デザイン工学部プロダクトデザイン学科が、世界的なアウトドアメーカー「コールマンジャパン株式会社」と、3年生を対象にした産学共創プロジェクト型授業を行いました。16週にわたる授業では、“未来のアウトドア用品”をテーマにサーベイキャンプ(実地調査キャンプ)を行って実際にアウトドア用品を体験。そこから見えてきた課題をコンセプトに、学生15名がそれぞれの発想で商品を企画・立案、模型制作を行い、プレゼンテーションをしました。マーケティング本部商品開発部門の講師との授業やプレゼンテーションは実践的で、学生たちは産学連携を通してプロダクトデザイナーとしての基礎力を高めるとともに、常にイノベーションを考えるプロフェッショナルの意識を養いました。
上原勲 プロダクトデザイン学科教授・指導教員
東京都出身。東京藝術大学美術学部卒業。芸術学士。プロダクトデザイン、クラフトデザイン、カーデザインが専門。フェラーリF355GTカー エアロデザイン (CSデザイン賞/輸送機/部門/銀賞受賞/デイトナ_24H耐久レース参戦ほか様々な領域のプロダクトデザインを多数手掛ける。
根本昌幸氏 コールマンジャパン株式会社 マーケティング本部本部長
プレゼンテーションの全体講評では「アウトドア全般を対象にした中で、それぞれの着眼点に新鮮さを感じました。ちょっとした気づきで世の中を変えることもあります。今後も頑張ってください」とエールを贈った。
─産学共創プロジェクト型授業の特色は何ですか?
上原:この授業は、様々な分野の第一線で活躍するプロデューサー、デザイナー、マーケティングのプロを講師に迎えて、デザイン開発の実態を体験学習するものです。2005年の本田技研工業さんに始まり、世界に向けて商品を発表している大きなメーカーを意識して依頼しています。普通は企業さんに出向いてオープンデスクに参加する形になりますが、山形からでは遠いので、こちらに来ていただいています。今年度お願いしたコールマンさんは、製品の約7割が日本から世界へと発信されていて、製品デザインのために常に勉強をされているメーカー。このプロジェクトに理想的だと思い、無理をお願いして実現することができました。
根本:商品開発の部分で学生と一緒にやってほしいというお話をいただき、面白いな、と思いましたね。過去にも他の大学に声をかけていただいて1、2回のセミナーをやったことはありましたが、今回のように半年間というのは珍しいです。学生のフレッシュなアイデアに触れながら、もう一度開発の基礎に立ち返ることは、現場で仕事をしている私たちにとってもリマインドする機会になると思い、参加させていただきました。
─学生たちの印象はいかがでしたか?
根本:最初学生に出会った時、都会で会う学生とやっぱり全然違うんですよ。アウトドアに対してとてもポジティブだし積極的な学生が多いので、まずそこにビックリしました。それはやはり、東京とは違う環境で勉強されているからだと思いますけどね。都会の学生は車もバイクも持っていないですから、どうしてもアウトドアに対して腰が重い部分があります。
上原:芸工大の裏にはキャンプ場がありますし、県内や宮城県のキャンプ場も近距離。アウトドアのロケーションとしても芸工大の環境は最高ですね。
根本:そうですね。初めて芸工大に来た時、キャンプするにはいい所だなあとまず思いました。
上原:体験、体感からその世界を知ることは、今回のプロジェクトのコンセプトの1つです。今回はサーベイキャンプでコールマンの製品をお借りして、使い方をレクチャーしてもらいながらキャンプを体験しました。こういう環境にいながらもキャンプは初体験だという学生もいたのですが、サーベイキャンプ以降、個別で行っている学生も多いんですよ。そういう自発性が育つきっかけにもつながったようです。
─今回の授業の集大成であるプレゼンテーションは、どの学生もハイクオリティでしたね。
上原:ここまでくることができてほっとしています(笑)。アイデア出しの段階から入れ替わりで7、8名の講師の方にアドバイスや宿題をいただいて、次の講師が来られたら発表して、また宿題とアドバイスをもらうという流れを繰り返して、ようやくここまできました。4回ステージを設けたのですが、学生たちも毎週試行錯誤をして成長してこられたと思います。
根本:“未来のアウトドア用品”という同じテーマでも、これだけ違うものが出て来るわけですから、頭が柔軟なんだなと感じました。捉える視点によって様々なものが生まれてくるというのは、学生さんがそれぞれ自由に考えられるということですね。それは私にとって、すごく初々しくて懐かしく、羨ましく思えました。私は商売にどっぷり浸かっているので(笑)、どうしても先入観があります。「これは売れないな」と切ってしまうアイデアも、そこで諦めないで、もうひとひねりすれば売れるようになるかもしれない。制限がある中での商品開発は偏ったものになりがちなので、たまにはそういうのを全部取っ払って考えるのも必要じゃないかな、と気づかされました。
上原:学生にとっては、売れるためにはどのようなものが必要かをしっかりと調査と分析を行い、アイデアを出していく過程を学べたと思います。「カッコイイのができた!これ売れますかね?」というものではなく、市場のニーズをしっかり考えるのがプロダクトデザインだということを、この授業でしっかり押さえて欲しかったんです。それは車も家電も、アウトドアも同じです。そういった意味で、マーケティングの世界でプロフェッショナルである方々をお呼びできたというのは、今回とても大きかったですね。
─では最後に、今後社会で必要とされる人材についてお聞かせください。
根本:前向きでへこたれないポジティブな人間がいいですね。人間、長所を伸ばしていく方が絶対にいいですから。学生の皆さんはこれから様々な分野で活躍されると思いますが、常にイノベーションを考え、めげずに自分の考えたことストレートに表現実行できる人になってほしいと思います。間違えたら修正すればいいだけの話。失敗するほど人間は大きくなっていきますから。
上原:まさしく、そういう人材を育てたいと思っています。やる前から失敗を怖がるのではなく、やってから悩んで学んで成長すればいい。ものごとをポジティブに捉え、社会の色々な問題を解決するのが我々プロダクトデザインの使命。それに果敢に挑戦していってほしいです。そろそろ就職活動のシーズンですが、採用側の方々もそういうことを期待されているようです。
─今回の授業で、短いスパンで発表と講評、宿題を繰り返したことは、その実践ですね。
上原:そうです。またその実践の中で、商品開発スタッフの若い方と学生がどうやって根本さんを説得するか、プレゼンテーションの力について話し合っているんですよ。そういう現場の声は彼らにとって非常に勉強になります。講義室だけでは学べないことですね。
岩佐真吾 プロダクトデザイン学科3年
今回の産学連携では商品開発部門のプロフェッショナルから学ぶことに意義を感じたと語り、人々の価値観に響くプロダクトを考える意欲を高めている。
─今回の授業ではどのような作品を提案されましたか?
