高校生の皆さんへのメッセージ

いま我々が直面している現実は、 まだ誰も経験したことがない未曾有のもの。だから僕は、真っ白な原稿用紙に作品を書いていくように、何もないところから言語の力でクリエイトしていける学生を育てていきたいのです。もちろん文芸学科でもいわゆる文学部と同じように文学や思想について学んでいます。でも大きく違うのは、その目的。ここにいる学生たちは自分の書く作品をより良くしようと、「表現するための言語」を教えてくれる過去の文学と向き合い、文章力を鍛え、体の中にナラト ロジー(物語論)を埋め込んで卒業していくのです。作家になるのは至難の業だし、 言語というのは自分の人生を対象化することで出てくるものなので、時間だってかかります。でも書き続けていれば絶対どこかでデビューできると僕は信じています。

「大学案内パンフレット」より

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「僕のアーバンブルーズへの貢献」

 これでいったい何回目のブログ開設であろうか。アメリカではブログなるものが流行っているぞと日本にいる私の耳に届いたとき、世はテキストサイト全盛期であった。少なくとも私の視界範囲内では全盛であったのである。げらげら笑いながら面白い文章を読み、様々なサイトを巡り、時には当時はまだ少ないネット小説を読んだりもしていた。これがあるのにブログとか! weblogの略でブログとか! みたいなテンションだったのが、数か月後にはブログを開設し、自分でカスタマイズをしながら、よくわからんことを書き連ねていたことを覚えている。少し経つとアメーバーブックスの人からメールをもらい、面白いこと書いているからアメーバブログに全テキストを移行させて、そのまま出版しちゃいなよ!と「YOUしちゃいなよ!」みたいなノリの勧誘が来たりしたが、学生だった自分は面倒だったので返事もせずに放置していたことを思い出す。のちにそのアメーバーブックスの編集長が東北芸術工科大学芸術学部文芸学科の学科長になり、私の上司になるとは全く考えていなかった。考えようがないではないか。

 学生時代に書いていたブログはサービス自体がなくなり、ウェブ上からは完全に消え去っている。自分自身でバックアップもとっていないので見ることはできないし、何を書いていたのかも覚えていない。そのあとも、いくつかのブログを作り書き連ねてきたが、だいたい途中で終わっている。いまだに続いているのはtwitterぐらいである。あれはいい。短い。それに比較してブログを更新するために、広大な、それはそれは広大な、twitterに比べると幅広い記入部分を見るとげんなりする。ここに文字を埋めることを拒否したくなっているので、仕方なく、論文執筆で慣れているwordを立ち上げてしまったぐらいである(なのでこれはwordで書いている)。

 したがって学科のブログであろうとも続かないかもしれない。特に忙しくなったら、三行で更新しそうである。今北産業である。写真と一行のコメントがつくだけになったら、何か忙しいのだな、と推察してほしい。できればそっと微笑むぐらいはしてほしい。Twitterとかで余計なことはつぶやかないように。

 学科のブログなので中身のない話だけしておしまいだとつまらないので(そしてどこからか怒られそうなので)、私が担当している授業の話をしよう。2015年度ではいくつかの授業を担当したが、通称「選」と呼ばれている授業を受け持っている。前期の火曜日の昼ぐらいにやっているので、東京で用事があると前日まで都内におり、夜に山形に到着するというスケジュールとなり少し疲れた顔をしている時間帯である。その「選」は教員が選んだ短編を学生とともに読み、要約し、内容把握していくという一年生向けの基礎的なものになる。教員が選んだ作品を読むから「選」と呼ばれている。この授業を担当するにあたって私が決めた個人的なルールがあって、

1:毎年、違う小説を取り上げること。
2:エンターテイメントであること。
3:様々なジャンルを取り上げつつも、授業内に流れがあること。

というものがある。少し後悔をしている。なぜこのようなことを決めてしまったのかと。最初は毎年違う作品だけではなく作家自体も変えようかと思っていたが、これは却下した。却下してよかった。ほっとしている。このルールを却下したおかげでこのままいくと3年連続で北村薫氏を取り上げることになり、ファンとしては喜ばしい限りである。3つ目に挙げた「流れ」というのは結局のところ独りよがりではあるのだが、何となくのジャンル分けというやつである。例えば2015年度の初回から第4回目までは以下のものを取り上げた。

東川篤哉「ゆるキャラはなぜ殺される」(『宝石ザミステリー 冬』2014)

