東北復興支援機構 | TRSO

ふらっぐしっぷ、出航!

東日本大震災から3ヶ月。
津波の傷跡から立ちなおろうと、
日々をけんめいに生きる宮城県の海辺の街から、
この列島に生きる、みんなに伝えたいコトバたち。
東北出身の絵本作家・荒井良二が、
3.11以後の「日常」を旅する人々のキモチを、絵にかえて、
たくさんのフラッグ(旗)を、5つの街にかかげます。
荒井良二とふらっぐしっぷキャラバン。
未来にむけて、いざ出航!


 山形出身のイラストレーターで絵本作家の荒井良二さん。昨年、僕がキュレーティングした『荒井良二の山形じゃあにぃ2010』でのご縁が、TRSO×荒井良二さんの東北応援プロジェクト『ふらっぐしっぷ』につながりました。   僕がはじめて石巻に入った時、高速道路はまだ復旧していなかったので、国道45号線を仙台から海岸線に沿って走りました。仙台→多賀城→塩竈→東松島→石巻と、岩手に近づくほど、車窓から眺める街の被害の状況は深刻になっていきました。
 もちろん、海抜や湾の形状によって被害の程度はまだらですが、これまで「点」としてしか捉えていなかったそれぞれの街が、45号線を走ることによって「線」として結ばれたのでした。
 海岸線500kmにわたる津波の被害。これからの長い復興には、自治体の区分など関係なく、海の道や、浜でつながれたネットワークが重要だと感じました。港町の誇り、海の街としての連帯…。
 
 海岸線を移動しながら、『山形じゃあにぃ』の企画段階で、荒井さんとワークショップの相談していたとき、荒井さんが「俺は〈旗〉って好きなんだよね。見上げるって、いいじゃない。」と話していたことをふっと思い出しました。
 僕たちが被災地にいくと、支援者たちの応援メッセージが、避難所や社会福祉協議会事務所などによく掲示されているを目にします。「いくつもの港町に、復興を願う旗をかかげる…」でも、それが支援者側からの一方通行のメッセージでいいのだろうか?

 塩竈でギャラリー『ビルド・フルーガス』を主宰されている高田彩さんは、ご自身も津波による被害を受けながら、石巻の保育所や仮設住宅への支援活動を続けています。高田さんによると、被災した地域の人々も「ただ言葉や物資を受け取るだけでなく、自分たちから言葉を発信したい/届けたいと思いはじめている」そうなのです。
 海辺の街に、3.11以前と同じような「日常」が戻ってくるには、まだ少し時間がかかるかもしれないけれど、気持ちを前向きに、顔をあげて街を生きていくために、荒井良二さんと人々が一緒に「旗」を描く。そして旗を街にかかげて、港街を吹き抜ける浜風にのせてはためかせる――
 僕たちのプランを聞いた荒井さんは、「いいね、やろう!」と、すぐに塩竈に駆けつけてくれました。

 2011年6月8日。ちょうど震災発生から100日のこの日。高田さんにコーディネートをお願いして、塩竈市民40名をビルド・フルーガスに招待し、 『荒井良二とふらっぐしっぷ』のワークショップ・ツアーがささやかに出航しました。荒井さんのマジカルな絵の具さばきによって、白い紙から「なにものか」 が生まれてくる瞬間に、塩竈の人々は立ち会いました。


 この日の荒井さんは珍しく緊張していて、いつものように現場のライヴ感を楽しむというよりも、「自分に何が語れるか?/ここで何を生み出せるか?」ということを、すごく悩みながら進めている印象。
 結局、予定より1時間もオーバーしても、1枚の旗も(その場では)完成しなかったけれど、荒井さんは「震災」も「津波」も「復興」も、いっさい語らず、最後に「応援するキモチに非常時も平常時もない。時に何かが起こらなくたって、人は人を応援する。応援したいキモチを持ち続けることが大事」とだけ語りました。
 このコメントに、荒井さんなりの復興支援へのスタンスが集約されていると感じます。(『ふらっぐしっぷ@塩竈』の模様は、TwitterUSTREAMに記録されています)  3.11以後、原発の問題もあって、まだ収束の見通しのない被災地で、アーティストが「震災を(自分のスタイル・文脈に引きよせて)表現すること」の倫理的な難しさを、僕も、荒井さんも痛いほどよく理解しています。だから塩竈での荒井さんのギコチナサを、僕は一種の真摯さとして受け取っていました。
 被災した地域で、住まいや肉親を失った人々を前に「何かを創造する」ことが簡単であるはずがない。でも、一緒に希望をつくったり、あるべき未来を考えたりする場を用意することはできる。言葉というよりも、描くことを通して。

 このプロジェクトは旗をつくることが目的じゃなくて、ひょっとすると旗はあがらないかも知れないけど、見事に立ち直った街で、それを祝福するように色とりどりの旗がなびく…そんな風景を一緒にイメージするだけで充分なのかも、と塩竈での幸福な時間を噛み締めながら思ったりしています。
 すると、塩竈市から連絡=「7/18の〈みなと祭〉にあわせて、荒井さんが塩竈で描いた旗をもとにストリート・フラッグを製作し、200枚ほど設置したい」との依頼が舞い込みました!
 いま、荒井さんは東京のアトリエで、塩竈で描いた旗を大急ぎで仕上げてくださっているところです(笑)。
 『荒井良二とふらっぐしっぷ』のコンパスなしの処女航海、まずは順調な滑り出し!なのです。
 
宮本武典(TRSOプログラムディレクター/美術館大学センター主任学芸員)