大学院洋画領域2年生の田中望さんがVOCA賞を受賞
力強い自然の流れと文化の集合を描いた「ものおくり」

大学院洋画領域2年生の田中望さんの作品『ものおくり』が、40歳以下の将来有望な作家による平面作品の公募展「VOCA 現代美術の展望・新しい平面の作家たち(Vision Of Contemporary Art)」で、大賞にあたるVOCA賞を受賞しました。今年で21年目を迎える同展では、過去に、三瀬夏之介美術科准教授、中山ダイスケグラフィックデザイン学科教授が受賞していて、写真家の蜷川実花氏や人気美術家の清川あさみ氏も入選するなど、現代美術の登竜門として注目されています。

『ものおくり』に描かれているのは、打ち上げられて血を流す巨大なクジラと、その懐で貴重な恵みを受け取った、擬人化されたウサギたちが様々な祭礼を行う様子です。先祖や命など、ありとあらゆるものを彼岸へと送り、次の世代へ贈る大きな流れを一番の骨格にしたという田中さん。「昔の人は、クジラは自然そのものだと思っていたのではないでしょうか。クジラはあの世からシャチが連れてくるという民話もあり、肉の塊であるクジラは、打ち上がれば村ひとつが潤うような貴重な食糧でした。それをもう一度あの世に返す祭りは、神様が生まれる以前から存在する日本の原始的信仰に通じます」。大きな自然、食べ物を巡って小さな祭りが渦のように発生している様は、地域の食文化や歴史の起こりを表現しています。「今の日本は中央に政府があり均一なイメージですが、本来、国は小さな文化の集合体。地域ごとに違った暮らしがあるのが自然な姿です。それらが消えつつある中で、そういった暮らしや文化を大切にすることで生きてくることがあるのではないかと思っています」という田中さん。生き生きとしたウサギたちが行う祭りは、一つひとつ細密に描かれています。

岩手、秋田、肘折温泉など多くの土地を訪れ、地域のフィールドに入って風土や民俗学の研究を行い作品に反映していく民俗学的アプローチは、田中さんの作品制作の特徴のひとつに捉えられています。しかし、そのことについて自身は特に意識してはいないようで「人類学の基本を学びたいという気持ちはありますが、絵画を描く人としてのアプローチを自分で見つけていきたいです」と語っています。田中さんの作品に感じる俯瞰的視点について質問すると「いろいろなことに興味が点在しているから、俯瞰的になるのかもしれません。興味があるものや言葉の関係をマッピングしていくと自然とそうなります。モノやコトの文脈を立てていくと、離れた場所で起こったことも、嘘も物語も、自分ごとになり、それを絵にしたいんです」と答えました。VOCA賞を受賞後、賞のイメージが強く成長過程にある自分のペースと折り合いをつけるのが難しい、と感じたという田中さん。展覧会が終わり、作品を描いてから時間が経過したことで受賞作品への気持ちは次第に薄れ、現在は次の作品を生み出すことへ心を向けています。

大学院1年生の夏以降、庄内地方を頻繁に訪れ、鶴岡の祭りや地域のイベント、農作業を追い現地の人々に話を聞いたという田中さんは現在、依頼された作品の制作を進めながら、酒田市飛島の昔話を集めた絵本を制作中。現地の岸本誠司先生の主導で、卒業生の吉田祐子さん、結城ななせさん、小川ひかりさんらと協力しています。「今までまとめられていなかった飛島の民話を子ども向けの絵本にします。初めて挑戦することなので、やりがいがあります」と、明るく答えました。

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