g*g Vol.24 SPRING 2013

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アートでつなぐ、街と人。
旧・菅原イチローヂ商店の床板や扉を作品化し修了制作に。
ワークショップで新たな出会いの場も提案しています。

2013年2月13日から17日まで開催した2012年度の卒業/修了研究・制作展で、『旧・菅原イチローヂ商店 床板絵』を発表したのは、大学院洋画領域を修了した結城ななせさんです。現在は空き店舗となっている鶴岡市山王町の〈菅原イチローヂ商店〉をアトリエとして借り、地域の人と交流しながら床板や扉、古い机を作品化しました。展示スペースには、作品とともに商店の歴史や、商店を街に残そうとする商店街の動きがわかるようにまとめた冊子も展示。〈菅原イチローヂ商店〉の物語性が感じられる空間となりました。

左:結城ななせさん/2012年度大学院洋画領域卒業、NPO法人公益のふるさと創り鶴岡勤務。右:鶴岡市内を流れる内川の川端にある旧・菅原イチローヂ商店。多くの人がその存在を懐かしむ。

制作のきっかけとなったのは、イチローヂ・まち・川再生協議会(事務局/NPO法人公益のふるさと創り鶴岡)が主催する「山王アートキャンパス」に参加し、2012年10月に旧・イチローヂ商店で展示をしたことでした。アートで商店街を活気づけようという目的のこのイベントでは、芸工大生5名がワークショップを開き、ぞれぞれの制作スタイルで街の人々が街の良さや特徴に気が付いてもらうきっかけづくりを行いました。結城さんは、街の人の協力で得た古い布でフラッグを作り、古く寂しい印象の商店をサーカスのテント小屋のように飾り付け、子どもたちが入りたくなるような空間を演出。店舗内を常にオープンにしてお祭りのような活気にあふれた雰囲気にしました。また、商店街に軒を連ねる20数店舗の外観をハンコにするなどの活動で街の人々と交流を深めたといいます。「イベント開催中はいろんな方が訪れてくれて、昔の話や今の話、様々なことを聞くことができて鶴岡って本当に面白いなあと思ったんです。いろいろな職業や歴史があって、でもそれぞれに接点はなくて。街の人や外の人に、もっとそれを伝えたい、見て触れさせたい!と思うようになりました」という結城さん。11月からは自主レジデンスとして商店を借り、1ヶ月間掃除を行った後、12月から1月末まで鶴岡で修了制作に励みました。

最初は電気もガスもない環境でしたが、商店街の人たちが照明器具や暖房機を提供してくれたことで、少しずつアトリエとしての環境が整っていった旧・菅原イチローヂ商店。結城さんが制作をしていると近所の子どもが遊びにきたり、差し入れが置いてあったりすることが増えてきたのだとか。表題となった床板絵は集まってきた子どもたちと一緒に制作しました。商店の床板を剥がし、洗い乾かしてから描いたのは、太陽と子どもたちが創作した、いきもの。床板を素材に選んだことについて結城さんは「古くて味があっていいから選んだ、というより何年もいろいろな人が歩いた跡がついた床は皮膚のようなもので、それが捨てられるのがとても嫌だったんです」と理由を語りました。また、子どもが自由に出入りできる扉をつけたいと思った結城さんは、商店二階にあった小さく軽い扉を外し装飾して一階部分に取り付けました。卒業/修了研究・制作展ではこれらも展示。どこかノスタルジックな体温と、おしゃべりをしている声が聞こえてくるような温かさが感じられる結城さんの作品は、来場者の注目を集めました。「古いもの、昔からあるもの、いる人に憧れがあります。新しく作れるものじゃないから愛おしいし、ピカピカのものより落ち着きます。光をはね返すようなものではなく、受け入れて溶け込んでいくような作品が創りたいですね」と自身の制作について語りました。

商店街の活性化により旧・イチローヂ商店はリノベーションが決定。現在、結城さんは〈NPO法人公益のふるさと創り鶴岡〉に所属し、リノベーションが完了する11月まで「旧羽黒西部児童館」を拠点に「やまがたこどもアトリエ」を開催しています。月に3、4回のペースでお絵描きや紙・布を使った服作りなど、造形体験ワークショップで地域の人々と交流しています。「鶴岡に来て、樹木医さんや漁師さん、車の解体をしている方とも知り合いました。こどもアトリエでは、そんな地域の方々に先生になってもらいたいです。子ども同士だけでなく魅力的な大人と子どもの出会いの場になればいいなと思っています」。旧・菅原イチローヂ商店のリノベーション完了後は結城さんのアトリエと「やまがたこどもアトリエ」を併設する予定です。捨てられていくもったいないものの価値を大事にして、アートで発信し出会いの場をつくる結城さんの活動で、街と人、人と人とがつながりはじめています。

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