デジタルシネマ時代の小規模映画の上映形式の研究

東北芸術工科大による研究プロジェクト
2014-10-07

01_DCPとは?

【デジタルシネマとは】
フィルムを用いず、デジタル・ビデオカメラなどによって撮影して、編集などのポスト・プロダクションから配給や上映に至る各プロセスで、デジタル・データが使われている映画。

【DCPとは?】

デジタルシネマ・パッケージ (Digital Cinema Package)

デジタルシネマの上映用データ・ファイル。
(デジタルシネマ・サーバーを使ってDCP用プロジェクターによってスクリーンに映写するための複数のデータ・ファイル一式がパッケージされているもの)。

デジタル・データであるDCPは、物理的にはハードディスクなどに格納されて劇場などに配送される。そして、上映者側でシネマ・サーバーにDCPデータをあらかじめインジェスト(取り込み)したうえで、上映の際にサーバー上でデータ・ファイルを再生しながら、プロジェクターによって映写を行なう。

 

【なぜDCPが開発されたのか?】
DCPが開発された目的としては、映画館などにおいて35mmフィルム映写に代替するものとして用いられるために、35mmフィルムに近いクオリティのデジタルシネマとして新たな標準規格となるものとして開発されたという経緯がある。
以前には映画を上映するために35mmフィルムが標準的に用いられていたが、撮影やポスト・プロダクションなど製作におけるデジタル化が進んだことと並んで、映画産業の縮小に対する合理化の流れのため上映のデジタル化が推進され、35mmフィルムに替わるものとしてDCPが劇場上映のスタンダードとされるようになった。

35mmフィルムによる上映は1895年に始まって以来100年以上に渡って継続されてきたが、世界的に2006年頃から上映のデジタル移行が本格化し、3D映画の浸透および35mmフィルムでの配給本数の激減などと並行して、2009年頃から2012年にかけて急激に進んだ。2013年末の時点で日本ではミニシアターを含む全スクリーン中の95%がデジタル化している(全世界では90%、ノルウェイ・オランダ・韓国100%、フランス96%、イギリス95%、アメリカ・カナダ90%、イタリア65%、スペイン約50%)。

2014-10-07

02_DCPの仕様について

DCPの標準仕様として、画質などについて、ハリウッドのメジャー映画会社7社による組織DCI(Digital Cinema Initiatives)が2006年に仕様を定めている。

また、映像と音声の同期などファイルの規格について、米国映画テレビ技術者協会がSMPTE規格を定めている。

解像度については、画面サイズ2K(2048×1080画素)と4K(4096 x 2160画素)の2種の仕様がある。

 

色深度(駆動ビット数)12bit
色表現はCIE色座標である「XYZ」色空間(※RGBのYUV色空間とは異なるため、変換作業が必要とされる)
ガンマ値 2.6 /白の色温度 約6500K 
(※デジカメやモニターなどの色空間「sRGB」は、ガンマ値2.2/白の色温度約6300Kで、異なっている)

フレームレートは、基本的に24fps(または25fps、30fps)。3Dで48fpsなどハイフレームレート(HFR)もある。

映像ファイルは、JPEG2000方式のコーデックとなる。
DCP作成時に、ファイルをパッケージングする際に、転送レート250Mbs以下(2時間作品で総容量250GB以下)に圧縮される。

2014-10-07

03_DCPのデータ・ファイルの構成について

DCPのホルダーの中には、下記の8種類のファイルがある。

分類すると、コンテンツ・ファイルとして1~4の映像・音声・字幕のファイルがあり、その他のファイルはコンテンツ・ファイルを管理するためのものである。

 

1)映像ファイル Picture Track file(.mxf)
DCPにおける映像データは、静止画連番ファイルとしてJPEG2000コーデックで圧縮されたのちMXF形式でラッピングされている。

2)音声ファイル Sound Track file(.mxf)
DCPにおける音声データは、映像と分離されたファイルで、非圧縮の状態でMXF形式でラッピングされている。

3)字幕ファイル Subtitle Track File(.xml)
上映時に映像にかぶせて表示させる字幕についての情報で、タイムコードと表示するテキストデータ及び表示形式を示すメタデータとなっている。

