「放物線描いて、記憶の奥へ飛んだ」

バッテリー (角川文庫)

 遅ればせながら、あさのあつこの『バッテリー』を読んでいる。遅ればせと書いたのは、もはや私が説明するまでもないぐらいに売れに売れているシリーズだからであるが、なぜこれまで私は手に取らなかったのだろうか。一つの理由としては野球が好きすぎて、野球を題材にした作品にまで手がのびにくいというのがあるかもしれない。要は小説や漫画に至るまで野球では息が詰まるということである。これは逆に、その程度のファンでしかないと言うことはできる。私がファンであるオリックス・バファローズは、今年もいい感じで最下位になっている。と突き放して見ているぐらいのファンである。

 もう一つは手に取りやすい文庫版のリリース時は忙しい大学院生であったというのもあるだろう。今から考えると、それなりに暇な時期ではあったのだが、その当時はキャパシティの限界もあり、それはそれでみたいな生き方をしていた。あとなぜか文芸誌で取り上げられる作家たちを読んでおり、エンターテイメント分野の小説はラノベレーベルのみを読んでいた。これは今でもなぜかわからない。息苦しかったのであろうか。

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 今回、『バッテリー』を読もうと思った契機は、今まさに放送中のアニメ『バッテリー』を見始めたことによる。そして、すぐに打ちのめされてしまった。何がいいかって、第1話からキャラクター造形が完璧なのである。主人公の巧の物語内の欲求とそれに伴う行動。そして他者もが評価する図抜けた能力と、それを支えるだけの気力、そして真逆ともいえる性格の悪さ。すべてがシンプルでかつ研ぎ澄まされている。しびれてしまった。

 それとともに心配してしまうのが、エンターテイメントであるアニメ作品としては大丈夫だろうかという物語の起伏の薄さである。なんせ数話経ても、試合すらしないのである。ずっと試合していても困るが、この作品は野球自体にスポットを当てているものではないという解釈も可能である。主人公や登場人物たちの感情の起伏を読み取っていくことが一視聴者として映像の前で座りながらすべきことではないだろうか。と思いながら、毎週見ている。

 見始めたもう一つの理由としてはゼミ生が読んでおり、このような作品が書きたいと言っていたこともある。指導教員としては各ゼミ生がやりたいこと、書きたいことがあれば、一応、一通りは目を通している。その理由は研究だとわかりやすいかもしれないが、先行研究を読むことで今、学界が何を問題視し、解き明かそうとしているのかを把握していく作業と同じである。今、エンタメの商業レベルでは何が描かれ、何が出されているのか。というわけで、『バッテリー』が読み終わったら、次に読もうと思い蒼山サグ『ステージ・オブ・ザ・グラウンド』(電撃文庫)を買ってきた。まったく、やきゅうはさいこうだぜ!

ステージ・オブ・ザ・グラウンド (電撃文庫)

BGM:松たか子「明日、春が来たら」

明日、春が来たら