東北復興支援機構 | TRSO

学科等企画による復興支援活動レポート その①  【建築・環境デザイン学科 廣瀬・渡部合同ゼミ】

東日本大震災以降、東北芸術工科大学では、TRSOだけでなく学科やコース、ゼミ単位などでも様々な復興支援の取組みをおこなってきました。
そこでTRSOでは、今年度、積極的に復興支援活動を計画している学内の学科・コース・ゼミ等にたいして、より充実した活動をおこなってもらうために、公募制の助成といったかたちで、経費的なサポートをしてきました。

【今年度のTRSO助成対象に選ばれた3団体】
美術史・文化財保存修復学科 東洋絵画修復ゼミ/代表者:三浦功美子准教授
活動名:『被災地域文化財資料等のレスキューと保存修復 ~東洋絵画保存修復ゼミの活動~』

建築・環境デザイン学科 廣瀬・渡部合同ゼミ/代表者:廣瀬俊介准教授
活動名:『東日本復旧復興計画支援チーム(TRST) 被災地支援活動』

映像学科 岩井ゼミ/代表者:岩井天志准教授
活動名:『FUKUKOU LIVE vol-5×HORS PISTES TOKYO 2012 in ASAHIZA』

14裏打ち除去

東洋絵画修復ゼミ/被災した扁額・屏風の修復と保存/裏打ち除去の様子

専門分野の特長を活かし、自分たちができる支援を地道に継続しておこなう。アカデミズムの場である大学の、地域社会での使命がそこにあるような気がします。
そして、本学のこういった活動をみなさんに少しでも知っていただければと思います。

上記の3団体の今年度の活動はほぼ終了し、振り返りの段階にきていますので、代表者の各先生による活動報告を順次掲載していきたいと思います。

 

まず第1回目は、建築・環境デザイン学科 廣瀬・渡部合同ゼミの『東日本復旧復興計画支援チーム 被災地支援活動(TRST)』の活動報告です。

TRSTでは、主に被災された方々の生活空間(神社や共同墓地の階段工・排水工なども含む)の修復を、土地の石材や木材を用いて土地の伝統工法にならいながら実施する活動をおこなっており、毎回大学院環境デザイン領域、建築・環境デザイン学科の学生有志を中心に、学科や領域を越えて5~15名の学生たちが参加しています。

なお、この『東日本復旧復興計画支援チーム(TRST)』の活動報告展を12月7日(金)~12日(水)の期間、「デザインウィークinせんだい2012」で行います。
そちらもぜひ足をお運びいただきご覧ください。

デザインウィークinせんだい2012「被災地支援活動報告展」
日時:2012年12月7日(金)~12日(水)10:00~21:00(最終日は16:30まで)
会場:せんだいメディアテーク
住所:仙台市青葉区春日町2-1
主催:デザインウィークinせんだい実行委員会



TRSO事務局 須藤知美

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『東日本復旧復興計画支援チーム 被災地支援活動(TRST)』活動報告

第1報 石巻市雄勝町立浜・明神地区支援活動予備調査
報告者: 廣瀬俊介(東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科准教授)
活動日: 2012年5月28日(月)
参加者: 廣瀬俊介、野呂光平(東北芸術工科大学 大学院 修士課程 デザイン工学専攻2年)

◎はじめに
東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科教員の廣瀬、渡部、田賀(非常勤講師)と、同学科および大学院環境デザイン領域、プロダクトデザイン領域、こども芸術教育研究領域、美術科日本画コースに所属する院生、学生有志は、「東日本復旧復興計画支援チーム(Tohoku Revitalization Support Team: TRST)」の名称で、昨年来被災地支援活動を行っています。
活動内容は、被災地の状況変化にあわせながら大多数のメンバーが研究する「環境デザイン」の応用を図るものです。また、被災後の状況に則して宮城県山元町、石巻市魚町(生活物資供給)、福島県いわき市、会津若松市(避難所の居住性改善)、宮城県石巻市雄勝町(仏寺山門内の仏像清掃、瓦礫整理と津波遡上の被害を受けた海岸林の整理伐等)、同市北上町(カフェ開設による避難所慰問)、同市雄勝町(神社や共同墓地の石垣修復・新設)、福島県三島町、会津坂下町(平成23年新潟・福島豪雨災害により破損した遊歩道、峠道の修復)と支援先を移しつつ、主に石巻市雄勝町を中心的な活動地として今日にいたっています。震災から1年を経た今年3月11日(日)には、同町の合同慰霊祭開催にあたり、炊き出しや会場の片付けを行うなどの活動も行いました。