 

※2バイト文字(例:日本語、韓国語、中国語)では、字幕を映像にかぶせて上映する際に問題が発生する場合がある。
※字幕ファイル・字幕用フォントのファイルを用いずに、映像内に字幕を入れ込んで保存した映像ファイルによって字幕版とする場合もある。

(あるいは、字幕を表示させるために<字幕のXMLファイル+字幕用フォント>という方式ではなく、字幕の文字を画像として保存したPNGファイルを字幕用ファイルとして使用するという場合もある)

4)字幕用フォント
字幕を表示するためのフォントのデータ。フォントコンプレッションというソフトウエアで、その映画に必要なフォントのみを抽出したあとDCPに組み込まれる。

5)コンポジション・プレイリスト Composition Play List(CPL.xml)
コンテンツ・ファイルを再生するために、複数の映像・音声・字幕などのMXFファイルの連なりを示すメタデータ。上映時にDCPがサーバー上でスムーズに動作するためには、コンポジション・プレイ・リスト(CPL)が重要になってくる。

また、既存のDCPに他のコンテンツ・ファイル(現地語の字幕・聴覚補助や音声ガイドなど)を付加することも可能で、その場合にはそのバージョンのための新しいCPLを作成して追加する。

6)パッキングリスト Packing List(PKL.xml)
ひとつのDCPは複数のCPL(音声言語や字幕言語の異なるバージョン、予告編など)を持つことができるが、PKLはCPLのハッシュを含んでいて、DCPをサーバーにインジェストする際にデータが破損していないか、または間違っていないかをチェックするために使用される。

7)アセットマップ(ASSETMAP.xml)
DCPに含まれる全ファイル の識別情報をリスト化したメタデータ。

8)ボリュームインデックス(VOLINDEX.xml)
ひとつのDCPが複数のメディアにまたがって収納される場合に、それぞれの容量を示すメタデータのデータ群で構成されている。

※また、セキュリティのためにDCPが暗号化されている場合は、暗号解除するKDMキー(Key Delivery Message Key)も、別途に必要となる。

2014-10-07

04_DCP制作の主なワークフロー

撮影、録音

編集

ダビング(2chステレオ、5.1ch、7.1chサラウンド等 → 48kHz 24bit WAVファイル)

グレーディング=色調整および色情報の調整

映像データ書き出し、動画ファイル(ProRes422HQ,4444/DRX/aviなど)

静止画連番ファイル化 (高画質非圧縮Tiff )=【DSM デジタルソースマスター】


高画質非圧縮Tiff の静止画連番ファイルをJPEG 2000静止画連番ファイルに変換(1ファイルサイズ約1/6に圧縮)、カラープロファイル「RGB」から「XYZ’」に変換

JPEG 2000静止画連番ファイルを、映像MXFファイル化

音声ファイル(48kHz 24bit WAV、2chステレオ、5.1chサラウンド、7.1chサラウンド)を音声MXFファイル化

セキュリティのための暗号化

パッケージ化【DCP デジタルシネマパッケージ】

チェック試写を行ない、画質音質やファイル再生の問題がないかを確認する

DCPをHDD(ハードディスクドライブ)などに格納して劇場へ納品する

上映日・場所を設定した暗号鍵「KDM」(Key Delivery Message)を発行

上映者側でシネマサーバーにDCPをインジェストしたうえで、KDMキーで暗号を解除する

上映

2014-10-07

05_DCPのファイル名の付け方について

”Digital Cinema Naming Convention”によってDCPのファイル名の付け方が定められている。

ファイル名で、DCPの概要情報を表示するかたちになる。

作品名_種別(本編FTR、予告TLR、広告など)_画角(フラットF、スコープSなど)_音声及び字幕の言語(日本語JAなど)_レーティング_音声タイプ(5.1、7.1、モノ、ステレオなど)_解像度(2K、4Kなど)_スタジオ_制作日_制作ラボ名_3D仕様_パッケージタイプ(OVなど)

