g*g Vol.25 SUMMER 2013
宮城県気仙沼市唐桑町の大沢地区は、地域としての絆の強い集落でしたが、東日本大震災の津波被害により2箇所に分かれての高台移転が決まりました。建築・環境デザイン学科では、これまでの住民同士のつながりを大切にしながら、これからの暮しを踏まえたエコハウスによる街づくりを提案しています。これまで、地元住民の方の思いや要望を十分に反映させるべく、月に1度のペースで住民、教員、学生等による意見交換会を実施。当初は、なかなか本音を口にしてくれなかった住民たちも、回を重ねるうちにようやく思いを語ってくれるようになってきました。その中で出てきた「地域の核となる場所がほしい」という要望に応えて、避難所生活が続く地元の人々を結び、多目的に活用できるエコハウス仕様の集会所の建設を先行して進めています。目の前にバス停とコンビニという好立地、文字通り、地域の人々の集いの場として、また、エコハウスのメリットが体感できるモデルハウスとして9月中の完成を目指しています。
集会所の建設には企業や財団からの補助金が充てられていますが、それで賄いきれない部分は、このプロジェクトの牽引役である竹内教授が、協力関係にある業者さんへ資材提供の依頼で奔走しています。また、施工日となっている毎週土曜日には、地元の大工さんたちに混じって教員や学生が作業に参加することで、施工面でも経費を節減。しかも、学生たちにとってはボランティアとして実際に役に立ちながら現場を学ぶことができる、一挙両得の素晴らしい経験にもなっています。山形市からは片道3時間という遠距離ながら苦にする様子もなく、学生たちは初夏の陽気の中で現場で汗だくになりながら奮闘。特に、もともと現場に強い関心があったという大学院生の小野寺涼さんは、ニッカポッカに地下足袋姿で周囲から「学生棟梁」と呼ばれるほど現場に馴染んでいました。「学生も作業をさせてもらえる貴重な現場と聞き、初回から参加しています。期待していた以上に色々なことを体験させてもらえるので、すごく勉強になる楽しい現場です。本物の棟梁からみっちり仕込んでもらっています」と小野寺さん。図面の中だけではわからない現場ならではの発見に胸を躍らせているようです。
そんな小野寺さんたち学生をフォローし、現場でも工具を手に奮闘しているのが同学科の卒業生で学科副手の佐藤あさみさん。この集会所の建設は、設計から施工まで、学生が主体的に関わっていますが、役所での事務手続きや施工業者さんへの指示、資材の調達など、学生には難しい領域は佐藤さんが担当しています。毎週の気仙沼通いで体力的には少々きついものの、やりがいのある楽しい現場なのだそうです。気さくに話しかけてくれる人、差し入れを持って来てくれる人、地元の人々の温かさに触れて愛着は増すばかり。「集落が2箇所に分かれてしまっても、ここにみんなが集まって一緒であることを確認できる場所、みんなに親しまれる場所になってほしいですね。さらに欲を言えば、カフェとか商業的な場として活用してもらえたら嬉しいです」と、佐藤さんは、集会所の進化形にも期待を寄せています。
地元の人の反応はと言うと、「期成同盟会を立ち上げたものの、まったく手探りで、頼れるものは頼ろうという思いだったので、芸工大さんからの申し出はとても有り難かったです。今回は、集会所という今もっとも必要なものをカタチにしてもらえたと思っています」と大沢地区防災集団移転促進事業期成同盟会事務局長の星英伯さん。星さんは、昨年2月に山形エコハウスを見学に訪れ、その住宅性能を高く評価している人の一人。エコハウス仕様の集会所ができることで、昨年、見学に行けなかった人にもエコハウスの良さを実感してもらえると期待しています。実際に集会所を活用していく立場としては、使用目的は限定せずに流れに任せて、その時々の必要に応じて変化させていきたいとのことです。先生方の尽力にはもちろん、学生たちの一生懸命な働きにも大変感謝しているという星さん。「ここでの経験が彼らの成長に何かしら役立てているとしたら嬉しいですね。専門的なことはわかりませんが、人生の先輩としてなら私も何かアドバイスしてあげられるかもしれません」と学生たちの成長を応援しています。
地域の核となることが期待されている集会所。その可能性はまだまだ未知数ですが、地元の人々の拠り所として、訪れた人々がこの地区の魅力に出会える場所として、さまざまに形を変えながらも人が集まる場として活かされていくことでしょう。