01_今年3月11日に催された雄勝町合同慰霊祭での炊き出し

◎明神地区の現状と支援の概要
両地区は雄勝湾の北岸にあります。立浜地区には石巻市の「仮設立浜団地」(24戸)が整備され、現在も地区の方々が入居されています。明神地区では、高台の沼尻にたつ民家数戸が被害をまぬがれて残るのみです。立浜地区では養殖業が再開されるなどの動きがあり、私たちは復興事業の対象にならない、地区の中の規模の小さな生活環境修復を主に支援をしています。明神地区では、立浜地区にも増して人出がかけられなくなったことに対応して、共同墓地や塩竈神社など「公共空間」ともいえる信仰の場の維持を手伝ってきています。

02_5月28日の仮設立浜団地

5月28日の仮設立浜団地

 ◎立浜地区予備調査
被災地の状況は刻々と変わります。そして、状況の変化にあわせて被災地の方々の考えや求めることも変わります。そのため、支援活動の内容や工程の検討を行うには、事前に被災地の最新状況を確かめる必要があります。
野呂(大学院環境デザイン領域1年生)と私は、石巻市雄勝町立浜・明神両地区へ、5月28日に出かけました。立浜地区の港ではがれき撤去がほぼ済み、地盤沈下部分の復旧などから工事が準備されているところでした。

03_津波に破壊された防潮堤は残るが、がれき撤去が済んで土地は清々した印象に

津波に破壊された防潮堤は残るが、がれき撤去が済んで土地は清々した印象に

私たちが特に支援の必要を感じたのは、浜に面した小丘に上がる連絡路の改修についてでした。立浜貝塚のあるこの小丘の上には小さな畑がつくられ、数人の方が世話をされていました。
浜から丘へ上がる連絡路は雨水を下ろす溝を兼ねたもので、小石を敷いた上に大きな石を組んで階段状にした部分がありましたが、踏み石が浮き、路の脇が水に掘られて崩れた箇所もあって、この路を上り下りする方が足をくじいたりすることのないように石を組み直すべきだと考えられました。そこで、支援活動を通じて面識を得ていたこの土地の所有者に許可を得て、連絡路の改修を次回支援活動として行うことを決めました。

04_浜に面して貝塚のある小丘

浜に面して貝塚のある小丘

05_丘の上から湾を見下ろす

丘の上から湾を見下ろす

06_小丘と浜を連絡する路

小丘と浜を連絡する路

私たちは、この路の崩れた石段を組み直す他に、踏み石にできる石やそれらを安定させる盤をつくる(加えて雨水を透き間に染み込ませて静かに流し下ろす)小石が近くで得られることを確かめて、立浜地区での予備調査を終えました。

◎明神地区予備調査
この地区では、昨年10月に施工した共同墓地の多段石積み落差工がその後壊れずに機能しているかを確認しました。これは、山から流れ下る雨水の勢いが強い際に墓地の地面が洗い掘られてしまうのを避けるために、石積みの段を複数もうけて小石を込め、水が上段から下段へ落ちるときに衝撃力が弱められ、小石の透き間に染み込むように考えてつくったものです。
完全に固結していない現地の泥岩を積んだため、これらの中には冬季の凍結の影響を受けて(岩の内部に染みた水は凍ると体積がおよそ9%増し、岩を砕く)断片状に割れたものがありました。しかし、多段状の地盤は安定し、雨水の洗掘を抑えていました。

