2013.02.14
学科等企画による復興支援活動レポート その③【映像学科 岩井ゼミ】『FUKUKOU LIVE vol-5』
TRSOでは、今年度助成を行った学内の学科・コース・ゼミ等の復興 支援活動レポートを順次ご紹介しています。前回は、被災地の文化財の修復を行なっている【美術史・文化財保存修復学科 東洋絵画修復ゼミ】の活動をご紹介しましたが、今回は、昨年の8月に開催した【映像学科 岩井ゼミ】の『FUKUKOU LIVE vol-5×HORS PISTES TOKYO 2012 in ASAHIZA』の活動レポートです。
『FUKUKOU LIVE』は、3.11の翌日より立ち上った『福興会議』の活動支援を目的として、2011年5月12日にvol-1が、山形と東京で同時開催されまし た。その後も、「東北の人による、東北の人のための復興活動を継続的に支援するため」に、本学の映像学科 岩井天志准教授を中心に、アーティストによる音楽ライブを展開しています。
今回の『FUKUKOU LIVE vol-5』の会場は、福島県南相馬市にある閉館となった映画館『朝日座』。3.11の際には奇跡的に建物が残り、地元の人々が中心となり2011年4月から再び『朝日座』の復興へ向けた取り組みが行われているようです。TRSOの復興支援活動でも南相馬の子どもたちを山形に招待するアート林間学校『キッズアートキャンプ山形』を開催するなど、南相馬にはご縁があり何度か訪問させていただいていますが『朝日座』にはまだおじゃましたことがないので、次の機会にはぜひとも訪れたい場所のひとつです。
須藤知美(TRSO事務局)
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『FUKUKOU LIVE vol-5×HORS PISTES TOKYO 2012 in ASAHIZA』
報告者:岩井天志(東北芸術工科大学 映像学科准教授)
『FUKUKOU LIVE × HORS PISTES MINAMISOMA』
●日時:2012年8月18日(土)open/13:30 start/14:00 end/19:30
●会場:『朝日座』 福島県南相馬市原町区大町1-120
●ライブ:灰野敬二、カジワラトシオx東野祥子x斉藤洋平(rokapenis)、河合政之 with 浜崎亮太、Leo Pellegatta x Yoshihiko Hogyoku x Miya
●上映:「663114」(8min/2011) 平林勇 他
●トーク:高平大輔(南相馬市出身・映像ディレクター『朝日座を楽しむ会・青年部』)、小林和貴 (大熊町出身・デザイナー・朝日座を楽しむ会)、岩井天志(進行/FUKUOU LIVEディレクター)
●STAFF:岩井天志、FUKUKOU LIVE staff、HORS PISTES TOKYO staff、
WHITE LIGHT+Layee、長尾和典(東北芸術工科大学 映像学科 副手)、岡達也(同大学 映像学科4年)、佐藤那美(同大学 映像学科4年)、中塩健吾(同大学 映像学科3年)、鈴木真実子(同大学 映像学科3年)、佐藤建人(同大学 映像学科3年)
●はじめに
FUKUKOU LIVE(フクコウライブ)は、東北芸術工科大学 映像学科 岩井研究室企画による東日本大震災後にスタートした『音楽ライブ』と『トーク(講義)』による復興プロジェクトです。
被災された方々に音楽でエールをおくり、今を語り合うことで『東北』と『東北以外の日本』の温度差を少しでも埋められたらという気持ちから始まりました。
今後、長期に渡り続くであろう被災地での復興活動を継続的に支援するためにはどうすればいいか。それにはより多くの人たちが共感し、支援できるきっかけと場 を創ることが必要になります。ミュージシャン、アーティスト、教育者、クリエイター等が東北の人たちと繋がり、輪を作り、一人一人の心に小さな炎が灯るよ うな、そんなかけがえのない場を創っていきたいと考えています。
岩井天志
●活動報告
『FUKUKOU LIVE』の5回目となる今回は8月15日から26日まで、12日間に渡って開催された『プロジェクト・フクシマ』の正式プログラムとして8月18日に行いました。
さらに今回はパリ・ポンピドゥーセンターの公式アート&イメージフェスティバル「Hors Pistes」との共同開催となりました。
会場は南相馬市にある大正生まれの映画館、『朝日座』。
『朝日座』は戦前、時代の最先端を楽しめる庶民の娯楽小屋として栄え、戦後の映画ブームを経ましたが、序所に観客数が減り始め、1991年9月に惜しまれつつ閉館。
しかし、3月11日の震災では奇跡的に生き残り、2011年4月から再び『朝日座』の復興へ向けた取り組みが行われています。
2012年4月、『朝日座を楽しむ会』青年団代表の高平大輔さんから『朝日座』の活動と南相馬市の現状を聞き、『朝日座』の復興を応援する気持ちと原発への気持ちを共有するという目的で開催することになりました。
原発から25kmにある南相馬市は避難地区に指定されていないこともあり、多くの人々が震災前と同様の生活をしています。
その中心地にある『朝日座』は市民によるボランティア団体『朝日座を楽しむ会』(代表:小畑瓊子さん)によって守られています。