2014-10-07

06_DCP用語集

DCP(Digital Cinema Package)
暗号化・圧縮化された映像・音声・字幕データ等一式を含んだ上映用ファイル。

DCI(Digital Cinema Initiatives)
デジタルシネマの技術仕様を制定することを目的に、2002年にハリウッドのメジャー映画制作スタジオ7社が設立した会社。また、DCIによって策定されたデジタルシネマの標準化の規格。
Digital Cinema Initiativesサイト(英語版)→ http://www.dcimovies.com/

DLP(Digital Light Processing)
テキサス・インスツルメンツの登録商標で、DLPチップによる高解像度画像と高速な動画応答性能を持つ高画質プロジェクター技術の総称。DLP CinemaRは映画館の上映向けに特化している。
詳細は、テキサス・インスツルメンツ社サイト(日本語)参照→ http://www.dlp.com/jp

SMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)
米国映画テレビ技術者協会、また、米国映画テレビ技術者協会による映像と音声の同期(タイムコード)の規格の呼称。
(DCP初期には「Introp(インターロップ)」という規格も使用されていたが、SMPTE規格に移行した)

KDM Key (Key Delivery Message key)
暗号化されたDCPの暗号を解除するためのキー。KDMはサーバー個体ごとのシリアルIDで異なる。

インジェスト(ingest)
製作者・配給者からハードディスクによって上映者に配送されてきたDCPのデータファイルを、上映用のシネマサーバーに取り込むこと。ポートにはUSB2.0とSATAが採用されていて、データの取り込みにかかる所要時間は、作品の上映尺の実時間と同じくらいかかる。

JPEG 2000 (Joint Photographic Experts Group)
コンピュータなどで扱われる静止画像のデジタルデータを圧縮する方式のひとつ。JPEG は、処理負荷の少ないように作られていたが、JPEG 2000では画質と圧縮率の向上を優先している。また JPEG で直面した様々な問題を抜本的に解決する試みも行われており、ISO/IEC 15444-1:2000などにおいて国際規格制定がなされている。

Tiff(ティフ、Tagged Image File Format):保存を繰り返しても基本的に画質が劣化しない画像データを、解像度や色数、符号化方式が異なるものでも様々な形式で一つのファイルにまとめて格納することができるため、アプリケーションソフトに依存することがあまり無いフォーマットであると言える。DCP作成にあたっては、まず動画ファイルからTIFF連番静止画ファイルに書き出したうえで、JPEG2000に変換をおこなう。

2014-10-07

07_DCPの利点/注意点について

<DCPの利点について>

 35ミリフィルムに代わる大型スクリーン上映に適したクオリティで作品を上映することができる。
 また国際的な標準規格のため、世界各地の映画祭や日本全国の映画館などで上映することが可能になる。

・映像品質
製作プロセスにおいては、撮影したデジタル・データを活用して、スムーズに編集やポスト・プロダクション作業を行なうことができて、35mmフィルムに近い画質で上映することができる。
上映においては、フィルム上映の場合にあったフィルム磨耗による品質劣化が発生せず、常に鮮明な映像で上映することができる。

・汎用性
国際的な標準規格としてDCIの仕様が定められているため、世界各地の国際映画祭や日本全国の映画館などで上映できる。

・コスト削減
製作費としては、フィルムに比べて撮影費用の削減となる。
現像代フィルム代が削減できるほか、配給経費としてフィルムの発送や保管の費用が削減できる。

<DCPの注意点について>

・物理的に存在するフィルムと違い、DCPは目には見えにくいデータであるため、その作成、運搬、保管に細心の注意が必要になる場合がある。
 特に、データ作成としてのDCPパッケージングが完了したうえで、出来上がったDCPをスクリーン試写してチェックすることが必要であり、動作チェックやクォリティ・コントロールが課題となる。

・DCPに限った事ではないが、上映機材にトラブルが起きた場合、その場で対処することはほぼ不可能なシステム構成になっている。

・DCPデータの長期保存については未だどの作品でも検証されておらず、問題が発生することがありえる。

2014-10-07

08_DCP作成のそれぞれの場合について

その1)現像所やポスプロスタジオなど専門業者に依頼する場合
○品質管理がなされる。
△費用がそれなりにかかる。

その2)DCP自家制作を行なう個人や業者に依頼する場合
○機材や知識のある人に委ねることができる。
△自家制作の知識や機材にバラつきがあり、品質管理が課題となる。また依頼する方にも相当な知識が必要となる。