宝石 ザ ミステリー2014冬

北村薫「砂糖合戦」(『空飛ぶ馬』創元推理文庫、1994)

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)

似鳥鶏「今日から彼氏」(『まもなく電車が出現します』創元推理文庫、2011)

まもなく電車が出現します (創元推理文庫)

坂口安吾「ああ無情」(『明治開化 安吾捕物帖』角川文庫、2008)

明治開化  安吾捕物帖 (角川文庫)

 ミステリィである。そして私の好きな「日常の謎」と「ライトミステリィ」を意識してみたわけだ。授業内では数十分でわかるミステリィの歴史みたいな話もしたが、同時に似鳥鶏作品の表紙で描かれている眼鏡っ子は柳瀬さんでよいのか問題にも言及した。できれば眼鏡はかけていただきたい、柳瀬さん。もちろん真面目な話もしていて、「砂糖合戦」がただ会話をしているだけなのに、なぜこれほどまでに面白いのかも喋った。これは面白くもないことを脈絡もなく喋っているだけの短編を読まされ、書いた学生に対して制作意図を聞くと「日常系です」と答えられて閉口することへの対策である。そして4回目は少し毛色を変えて、翻案とは何かということを考えるために坂口安吾を取り上げた。もちろん、この翻案作品といえば「UN-GO」である。授業内でも流したが時間がなくて続きは自分で見て、となってしまったのは残念。疲れたので今回はここまで。

UN-GO 第1巻 初回限定生産版Blu-ray

BGM:小沢健二「ある光」

ある光

編集とは何か

はじめまして、野上勇人です。

私は2015年度から文芸学科に参画し、主に編集系の授業を担当しています。

長い間、編集者として仕事をしてきましたが、作家や漫画家に比べて、編集者とは何をする人なのか、一般に見えにくい存在です。かくいう私も大学3年生まで、その存在すら知りませんでした。

そんな未確認生物「編集者」ですが、世の中に出ている本は、実は編集者が企画して、それを作家や漫画家に書いてもらっているものが多いのです。

「山川さん、こんなテーマで小説を書きませんか?」

「川西さん、こんな取材をしてそれを小説にしませんか?」

「石川さん、こんな内容で評論を書けませんかね?」

「池田さん、こんな本の書評を書いていただけませんか?」

「玉井さん、幼なじみに萌えたことってあります?」

というように、書き手(=専門家)に書いてほしいことを提案するのは、編集者の重要な仕事です。

そのあたりの仕事は、ともすると「かっこいい」のかもしれません。

しかし編集者の仕事はそこで終わりません。

原稿を書いてもらったら、それをチェックして、整理して、デザイナーに渡して、校正紙ができてきたら書き手に渡して、自分もチェックして、修正を入れて、またデザイナーに渡して、データを修正してもらったら印刷会社に渡して、また校正紙ができてきて、また書き手に渡して、自分もチェックして、修正を入れて……。

そうした細かいやりとりもすべて行います。

書き手、写真家、イラストレーター、漫画家、デザイナー、DTP制作会社、印刷会社などなど、多くの人の中心にいて、それぞれをつなぐ役目をするのが編集者です。本ができたらプロモーションもします。新刊リリースも制作します。

かっこいいだけではなく、泥臭い仕事でもあるのです。

そんな役割を果たす編集者がいないと、本は世の中に出て行きません。

私はそんな仕事が好きでずっとやってきました。

本当に大変な仕事ですが、そのぶん、本ができて世の中に出たときの感慨はひとしおです。

書き手の皆さんにとって出版とは、もしかすると「裸になる」とか「世の中に晒される」という感覚なのかもしれませんが、編集者にとっては「さあ皆さん、この本を読んでみてよ!」というように、我が子を晴れ舞台に送り出すような感覚です。その感覚には魔力があり、とり憑かれるとやめられなくなります。私も20年近く編集者をしてきましたが、いまだにその魔力にとり憑かれたままです。

そういう感覚をぜひとも若い人たちに教えたい。

文芸学科の授業には、そんな気持ちで取り組んでいます。

 

はじめまして

 はじめまして。文芸学科の教員の川西です。
 大学では、創作をメインに教えています。

 創作を教えることなどできるのだろうか? と思われるかもしれません。できるかできないか、やってみないとわかりません。というわけで、文芸学科の創設から五年、やってきたのですが、そのつたない経験からすると、技法を教えることはできます。
 語弊があるかもしれませんが、技術は機械的に繰り返していれば、やがては身につきます。すぐに、というわけにはいきません。なんにせよ、技術を習得するには地道な粘り強い努力が必要です。