震災後もシャンソンのコンサートや映画上映を行い、市民の憩いの場として息を吹き返しつつあります。
本番前日、学生スタッフと映像スタッフ、音響スタッフが会場に入り、セッティング開始。
大正時代の映画館のため、会場図面なし、配電図なしという現場。
何度もブレーカーが落ちるという状況の中、手探りで電源をチェックしながらセッティングを行いました。
セッティング終了時、音響ディレクターのヒカリさんが「次ここでやる時は、電力を最小限に押さえたアコースティックのイベントをやりたいですね。」と言った一言が心に残りました。
我々人間が行ってきた科学文明の開発、それと平行して生まれた映像や音楽表現。
その両方をだまって見続けてきた『朝日座』に、我々人間が行ってきたことを再考しなさいと教えられたような一日でした。
本番当日。
朝5時に山形を出発して会場入りした学生スタッフが加わり、オールスタッフでの最終打合せ。
地元のボランティアスタッフの方々、東京からのスタッフ、学生スタッフが協力し、本番を迎える準備に入りました。
東京や仙台からツアーで来てくれたお客さんも到着し、いよいよ開演。
最初のアーティストは南相馬市出身の詩人、宝玉さんとフルート奏者のMiyaさん。『朝日座』の写真がスクリーンに映し出され、『朝日座』の記憶と結びつく詩の朗読と即興的に演奏されるMiyaさんのフルートの音が空間に響きます。
続いて2011年のベルリン国際映画祭に正式出品した2本の短編映画の上映。三宅響子監督の『ハックニーの子守唄』はイギリス北部のハックニーに移り住む移民の親子にカメラを向け、子供たちに毎日歌う子守唄をを通して、故郷のあり方、アイデンティティのあり方を問う作品。
平林勇監督の『663114』は戦後66年間を過ごした土の中から出てきたセミが、地震や津波、放射線の被害を受けながらも土地に愛着を抱いて生きる物語。
どちらも『故郷』というテーマが作品を貫くバックボーンになっており、震災、原発事故によって『故郷』から離れなければならなくなった人々、『故郷』で生きることを決めた人々の気持ちとリンクする作品でした。
河合政之+浜崎良太によるライブはビデオフィードバックにより自動生成されたビジュアルが巨大なマルチ画面に映し出される作品。
銀幕に投影された美しい映像ノイズはアナログ映像へのオマージュであり、『朝日座』の未来に繋がる光とも感じることができました。
東野祥子+カジワラトシオ+斉藤洋平のパフォーマンスはダンス、音響、映像からなる作品。日本を代表するダンスカンパニーBABY-Qの主要メンバーによるライブは観ている者の心を強く揺さぶりました。
東野のダンスから発せられる身体言語と谷川俊太郎の詩『生きる』をサンプリングした音と映像が絡み合い、異常なまでの緊張感が会場を包みました。
ライブの間の休憩時間には出演者と観客が意見を交換し、ライブの感想や南相馬の現状を語り合う場が自然にできあがりました。
観客で来ていた南相馬出身の大学生の女性二人から「地元の朝日座でこんなイベントが行われて嬉しい。私たちも企画してここでイベントをやってみたい」という声も上がりました。
最後のステージは灰野敬二のソロ。
世界中の音楽家からリスペクトされ、レジェンドと称されるアーティストがトリを飾ってくれました。
轟音のギターと魂の叫び。木造の館内はその轟音でビリビリと振動し続け、皆その神がかった演奏に釘付けになりました。
45分ノンストップのギターソロ。灰野敬二、フルパワーのライブで幕を閉じました。
イベントの最後は南相馬市出身の映像ディレクターであり『朝日座を楽しむ会・青年部』の高平大輔と大熊町出身・デザイナーであり『朝日座を楽しむ会・青年部』の小林和貴、岩井天志によるトークを行いました。
地元の人たち、仙台や東京から来た人たち、出演者、スタッフが皆席につき、それぞれの想いを共有する時間となりました。
トークは朝日座の歴史から、今の南相馬の現状、住んでいる人達の気持ち、これから進むべき方向へ自然と展開していきました。
●イベント後記
今回は様々な『意味』を自問自答したイベントでした。
南相馬市で行う意味。
廃館になった映画館でやる意味。
県外からお客さんに来てもらう意味。etc
そして全ての『意味』がこのイベントをやらなければいけない『意味』と繋がりました。
出演者、スタッフ、お客さんも同様に『参加する意味』を強く抱いて集まってくれたと思います。
それぞれがこのイベントで感じた気持ちを持ち帰り、未来に繋げてくれることを信じています。
故郷やお墓を捨てられないという気持ち、生まれ育った土地を愛しているから戻ってきた、経済的理由で離れられない、など様々な本音を聞くことができました。
そして今でも目に見えない放射能と戦い、原発の恐怖と背中合わせで毎日暮らしている人々がいること。
私たちはその人たちの毎日を決して忘れてはいけないし、少しでも前に進んでいけるようアクションを起こさないといけないと実感しました。
朝日座を楽しむ会の山城会長、小畑さん、このイベントを一緒に創ってくれた高平さん。
全てのスタッフとお客さん、最高のライブをしてくれたアーティストに心から感謝します。
ありがとうございました。
東北芸術工科大学 映像学科准教授 岩井天志
※『FUKUKOU LIVE vol-5』のライブダイジェストは以下YouTubeでもご覧いただけます。↓
photo by Sebastian Mayer