時1700人の避難所となった山形市落合のスポーツセンターでは、たくさんの東北芸術工科大学の学生たちがボランティアとして働きました。あの時は、大学も震災の影響で閉鎖されていましたから。
 スポーツセンターに避難された罹災者の90%が福島県の方々、またそのうちの80%が南相馬市民だったと、ボランティアリーダーを務めた大学院生から聞きました。彼・佐藤太一朗君は、避難所でのボランティア体験を『福興会議』のブログに書いています。

 落合の避難所はちょうど本日6/30で解散となり、最後まで残っておられた約300名の方々は、行政が用意した近隣のアパートなどに移られています。また、南相馬から山形に転出した児童・生徒も多く、避難所から通学していましたが、すでに新しい学校や教室にも慣れている頃でしょう。ボランティアを続けてきた学生たちと、避難所の子どもたちの絆は、深く強いものになっていると思います。

 山形市と南相馬市。この震災を機に結ばれた2つの地域が、今後も協力してこの経験を乗り越え、あたらしい東北を創っていく。それはすなわち、「ともに子どもたちの成長/子育てを支える」ことだと思います。『キッズアートキャンプ』は、まさにそのためのプログラムです。

 僕は不思議な縁に導かれて、南相馬市PTA連絡協議会会長の西道典さんに出会いました。そして、西さんと行動をともにする、福島県内外の支援者とともに、『南相馬こどものつばさ』というプロジェクトを立ち上げました。

 


もともと約8000人だった南相馬市の児童・生徒数は、現在では県外転出が続き、3000人弱になっています。空気中の放射線量は下がったものの、表土にはまだセシウムやストロンチウムが高濃度で残留しているとされ、当然、グラウンドでの体育の授業はできませんし、土埃が舞いあがる日は窓も閉じられています。
 僕が見学した鹿島区の中学校には、閉鎖された複数の中学が統合され、理科室も美術室も図書室も、武道館までもが教室として使用されていました(新幹線でいえば、乗車率150%の状態)。鹿島中学では現在、グラウンドで仮設校舎の建設が進んでいます。

 『南相馬こどものつばさ』は、そのような不自由な環境で学ばざるを得ない児童・生徒に、「夏休みぐらいはのびのび過ごしてほしい」という、西さんをはじめとするPTAの親御さん、先生方の思いから生まれた林間・臨海学校推進プロジェクトです。

信じられないスピードで、信じられないほどたくさんの支援の手が、『南相馬こどものつばさ』に差し伸べられました。現在、南相馬の子どもたちのために、全国各地から無償で提供された林間・臨海学校プログラムは16を数え、受け入れ総数は1000人を数えます。僕たちの『キッズアートキャンプ』のそのなかのひとつです。
 
 6/28には、プログラムに関する説明会が鹿島中学の体育館でおこなわれ、僕も『キッズアートキャンプ』についてお話してきました。300名を越えるたくさんの保護者の方々にお集まりいただき、『南相馬こどものつばさ』に強い関心を寄せてくださっていることを肌で感じました。実は、僕をはじめ、実行委員会の面々は、「(説明会に)誰もきてくれなかったらどうしよう…」と直前まで恐々としていたのでした!

 全体の説明会が終わったあと、『キッズアートキャンプ』に参加される保護者の方々に残っていただき、プログラムの詳細をお伝えしました。キャンプには、最終的に28組の親子と、子どもたちだけのグループの総勢127名が参加されます。

 今日6/30、僕は大学内のいくつもの研究室をまわり、工芸やデザインの教授たちとキャンプの内容について相談してきました。みんな、「福島のために何かできないか?」と思っていましたから、とても協力的です。間違いなく、双方にとって実り多い『キッズアートキャンプ』、アツイ夏になるはずです!
 僕は7/7に再び南相馬に赴いて、参加者の方々とお会いします。その時までにキャンプ・プログラムを大学内の協力者とともにつくりあげます。

 東北はあまりに多くのものを失いましたが、一方でたくさんの希望も生まれています。
 『南相馬こどものつばさ』と『キッズアートキャンプ山形』が、そのような小さな希望の苗床になり、3.11からはじまった創造の、ささやかな〈はじまり〉として、この旅に参加する子どもたちに記憶されることを願っています。

 実施にあたって、学内外からの温かい支援をお待ちしています。そして南相馬の子どもたち、保護者のみなさん、この夏、山形でお待ちしています!

宮本武典|Takenori Miyamoto
TRSOプログラムディレクター
東北芸術工科大学美術館大学センター主任学芸員
南相馬こどものつばさ実行委員会