名もなきものに光をあてた、山形文化の核心
『ヤマノカタチノモノガタリ[地域文化遺産の保存と伝承]』を開催しています。

2014年12月13日から23日まで、山形県郷土館文翔館にて『ヤマノカタチノモノガタリ[地域文化遺産の保存と伝承]』を開催しています。この展覧会は、文化財保存修復研究センターが開所して以来、5年間の研究成果を展示したもの。伊勢谷友介氏が代表を務める<リバース プロジェクト>監修の下、文化遺産の保存修復を通じて再発見した山形の文化が物語として感じられる、魅力的な展示になっています。また、文化財保存修復学科歴史遺産学科の学生も実施補助として参加し、貴重な文化遺産に直接触れられる実践的な学びの機会としています。

『ヤマノカタチノモノガタリ』のスタート地点といえるのは、平等院鳳凰堂の阿弥陀仏を作った仏師の祖、定朝の様式をした仏像を設置した、2階の展示室。西川町で新たに発見された、定朝様式の平安末期の仏像、快慶派の弟子が作ったとみられる高畠町亀岡文の仏像など、日本の代表的な仏像制作工房である「七条仏所」の流れを汲んだ仏像の数々を展示しています。また、明治時代まで大江町左沢の居住し、親子4代にわたり活躍した地元仏師 林家の仏像も多く並んでいます。調査研究の結果「七条左京」と銘打たれた仏像の検証から、林家の初代 治作が京都の七条仏所で修行し、「七条左京」を名乗ることを許されたことが判かりました。「二代目文作、四代目治郎兵衛の作品には、一木造という地元仏師の構造的特徴と、都風の造形から京都の影響がうかがえます。京都の仏師と、山形の仏師がつながったわけです」と説明してくれたのは、今回の展示の企画構成をした岡田靖研究員・専任講師。「昔は京都にしか仏師がいなかったので、そこに依頼していました。室町時代後期から江戸時代へ、地方が経済的に潤うにつれて外部との交流は広範囲に及び、地元にも仏師が出てきました。そして、一大ブランドである京都に憧れを抱いた仏師が師事。京都から山形の距離と、中世から近代までの時間の流れを見てとれるのがこの展示室です。そしてこの流れは、1階の展示内容へとつながっていきます」。

1階の展示室は、地域に伝わる山岳信仰と仏教文化の結合を感じさせるものになっています。寒河江市常林寺の仁王像から、白鷹町塩田行屋の御沢仏(おさわぶつ)など鎌倉期から明治期までの仏像が並ぶ様子は、清閑とした中にずしりとした存在感があり観る者を圧倒します。御沢仏の搬出、搬入、展示を手伝った文化財保存修復学科大学院2年生の山内れいさんは「調査研究をしていた仏像が、ライティングや展示方法でこのようにミステリアスな印象になることに驚きました。仏像の良さが引き立つようで嬉しく思います。多くの方に仏像の良さを知っていただき、地域に伝わっていることを誇りに思ってほしいです。そしてこういった地域文化遺産の保存についても意識が高まればいいですね」と語りました。また、展示を手伝ったという文化財保存修復学科3年の金澤馨さんは、「地域の仏教文化と山岳信仰から現代美術につながる流れ、テーマに即した展示を手伝うことはいい経験になりました。僕は立体作品の修復を専攻していますが、文化遺産に直接触れ構造を理解する機会はなかなかありません。教科書だけでは学べない、いい経験ができました」と、学びの充足感を伝えました。

続き部屋に展示しているのは、洋画コース鴻崎正武准教授と工芸コース深井聡一郎准教授の美術作品。地域の文化、信仰を現代芸術へとつなぐ趣向になっています。そして次の部屋には、洋画家、高橋由一の息子で山形と交流が深かったという高橋源吉の作品があります。描かれているのは、観光地として再生しつつある山寺の風景。近代洋画を専門とする研究員、大場詩野子さんは「これまで詳しく知られていなかった高橋源吉ですが、山形に残された彼の作品を繙くと、地域の人との交流や今は失われた山寺の風景が浮かび上がり面白く思います。こういった絵画を保存修復し継承していくことは、当時の景色や様子など、歴史的な歩みを伝えることでもあり意義深く感じます」と語りました。そのほかの展示室には、以前g*gでも紹介した高畠石をはじめとして地域文化を発掘する高畠まちあるきプロジェクトの研究成果や、一大産業であった養蚕業の隆盛を伝える作品、信仰心や思いによって描かれたムカサリ絵画などを展示。地域に根付いてきた文化を振り返り過去を受け継ぐことで、より豊かに生き、未来の創造につなげる道筋を示唆しています。

各研究によって発見した地域文化を部屋ごとに観ていくと、大きな山形の物語が見えてきます。そして、文化の発達は金銭だけでなく、人との交流を生み、また人から人へとつながっていくことに気づかされます。岡田靖研究員は、「調べて終わりではなく、保存していくことが大切。今回の展示で、山形の文化を理解し誇りに思い、守りたいという気持ちが芽生えたら、その気持ちが親から子へ、子から孫へと伝わっていくでしょう。そういった形で山形の文化を守っていくきっかけになればいいですね」と、身近で埋もれつつある地域文化遺産に光があたり、受け継がれていくことに期待を寄せました。

 

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