07_多段石積み落差工が時間変化により受けた影響を確認する

多段石積み落差工が時間変化により受けた影響を確認する

このようにして、私たちは次回活動地を立浜地区に絞ることを決め、帰途に着きました。

以上
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第2報 石巻市雄勝町立浜地区支援活動
報告者: 廣瀬俊介(東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科准教授)
活動日: 2012年6月23日(土)
参加者: 廣瀬俊介、野呂光平(東北芸術工科大学 大学院 修士課程 デザイン工学専攻2年) 、庄司はるか(同大学 建築・環境デザイン学科2年) 、笠原隼也(同大学 建築・環境デザイン学科2年)

◎活動概要
5月28日(月)に実施した予備調査にもとづき、立浜貝塚のある小丘へ浜から上り下りする、長さおよそ30mの連絡路を改修しました。小丘上では小さな畑がつくられ、数人の方が世話をされていましたが、連絡路の石段が一部崩れるなどしていたため、利用者が怪我をされることがないようにと考えてのことです。

01_湾を見下ろす小丘の上。5月28日に写す

湾を見下ろす小丘の上。5月28日に写す

 ◎改修の実際
私たちは、まず路を覆い隠すように生えていた草(ヒメジョオンなどの外来植物)を抜くことと、踏み石やその下に敷く小石を周囲から拾い集める作業を、手分けして行いました。

02_路の輪郭が見え、石が集まったところで施工内容を確認します

路の輪郭が見え、石が集まったところで施工内容を確認します

路の急な箇所には石段がありました。そこでは、小石が敷かれた上に踏み石が組まれ、丘の上から雨水を流し下ろす「暗渠(地下に埋められた排水溝)」を兼ねたつくりとされていました。また、石段の無い部分では路と「明渠(地上にもうけられて上部を開け放した溝)」が分けられていました。
私たちは、石段のある箇所を二つの区間に分けて、二人一組となって作業をしました。

03_ 元からある石と周囲から集めた石をあわせて、急な区間の段数を増やす検討を行う

元からある石と周囲から集めた石をあわせて、急な区間の段数を増やす検討を行う

04_踏み石を十分に組めているか、段上を踏みながら確認する

踏み石を十分に組めているか、段上を踏みながら確認する

05_不安定な箇所の石組みを直す

不安定な箇所の石組みを直す

06_多段落差工(第1報を参照)を暗渠から開渠へ切り替わる勾配の急な箇所に施す

多段落差工(第1報を参照)を暗渠から開渠へ切り替わる勾配の急な箇所に施す

07_開渠部では水に掘られた箇所に小石を込めて衝撃力を弱める

開渠部では水に掘られた箇所に小石を込めて衝撃力を弱める

08_仕上げに、踏み石と踏み石の透き間へ丁寧に小石を込める

仕上げに、踏み石と踏み石の透き間へ丁寧に小石を込める

作業は午後4時に完了し、土地の所有者ほか何人かの立浜地区の方々へ電話で報告をして(それぞれ所用で他所へ行かれていたため)、私たちは撤収しました。今後は、梅雨と台風を経て動く石も出てくるため、何度かの台風が来た後に経過を確認する必要があります。

以上
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第3報 石巻市雄勝町立浜・明神地区支援活動
報告者: 庄司はるか(東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科2年)、渡部 桂(同大学 建築・環境デザイン学科講師)
活動日: 2012年9月6日(木)
参加者: 渡部 桂、庄司はるか、笠原隼也(同大学 建築・環境デザイン学科2年)

◎活動概要
6月23日(土)に改修した、石巻市雄勝町立浜地区小丘の連絡路を維持管理すること、ならびに同地区に住まう方々の現状を知るための聞きとりを行いました。また、雄勝森林公園(雄勝地区)に整備された仮設住宅や、昨年復旧にたずさわった明神地区の塩竈神社を訪ねるなど、雄勝湾北岸の半島を巡りつつ、必要に応じて作業をし、立地環境の理解を深める目的での情報収集をしています。