岩佐:僕が考えたのは、アウトドアの場で使える“つなげて作るプロダクト”です。1つのパーツをいくつもつなげて組み合わせることで形状を変化させ、その場の雰囲気や気分に合わせて、ラケットのような遊び道具にしたり利便性のある箱のようにもすることができます。本来は、ユーザーの体験価値を知るために、顧客行動を視覚化したカスタマージャーニーマップを作成してから製作に入りますが、今回は若者にターゲットを絞り、自分がサーベイキャンプで感じた価値観からアイデアを出していきました。
─どうしてそのような発想に?
岩佐:コールマンさんからのミッションは、20代若者の新規顧客獲得のための商品ということだったので、自分たちが感じたことを素直に出した方がいいと思いました。福島の「フォレストパーク あだたら」という所で1泊2日のサーベイキャンプを行ったのですが、すごく楽しかったんです。コールマンさんから貸していただいた道具が豪華でとても充実していました。キャンプは1度行ったことがありましたが、アウトドアは道具で楽しさが全然違うという気づきは大きかったです。
─アウトドア用品のプロダクトならではの学べた点はありましたか?
岩佐:機能性を重要視するところでしょうか。構造に関して、実際に製品として成り立つように実証と検証にかける期間を長く取りました。これまでも車などの産学連携に参加しましたが、商品企画からデザインまでこれほど実現性を考えながら取り組んだことはなかったように思います。商品となるために必要なこと、何をすればいいかを1つひとつ考えていくようになりました。
─プロダクトに対する姿勢が少し変わったようですね
岩佐:そうですね。1、2年生の時の課題ではユーザーは想定するものの実際に作る所まではやっていなかったので。コールマンさんの商品開発部門の方々にも刺激を受けました。イノベーションを起こすアイデアを持って、プロダクトデザインに取り組んでいきたいと思うようになりました。これからも使う人の気持ちやシーンを明確に考えながら、デザインしていきたいです。
松本あいら プロダクトデザイン学科3年
自動車メーカーのカラーデザイナーを目指し、インターンシップも経験。シーンや質感を意識したキービジュアル作りを行い今回のプレゼンテーションに臨んだ。
─松本さんは、商品を提案するのではなく、読書を楽しむキャンプなど、テーマを持ったキャンプスタイルの提案をされましたね。
松本:最初はインスピレーションがわかなくて、製品のイメージがなかなかできませんでした。でも、初めて行ったサーベイキャンプで大きなヒントを得ました。確かに楽しかったんですけど、帰ってきて皆の話をよく聞くと「本当はもっと遊びたかった」「女子はお茶飲んでのんびりしてるけど、俺らは何していいかわからなかった」など、結構不満を持っていたことが分かったんですね。それぞれしたいことがあるのに、同じ空間で同じことをやろうという空気に不自由さを感じていたんです。そこから、1つの製品をいろんな人に当てはめて使うのではなく、それぞれがやりたいことをやれる提案が必要だと思いました。
─テーマに沿ったキャンプ用品の展示は個性的でした。
松本:アウトドアやキャンプの本やホームページを見ると、季節ごとの楽しみ方などテーマに沿ったものが多く、アウトドアでの過ごし方という所に着目し内容を考えました。プレゼンテーションの時の展示では、コールマンさんから商品を沢山お借りして、よりイメージを伝えることができたと思います。
─商品を作らない提案というのは難しかったのでは?
松本:確かにプロダクトデザインというより企画に近かったのですが、講師の方からマーケティングの視点でアイデアをもらえたのでやりやすかったです。月に1度のペースで意見をもらいながら、良い雰囲気で取り組くめました。講師の方からは、セット販売するなら組み立ては中国で…とか言及される部分はあったのですが、最終的には「そういったことを考えないでやってみなさい」と言われたことが力になりました。講評では、こういった提案がこれから必要となる、という言葉をいただきました。
─コールマンの方々とのやりとりから多くを学べたんですね
松本:はい。アイデアを1つ話すと、いろんな意見が返ってくるんです。実際に山に行ったら、とか、マーケティングでは、とか多くの視点から言葉をもらえて、いつもの授業だけでは分からない考え方を学ぶことができました。
─今回学んだことをどのように活かしていきますか?
松本:私は将来、車メーカーのカラーデザインをやりたいと思っているんですけど、ものを作るだけでなく、お客様にどう感じてもらいたいか、を考える意識はこれからも大切にして今後につなげていきたいと思っています。