「ひじおりの灯2015」ーわたしたちの活動記録

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改めまして、「ひじおりの灯 2015」、9月13日(日)夜を持って今夏の点灯を終えました。7月25日(土)からはじまった51日間のロングラン。今年はじめて設けたコアウィークを経て、8月3日(月)からの1ヶ月間は肘折地区の皆さんによる自主運営。山形から遠く肘折のことを、ワクワクしながら思っていました。点灯終了から1週間ほど経った今も、この夏の灯りを思い出すとあかりに照らされた頬が少しあたたかくなるような気がします。それはこの夏に灯された灯籠の物語を思い出しながら、肘折のこと、灯籠を見に来てくださった皆さんや地区の皆さんのことを思い出しているからかもしれません。
ご来場いただいた皆さま、灯籠制作者の皆さま、支えていただいた関係者の皆さま、本当にありがとうございます。地区の皆さまも、大変お疲れさまでした。

▽「ひじおりの灯2015」開幕!―絵語り・夜語り⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=449
▽コアウィークを終えて⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=470
▽『肘学』前半編 湯の上で話す、ロングライフなモノとコト⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=556
▽『肘学』後半編 イメージのなかを旅するはなし⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=587

思えば、今年の「ひじおりの灯」は春の打合せからはじまりました。残る雪がいよいよ溶け出し、周りの山々でブナの新芽があちこち顔を覗かせようとする季節に、地区の皆さんと考えたこの夏の灯りのこと。2007年の夏から8年という月日を経て少しずつ運営の主体を地区の皆さんに委ねていこうとする動きの中で、運営体制の見直しやコアウィーク・湯治部屋での点灯などはじめての試みをも行われました。
5月下旬に行った取材合宿。このプロジェクトが1年、1年と年月を重ねるなかで、かつて灯籠を描いた卒業生の皆さんがまたリピーターとして活動に参加してくれることはとても心強く、何度でも再会はうれしいものです。土地に、人に出会うたび、それまで見えていた肘折とは異なる姿に出会え、灯籠に描かれる物語も変化してくるという彼女らの絵を待ちながら、また肘折の新たな面に出会えるのではないかと胸が高鳴ったこと。また、大学院に進学したばかりの院生の皆さんが「参加します!」と声をかけてくれるたびに、彼女らは肘折でどんな出会いをし、どんな灯籠を描いてくれるのだろうと心踊ったことを覚えています。

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▽9年目の夏がはじまります!⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=297
▽春の取材合宿へ⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=316
▽アトリエと講評と、近づく夏⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=383
▽今夏の灯籠絵が完成しました!⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=410

今夏から肘折地区側の運営体制も少しずつ変化しはじめ、青年団長の早坂さんを中心に「ひじおりの灯実行委員会」が発足。点灯に向けた準備や学生たちの受け入れ、イベントの企画・運営など、地区としてもプロジェクトとしても〈これからの10年〉を受け継ぐ若手の皆さんが中心となって作られていきました。少しずつ変化しながら次の10年に向かうなかで、今までプロジェクトを担ってきた地区の先輩方が、父のようなまなざしで見守ってくれることはとても心強いことです。

ここ肘折では、この土地でずっと暮らしてきた人も、一度都市へ出て他の土地を見て戻ってきた人も、あるいは、余所の土地からこの土地や人に惹かれここで生きようと移ってきた人も、各々が、各々のまなざしを活かしともに暮らしを作っています。かゆいところに手が届く商店街のお店のように、「これだったらあの人だよね」とか、顔が浮かぶ。湯を分け合い、講や雪降ろしなど、生活していく上でともに在ることが必要だからこそ生まれる共同体。そんなコミュニティーもときには逃れられないもののように感じることもあるのかもしれませんが、そうしたつながりこそが肘折という湯治場の姿を色濃くしているように思います。

観光地に行くと、ある意味でそこで暮らす人びとの生活が抜け落ちているように感じることもありますが、ここ肘折は少し違うようです。一歩、裏の通りに入れば、湯の音とともになじみある生活の音が聞こえてくる。湯治客が行き交う表通りでは、宿の若いおかみさんが幼い子どもをあやしながら歩いていて、湯治にきたおばあちゃんが話しかけ、一緒にあやしている。昼間、湯治客で賑わう共同浴場も、夜には地区の皆さんが一日の疲れを流しにやってくる。「また明日」と別れて帰っていくのは旅館の玄関口で、ここも生活があることを知る。仕事の場と生活の場が背中合わせ、というよりも同じ場所にあり、その豊かな場を灯籠を描く学生たちにもいつもひらいてくださっています。

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▽村の祭り 湯坐神社の奉納角力⇒http://blog.tuad.ac.jp/hijiori/?p=545

何度も書いているような気がしますが、肘折に暮らす皆さんとそのコミュニティーはとてもしなやかだと感じます。雪どけのあと、萌え立つ土とともにみずみずしく生きる肘折の山菜のようだなといつも思うのです(が、褒め言葉として受けとっていただけるかは少し不安です)。周りの自然や環境はときに厳しいけれど、それゆえ生きるひとはやわらかい。そんな姿に惹かれ、憧れ、少しでも触れていたいと思って、わたしたちは何度もこの土地を訪れるのかもしれません。

「ひじおりの灯」、来年はいよいよ10周年。10年続けて来れたこと、本当にすごいことだと思います。記念すべきと銘打って大々的にやりたいような、いつもと変わらぬ姿で皆さんをお迎えしたいような、いろいろ想像はふくらみますが、肘折はこれから実りの秋を越え、すこし早めの冬支度。雪の壁に囲まれる冬のあいだも、10年目の春を心待ちにしながら地区の皆さんと作戦を練っていきたいと思います。

仙境霊湯、いくつもの山に囲まれたこの湯治場の夏に灯る物語。灯籠制作者の皆さん、見に来てくれるお客さん、そして何より地区の皆さんにとって、10年目の灯りはどんなふうに映るでしょうか。そして灯り終えたころ、それはどんな記憶としてこの土地に残され息づいていくのでしょうか。この言葉を言えるのは、とてもうれしいことですね。また来年お会いしましょう!

(美術館大学センター事務局 鈴木淑子)

P.S. 「ひじおりの灯2015」の象徴でもあるコアウィークの様子をお届けしながら締めくくります。また来年!↓ (撮影 瀬野広美,FLOT
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