広報誌『g*g』第5号の表紙は、「卒展プライズ2007」と建築・環境デザイン学科の「最優秀賞」に輝いた花野明奈さんの卒業制作『踊る身体』。
卒展最終日の前日に「卒展プライズ2007」が発表され、建築・環境デザイン学科の「最優秀賞」とのダブル受賞が決まった翌朝も、花野さんは「あまりに高い評価に驚いています。申し訳ないくらいです」といたって謙虚。『土地に住む人々の身体のうごきを知ることで、土地を受け継いでいく新たなカタチを提案するもの』という作品のコンセプトを、訪れる人々に丁寧に説明していました。
ホームセンターで手に入れた電気部品などを駆使して作られた『踊る身体』の模型は、明らかに周囲の展示作品とは趣を異にしていました。他の作品が街や建物そのものを提案しているのに対し、花野さんの作品は、むしろ「時間」や「人の動き」にウエイトが置かれています。発想の出発点は、「建物を建てるときに、そこから見える周囲の風景には目を向けるのに、どうしてその場所そのものは見ないのだろう」という疑問だったとか。「芸工大の建っている場所に棚田があったように、それぞれの土地には歴史があり、その土地に合わせた身体の動きがあったはず。ある敷地に建っている建物が他の土地でも成立するとしたら、それは土地自体に失礼なのでは?」という思いが今回の卒業制作へと駆り立てました。
高校時代の花野さんは、絵を描くことが好きでしたが、特に建築への興味はなかったそうです。むしろ「どうしてどこにでも同じような建物が建てられるのだろう」というアンチテーゼから建築分野に進んだというのですから、その時すでに卒業制作のコンセプトは芽吹いていたのでしょう。2年生の時に、「敷地に建物を建てる」という課題に取り組むようになってその思いはより確かなものになっていきました。
その土地の軌跡を分析するため、まず人間のさまざまな動線に着目。歩く人、田植えをする人、スコップで土を掘る人……。農作業を中心に、胴体、手、足の動きを色違いのラインで表し、さらに住宅設計へと変換させていく独自の手法をとりました。それを新潟県のとある農家の敷地に取り入れてモデルケースとして模型化。そこには、現在そこで暮らしているおばあちゃんが居て、さらに将来そこで暮らすであろう新しい家族が時を越えて同居しています。その土地の歴史やおばあちゃんの軌跡を踏まえて、土地を経験した上で新しい住空間を設計していくことを表現しています。
パッと見て理解してもらえる研究内容ではなかっただけに、来場者への説明はとても重要。説明を受けた人々の反応はさまざまでしたが、もっとも花野さんを喜ばせたのは、「この空間を一緒に旅しているような気分になったよ。」という言葉だったといいます。
卒業制作に取り組んだことをきっかけに、造りたいものが増えてきたという花野さん。自らが考える建築のあり方をさらに追究するために、大学院への進学を決めました。これからもいろんな場所を訪れて、その土地ならではの「動き」に注目し、それを設計、造形へと昇華させていきたいと意欲に燃えています。