●大人気の横山秀夫、不人気の藤沢周平
▼大学のゼミで横山秀夫「陰の季節」をとりあげた。文藝春秋のホームページで無料で読めることを知ったので(6月19日まで公開)あわててテキストにしたのだが、大好評だった。あまりにも男くさい警察小説なので不安の部分があったのだが、「今年一番のテキストですね!」と女子学生がいってくれた。
▼2)今年といってもまだ5回目で、打海文三、佐藤正午、伊坂幸太郎(集英社のHPで無料で読める「逆ソクラテス」)、瀬尾まいこなどの緻密な作品もテキストにしているが、やはりドラマ性の強さだろうか。こちらの想像以上の昂奮ぶりで創作を学ぶ学生には視点、語り、主題などすべて刺激的のようだ。
▼3)ゼミでは横山秀夫の話はしているし、解説を担当した大傑作『第三の時効』(集英社文庫)を含めて推薦してきたのだが、やはり実物を与えないと駄目ですね。いや、本は大学の図書館に寄贈したのだが、警察小説に魅力を感じなかったのか。でも「陰の季節」で横山秀夫に目覚めたようだ。嬉しいね。
ということで、『第三の時効』の短篇をテキストにすることにした。ゼミと創作演習1(二年生)の授業で。
▼昨年の授業ではディーン・R・クーンツ『ベストセラー小説の書き方』のある章をテキストにしたが、今年横山秀夫の作品(『第三の時効』所収短篇)をサブテキストに加えたら、急激に理解度があがった。大学二年の文芸学科の学生にとっては初めての横山秀夫体験なのですね。実に衝撃的だったみたい。
▼2)最初から最後まで緊張感が持続しているのが凄い、タイトルに二重の意味をもたせる劇的な展開に興奮した、警察小説は初めて読んだが、こんなに面白いとは思わなかった、あの場面のあの文章がいい、複数の事件が進行し、なおかつ大勢の人間が出てくるのに全く混乱しない、素晴らしい!と絶賛の嵐だ。
▼3)中には高校時代に祖母に、または小学4年のときに父親(刑事)に『64』を薦められたなどという話もあって、横山秀夫の人気の広がりと文芸学科の学生の背景(家庭環境)が見えて興味深かった。小説ファンには何をいまさらでしょうが、19歳の学生たちが手をとらないジャンルでもあるのです。
▼4)今年は初めて佐藤正午『ダンスホール』、瀬尾まいこ『優しい音楽』、横山秀夫『第三の時効』など文庫解説本をテキストにしたが(大好評)、問題は昨年初めて使った藤沢周平。芸工大でも非常勤の宮城学院女子大学でも不評。「隠し剣」シリーズ(藤沢周平のベスト3に入る)の名作を選んだのだが。
▼5)別の作品か? いやそんなことはないはずだ。学生たちの感想を聞くと、時代小説に初めて触れたらしく武家社会を理解していない。でもそんなことは予測ずみで、小説として優れているものを選んだのだが。もっと初期の暗い作品か、それとも市井ものか、あるいは晩年の心境小説風のものか。悩むね。