◎仮設雄勝森林団地での聞きとり
雄勝森林公園は東日本大震災発生以後休園とされて、「仮設雄勝森林団地」(32戸)と「仮設雄勝森林団地2」(10戸)がもうけられています。山道をしばらく上がった、奥まった土地に同公園はあり、団地からはひっそりした印象を受けました。
その中の広場のようなところで、団地2に住む年配の男性からお話を聞くことができました。津波で奥様を亡くされ、現在は一人で暮らしている。生活の状態として、市職員が様子を見に来ること、住民バス「おがつ号」で飯野川まで買い物に出かけること、定期的に送迎があり大須地区を訪れて住民と交流していることをうかがいました。
男性は雄勝硯の職人で、震災が発生するまで現役として働かれていたそうです。「雄勝石」と総称されている中にも、硯に使う石と石葺き屋根に使う石とでは違いがあることなど、当地の石とその利用に関したお話も聞くことができました。

◎明神地区にて
次に、明神地区の塩竃神社を訪ねました。昨年11月に、参道階段から社殿の周囲までにいたる草刈りを行い、掃除をし、参道の石段修復を行った場所です。9ヶ月を経て、参道や境内には再び草が生い茂っていましたが、雨水による土の流亡や石段のゆるみは少なく、施工後の状態が安定していることを確認しました。
今回は、参道階段とその傍らの石碑を覆うように生えていた草を刈る作業をしています。

◎立浜地区にて
続いて、立浜地区へ移動し、小丘への上り下りに使われる連絡路の石段に崩れがないことを確認しました。前回活動後は、7月7日に日降水量48.5mmを記録(気象庁地域観測所−雄勝)*しているだけで、他には特に降雨の強度が高い日はありませんでした。そのため、改めての点検が肝要となります。
なお、ここでも管理作業として路の周囲の草刈りを行いました。加えて、小丘の上面でも一部草を刈り、手間をかける時間がとれずに放置されて鬱そうとして見える丘の印象を明るく開かれたものにしようと図りました。この作業を通して連絡路を遠目から見ることも可能にできました。立浜の人々が、貝塚がもうけられた時代から後も、路を通し畑をつくるなどしながら丘にはたらきかけて形成されてきた、当地の風景を失わないようにする手伝いが、ささやかながらもできているのではないかと思います。
作業後は、土地の所有者をはじめとして当地区の幾人かの方々とお話をする機会が持てました。この中では、主に雄勝町の現状、高台移転に関した議論、「雄勝未来会議」についての考え、建設が予定される防潮堤の位置や規模などについてお聞きしました。立浜地区では、地区内の高台への移転が住民間で合意されて手続きが進められているとうかがいました。また、防潮堤の高さはT.P.(Tokyo Peil/東京湾中等潮位)6.4mとして計画されているとのことでした。既存堤防の天端から+3m程度かさ上げし、あわせて堤防の陸側に接する道路の路面を+1m上げるそうです。
その後は、桑浜、白銀崎、熊沢、大須崎、名振などをまわりました。人を見かけることは少なく、雄勝町の人口減少を実感しました。

*気象庁気象統計情報 http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html

◎追記
報告者: 廣瀬俊介(東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科准教授)
活動日: 2012年10月22日(月)
参加者: 廣瀬俊介、田賀陽介(同大学 建築・環境デザイン学科非常勤講師)
当日、廣瀬・田賀両名は、次回支援活動の内容を検討するため、立浜・明神地区を調査しています。その折に、立浜地区小丘の連絡路を訪れたところ、数段の踏み石にゆるみが見られました。9月28日に日降水量56.5mmが記録されていますが、これはそれ程大きな値ではなく、周囲から集めた裏込め用の小石が足りず少しずつ流れて踏み石が動くようになったことが原因と考えられます。このため、砕石を運んで裏込め石を足し、石を組み直す補修が求められます。

01_10月22日の連絡路

10月22日の連絡路

02_立浜地区の方から復旧の状況について聞く田賀講師

立浜地区の方から復旧の状況について聞く田賀講師

03_夜釣りに出かける立浜の人々

夜釣りに出かける立浜の人々


以上