 技術を習得する過程でセンスも身につけられるはずです。技術を使うにはセンスが必要なのですね。必要は発明の母、というわけで、求められる感性は技術を習得する過程で磨かれていきます。センスが伴わないと、技術が使える、とは言えないのです。

 さて、では、創作への情熱とかテーマ性とかはどうなるのか、と言いますと、技術が身につけば、書きたいものも見えてくる、と私は思っています。正確に言うと、自分が今持つ技術で書けるものが見えてくる、となるでしょうか。書きたいけれど、今の技術では書けないもの、は、はっきりと全貌をつかむことができません(当たり前ですが)。高いレベルを目指しつつ、今、書けるものを書いていれば、やがて、書けなかったものが書けるようになるはずです。

 私自身、修行の過程にあります。書きたいけれど書けないものがあって、それが書けるように(怠けながらも)書き続けています。

 文芸学科の4年間でどれくらいのレベルまで達するのか、それは人によって異なります。早く書けるようになれば良い、と言うものでもないと私は思います。それぞれの人に適したスピードはあるのではないでしょうか? 怠けずに(私は反面教師です)、こつこつと書いていれば、しかるべき時にレベルに達するはずです。

 不放逸にて精進せよ。

 お釈迦さんの遺言です。言い遅れましたが、私は僧侶でもありますので、この遺言を自分への戒めと励みにしています。ま、実態は、放逸にて不精進だったりするのですが……。怠らず、精進を続けられるようになりたいものですね。

 というわけで、初回から思いがけず長文になってしまいました。
 次は短文にしたいと思います。
 それでは、また。

文芸ラジオのラジオ 第6回

2016/01/26 に公開 東北芸術工科大学芸術学部文芸学科が発行する文芸誌『文芸ラジオ』の編集部がお送りす­るラジオです。編集部の教員(池田雄一、玉井建也、野上勇人)が喋っています。今回の­内容は1:文芸ラジオの編集の様子、2:東北芸術工科大学卒業制作展の話、3:PHO­TO FESTAについて、4:第154回芥川賞直木賞の雑感、です。

 

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文芸ラジオのラジオ 第5回

 

2015/11/30 に公開

東北芸術工科大学芸術学部文芸学科が発行する文芸誌『文芸ラジオ』の編集部がお送りす­るラジオです。編集部の教員(池田雄一、玉井建也、野上勇人)が喋っています。今回は­学生編集員(佐久間くん、松本さん、今野くん)をゲストとして迎えました。今回の内容­は先日行われたイベント「吉木りささん公開インタビュー」の話、2号に掲載予定の前田­日明さんインタビューの話、およびゲストが最近読んだ本の紹介です。それぞれ紹介した­のは幸村誠『プラネテス』(佐久間推薦)、ジョージ・オーウェル『動物農場』、谷崎潤­一郎『鍵』(松本推薦)、相沢梨紗『RISAGOHAN RECIPE』、珈琲『のぼる小寺さん』(今野推薦)です。なお、今回からBGMがつ­きました。

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文芸ラジオのラジオ 第4回

 

2015/10/08 に公開

東北芸術工科大学芸術学部文芸学科が発行する文芸誌『文芸ラジオ』の編集部がお送りす­るラジオです。編集部の教員(池田雄一、玉井建也、野上勇人)が喋っています。今回の­内容は10月17日(土)に行われるイベント「吉木りささん公開インタビュー」の話、­および最近読んだ本の紹介です。それぞれ紹介したのは中村文則『教団X』、タイラー・­ハミルトン、ダニエル・コイル『シークレット・レース―ツール・ド・フランスの知られ­ざる内幕』(池田推薦)、中山可穂『愛の国』(野上推薦)、小原愼司『菫異邦』(玉井­推薦)です。

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文芸ラジオのラジオ 第3回

2015/09/07 に公開

東北芸術工科大学芸術学部文芸学科が発行する文芸誌『文芸ラジオ』の編集部がお送りす­るラジオです。編集部の教員(池田雄一、玉井建也、野上勇人)が喋っています。第3回­目のゲストは山川健一さん、石川忠司さん、川西蘭さんです。つまり文芸学科教員が全員­で喋りました。内容は大学が夏休み中の出来事、山川健一さんのライブ、新人賞への応募­を待ってます、などです。

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