その3)自分でDCP自家制作をする場合
○DCP作成の方法の中では比較的に費用はかからない。
△知識や機材など全てにおいて自分で用意する必要がある。品質管理が課題となる。また出来上がったDCPの試写チェックや納品管理などのすべてを自分の責任で行なわなければいけない。

(特に、大きな容量のデジタルデータを扱うことになるので、PCのメンテナンスや管理などが注意すべきポイントとして重大になってくる)

2014-10-07

09_DCPとブルーレイの違いについて

【DCPとBlu-rayの規格の違い】   
DCPは従来の35mmフィルムの代替として大型スクリーンに映写するために開発された2K、4Kの比較的低圧縮・高画質の業務用規格のデータファイルの形式であり、一方のBlu-rayは動画をモニター視聴したりデータ保存するための民生向けディスクの規格である。
したがって、規格の設計方針や設定されているクオリティのレベルが異なる。

※Blu-rayはディスクの規格のことを指し、画質や音質を考える場合には、Blu-rayというよりも、選択するBD-ROM-videoのProfile 1.1に準拠したBDMV(Blu-ray Disk Movie)で使用する圧縮コーデックによって決まると考えるべきである。

根本的な違いは、DCPは、35mmフィルムの1秒間に24コマの静止画という仕組みを引き継いで静止画連番形式で保存されたファイルで、BDMVによるBlu-rayは動画形式で保存されたファイルである。

【映像と音声のフォーマットについて】
DCPは、映像はJPEG 2000コーデックとなり、音声は非圧縮の24bit 48kHzまたは96kHzの音声ファイルとなる。
Blu-rayはBDMVにおいてMPEG-2/MPEG-4  H.264/VC-1等のコーデックで圧縮された一つ(または複数)の動画ファイルある。音声フォーマットは、リニアPCM、AC-3、DTSデジタルサラウンド、ドルビーデジタルプラス、ドルビーデジタルロスレス(Dolby TrueHD)、DTS-HDマスターオーディオなどが使用できる。

 

【画面解像度とフレームレートについて】
DCPの画像解像度は、2K(縦2048×横1080画素)または4K(縦4096×横2160画素)
フレームレートは、24fps、25fps、30fps、48fps、50fps、60fps。

Blu-rayの画像解像度とフレームレートは、
HD(16:9)の場合
1920×1080/59.94i,50i
1920×1080/24p,23.976p
1440×1080/59.94i,50i
1440×1080/24p,23.976p
1280×720/59.94p,50p
1280×720/24p,23.976p
(※1440×1080の場合は、自動的にアナモフィックされ16:9にコンバートされたものが画面に映される。)
SDの場合
720×480/59.94i(4:3/16:9) NTSC
720×576/50i (4:3/16:9) PAL

【カラーについて】
DCPでの色表現はCIE色座標で色空間はXYZとなり、Blu-rayはYUV系でHD画質の場合はYPbPr色空間となる。
DCPのカラーの階調特性を表すカラープロファイルのガンマ値は2.6、ホワイトバランスを表す白色点の色温度は約6500K。

【データ容量について】
データ容量については、DCPは2時間作品で総容量250GB以下程度で、Blu-rayは25GB以下(2層式ディスクの場合50GB以下)となる。

【上映に際して】
DCPでは、映像ファイルと音声ファイルが別個になっており、それらを再生するためのパッキングリスト(PKL.xml)、コンポジション・プレイリスト(CPL.xml)、アセット・マップ(ASSETMAP.xml)、ボリューム・インデックス(VOLINDEX.xml)がDCPに含まれており、上映時にはシネマサーバー上でデータファイルを動作させながら、シネマプロジェクターで映写するかたちとなる。
Blu-rayは、BDMV規格の動画ファイルを、Blu-rayプレイヤーで再生して、それをプロジェクターで映写する。
Blu-rayを上映用のメディアとして使用する場合には、瞬間的な停止状態を含むフリーズなど再生時の問題が発生する可能性が避けられない。

最近の投稿

最近のコメント

アーカイブ

カテゴリー

メタ情報

東北芸術工科大学
TUADBLOG